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七斗学院の入学式が終わった日の午後。
静かな高塔の奥、黄色の魔導研究室へと俺たちは呼び出されていた。
癒しの神アスクリィエルに仕える神学と魔導理論の最前線。
薄く光を帯びたステンドグラスからの柔らかな光が、白い大理石の床に静かな模様を描いている。
「ここだな……」
「うん、ジム。大丈夫、一緒だよ」
ククルがいつもの柔らかな微笑みを浮かべる。
ああ、まったく──護らなきゃと思う一番の原因は、この無防備な優しさだ。
ノックをすると、すぐに静かな声が返ってきた。
「どうぞ、入りなさい」
扉を開けた先で出迎えてくれたのは、長い金の髪と水色の瞳を持つ天使──ソフィア教授だった。
「ようこそ。改めて、入学おめでとう」
「ありがとうございます、ソフィア教授」
ククルが丁寧にお辞儀する。
俺も頭を下げたあと、少しだけ警戒して教授を見上げる。
……この人は、ただの学者じゃない。
「あなたがククル君──」
教授の視線は、まるで何かを探るように、けれど優しくククルを見つめていた。
「こうして目の前に立つと……本当に面影を感じるわ」
「面影……?」
ククルが小首を傾げた。
ソフィア教授は少しだけ、切なげに微笑む。
「……私は、かつて存在していた天使王国──エデターエルの王女でした。
この世界で公的に生き残った天使は、私を含めて、兄と義姉だけ。けれど……血の流れは思ったより広く残っているのかもしれないわね」
「……僕が?」
「あなたの出自がどれほどのものか、私には断定はできない。けれど──同胞の血を感じさせる存在に出会えたのは、素直に嬉しいよ」
そう言って、そっとククルの銀髪に視線を落とした。
優しい眼差しだった。
「もちろん、あなたを拘束するつもりはないわ。私はただ──学者として、そして同胞として、あなたの行く末を静かに見守りたいだけ」
「……ありがとうございます、ソフィア教授」
小さく微笑んで応えるククルに、俺は少しだけ安堵する。
この教授は、危ない貴族たちとは違う。好奇心と慈しみで見ているのがわかる。
「そして……あなたには、頼もしい護衛もついているものね」
ちらりと、今度は俺を見た。
俺は反射的に姿勢を正して答える。
「……ククルは、俺が守ります」
「ええ、頼もしい限りだわ。ジム君、あなたにも期待しているのよ」
そのやわらかな声に、なぜだか胸が熱くなる。
──ここからが、俺たちの七斗学院での生活の始まりだった。
静かな高塔の奥、黄色の魔導研究室へと俺たちは呼び出されていた。
癒しの神アスクリィエルに仕える神学と魔導理論の最前線。
薄く光を帯びたステンドグラスからの柔らかな光が、白い大理石の床に静かな模様を描いている。
「ここだな……」
「うん、ジム。大丈夫、一緒だよ」
ククルがいつもの柔らかな微笑みを浮かべる。
ああ、まったく──護らなきゃと思う一番の原因は、この無防備な優しさだ。
ノックをすると、すぐに静かな声が返ってきた。
「どうぞ、入りなさい」
扉を開けた先で出迎えてくれたのは、長い金の髪と水色の瞳を持つ天使──ソフィア教授だった。
「ようこそ。改めて、入学おめでとう」
「ありがとうございます、ソフィア教授」
ククルが丁寧にお辞儀する。
俺も頭を下げたあと、少しだけ警戒して教授を見上げる。
……この人は、ただの学者じゃない。
「あなたがククル君──」
教授の視線は、まるで何かを探るように、けれど優しくククルを見つめていた。
「こうして目の前に立つと……本当に面影を感じるわ」
「面影……?」
ククルが小首を傾げた。
ソフィア教授は少しだけ、切なげに微笑む。
「……私は、かつて存在していた天使王国──エデターエルの王女でした。
この世界で公的に生き残った天使は、私を含めて、兄と義姉だけ。けれど……血の流れは思ったより広く残っているのかもしれないわね」
「……僕が?」
「あなたの出自がどれほどのものか、私には断定はできない。けれど──同胞の血を感じさせる存在に出会えたのは、素直に嬉しいよ」
そう言って、そっとククルの銀髪に視線を落とした。
優しい眼差しだった。
「もちろん、あなたを拘束するつもりはないわ。私はただ──学者として、そして同胞として、あなたの行く末を静かに見守りたいだけ」
「……ありがとうございます、ソフィア教授」
小さく微笑んで応えるククルに、俺は少しだけ安堵する。
この教授は、危ない貴族たちとは違う。好奇心と慈しみで見ているのがわかる。
「そして……あなたには、頼もしい護衛もついているものね」
ちらりと、今度は俺を見た。
俺は反射的に姿勢を正して答える。
「……ククルは、俺が守ります」
「ええ、頼もしい限りだわ。ジム君、あなたにも期待しているのよ」
そのやわらかな声に、なぜだか胸が熱くなる。
──ここからが、俺たちの七斗学院での生活の始まりだった。
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