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七斗学院の生活は、孤児院の頃とはまるで違っていた。
俺たちは、学問も魔導も、これまでとは比べものにならないほど高度な授業を毎日受けている。
「ジム、こっちの方程式はこう解くと早いよ」
「ああ、なるほど。ありがとな、ククル」
勉強に関しては、圧倒的にククルが強い。
難解な魔導理論も神学も、まるで詩を詠むように滑らかに理解していく。さすがは天使の血──いや、それだけじゃない、こいつは本当に頭がいい。
一方の俺は、身体を動かす実技の授業になると途端に本領を発揮する。
「よし、これで訓練は終了だ。さすがだな、ジム君」
竜族の血を引く俺は、戦闘訓練や魔力操作の強化系では講師からも一目置かれていた。
けれど、戦えば戦うほど思う──
(ククルに、こんな戦いをさせるわけにはいかない)
この学院には、各国から様々な生徒が集まってくる。
貴族の子弟、軍人候補、混血児、魔族──そして時折混じる政治の影。危険の芽は、いくらでも転がっていた。
**
ある日の放課後。
ククルは静かな図書室で、ソフィア教授に付き添われながら神学書を開いていた。
「……混沌の神カオシエール、か。神々の理の中でも特異な存在とされているわね」
「はい。古い文献にほんのわずかですが、巫女の逸話が残っていて……」
ククルの指先がそっと古文書の文字をなぞる。
その横顔を見つめるソフィア教授のまなざしは、どこか遠く懐かしさを滲ませていた。
「……似ているわ、やっぱり」
「え?」
「いいの。続けましょう」
ソフィア教授は優しく微笑むと、ククルの思索にそっと寄り添い続ける。
きっと、エデターエルにいた頃の「家族」の面影を重ねているのだろう。
**
──そんな学院生活の中でも、ククルを狙う者は絶えなかった。
「ねえ、ククル君。君ほどの血筋なら、うちの家が迎えたら素晴らしい未来を約束できるよ?」
上級生の貴族が甘い声で誘うのを、俺は背後から静かに睨みつける。
「……その話は結構です」
ククルがきっぱりと断ると、俺はすっと横に出た。
「これ以上は、学院規約に触れるぜ?」
低く牽制すると、上級生は舌打ちしつつも退いた。
(やっぱりこうなる)
護るべきものは変わらない。
俺は今日も、ククルの傍を守り続ける。
**
そんなある日──
「ジム、今日もありがとう」
寮の帰り道。夜の中庭で、ククルがふわりと微笑んだ。
夜風に銀髪が揺れる姿は、本当に──儚いほど綺麗で。
「……何度でも言うが、礼なんていらねえよ。
お前が無事でいてくれりゃ、それでいい」
「……ジムは、やさしいね」
ふと、ククルが小さく俺の袖を握った。
「……いつか、もし僕が──」
「バカ言うな」
俺はそっと頭に手を乗せた。
その華奢な肩に、ほんの少し力を込める。
「絶対に、お前はどこにも行かせねえからな」
ほんの一瞬、ククルの頬が赤く染まる。
月明かりの下、その横顔は誰よりも綺麗だった。
──まだ名も知らぬ未来が、静かに近づいている。
俺たちは、学問も魔導も、これまでとは比べものにならないほど高度な授業を毎日受けている。
「ジム、こっちの方程式はこう解くと早いよ」
「ああ、なるほど。ありがとな、ククル」
勉強に関しては、圧倒的にククルが強い。
難解な魔導理論も神学も、まるで詩を詠むように滑らかに理解していく。さすがは天使の血──いや、それだけじゃない、こいつは本当に頭がいい。
一方の俺は、身体を動かす実技の授業になると途端に本領を発揮する。
「よし、これで訓練は終了だ。さすがだな、ジム君」
竜族の血を引く俺は、戦闘訓練や魔力操作の強化系では講師からも一目置かれていた。
けれど、戦えば戦うほど思う──
(ククルに、こんな戦いをさせるわけにはいかない)
この学院には、各国から様々な生徒が集まってくる。
貴族の子弟、軍人候補、混血児、魔族──そして時折混じる政治の影。危険の芽は、いくらでも転がっていた。
**
ある日の放課後。
ククルは静かな図書室で、ソフィア教授に付き添われながら神学書を開いていた。
「……混沌の神カオシエール、か。神々の理の中でも特異な存在とされているわね」
「はい。古い文献にほんのわずかですが、巫女の逸話が残っていて……」
ククルの指先がそっと古文書の文字をなぞる。
その横顔を見つめるソフィア教授のまなざしは、どこか遠く懐かしさを滲ませていた。
「……似ているわ、やっぱり」
「え?」
「いいの。続けましょう」
ソフィア教授は優しく微笑むと、ククルの思索にそっと寄り添い続ける。
きっと、エデターエルにいた頃の「家族」の面影を重ねているのだろう。
**
──そんな学院生活の中でも、ククルを狙う者は絶えなかった。
「ねえ、ククル君。君ほどの血筋なら、うちの家が迎えたら素晴らしい未来を約束できるよ?」
上級生の貴族が甘い声で誘うのを、俺は背後から静かに睨みつける。
「……その話は結構です」
ククルがきっぱりと断ると、俺はすっと横に出た。
「これ以上は、学院規約に触れるぜ?」
低く牽制すると、上級生は舌打ちしつつも退いた。
(やっぱりこうなる)
護るべきものは変わらない。
俺は今日も、ククルの傍を守り続ける。
**
そんなある日──
「ジム、今日もありがとう」
寮の帰り道。夜の中庭で、ククルがふわりと微笑んだ。
夜風に銀髪が揺れる姿は、本当に──儚いほど綺麗で。
「……何度でも言うが、礼なんていらねえよ。
お前が無事でいてくれりゃ、それでいい」
「……ジムは、やさしいね」
ふと、ククルが小さく俺の袖を握った。
「……いつか、もし僕が──」
「バカ言うな」
俺はそっと頭に手を乗せた。
その華奢な肩に、ほんの少し力を込める。
「絶対に、お前はどこにも行かせねえからな」
ほんの一瞬、ククルの頬が赤く染まる。
月明かりの下、その横顔は誰よりも綺麗だった。
──まだ名も知らぬ未来が、静かに近づいている。
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