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学院生活も三分の二が過ぎた頃だった。
表向きは穏やかに見える日々の中で──少しずつ、だが確実に水面下で不穏な気配が広がり始めていた。
**
ある日の放課後。
人気の少ない回廊の奥で、ククルは数人の上級生に呼び止められていた。
「ククル君、少し良いかな?」
「……はい?」
人の良さが滲み出るククルは、警戒よりも先に丁寧に応じてしまう。
その瞬間、囲むように男たちが近付いてきた。
「いや、大したことじゃないんだ。ただ──今後の進路について少し相談があってね」
「進路……?」
「王国(レイド)の上層部が、君の資質を高く評価していてね。もし君が希望するなら──王国籍への移籍も、十分に支援を検討できるだろう」
──またこれか。
陰から様子を窺っていた俺は、眉を寄せた。
(何度目だよ。あいつら……)
貴族派閥の一部が、ククルを王国側に引き込もうと接触を繰り返している。
天使の混血。珍しい癒しの適性。儚げで品の良い容姿──王家の象徴にもなり得る逸材だ、と。
だが、そんなのは全部奴らの都合だ。
ククルの気持ちも、人生も、まるで無視している。
「──そこまでにしてくれませんか」
俺は踏み出した。
咄嗟にククルが振り返り、小さく目を見開く。
「ジム……!」
「おや、クエーサー君」
上級生の男たちは、俺を値踏みするように見下ろした。
「混血の君も優秀だと聞いている。だが──ここは君の話ではない」
「いや、関係ある」
俺は静かに言った。
怒鳴る必要なんかない。ただ、静かに、だが確実に圧を込めて。
「ククルは俺の家族だ。──勝手に引きずり込むのは許さねぇ」
男たちは鼻で笑った。
「はは……随分と情熱的だな。しかし将来的に国の庇護を受けるのは彼のためにも──」
「俺たちはもう後ろ盾を持ってる。ラグエンティ伯爵家と、ニコラウス商会の庇護下だ。余計なお世話だ」
バシ、と壁を軽く叩き牽制すると、男たちはわずかに引き下がった。
「……今は、な。だがこの先は分からんぞ」
「今も先も、関係ない」
それだけ告げて、俺はククルの肩を抱くようにして引き寄せた。
「さあ、行こうぜ」
「……うん」
**
寮の部屋に戻ってからも、ククルは少し俯いていた。
「……ジム、ごめんね。僕がいつも守られてばかりで……」
「馬鹿か、お前は」
俺は小さく溜息をつき、ククルの頭を撫でた。
「守らせろよ。お前は俺の、大事な……」
喉元まで出かけた言葉を飲み込む。
──友達。いや、もうそれだけじゃない。
ククルは微かに頬を染めて、静かに笑った。
「……うん。ジムがそう言うなら」
月明かりが差し込む小さな部屋の中で、儚い銀髪が淡く揺れていた。
**
──だがその一方で、学院の外でも静かに動きはじめる者たちがいた。
共和国ノイトラールからの正式な迎えの使者。
そして──フェーゲ王国からの、思わぬ人物の訪問。
静かだった学院生活は、徐々に転機を迎えようとしていた。
表向きは穏やかに見える日々の中で──少しずつ、だが確実に水面下で不穏な気配が広がり始めていた。
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ある日の放課後。
人気の少ない回廊の奥で、ククルは数人の上級生に呼び止められていた。
「ククル君、少し良いかな?」
「……はい?」
人の良さが滲み出るククルは、警戒よりも先に丁寧に応じてしまう。
その瞬間、囲むように男たちが近付いてきた。
「いや、大したことじゃないんだ。ただ──今後の進路について少し相談があってね」
「進路……?」
「王国(レイド)の上層部が、君の資質を高く評価していてね。もし君が希望するなら──王国籍への移籍も、十分に支援を検討できるだろう」
──またこれか。
陰から様子を窺っていた俺は、眉を寄せた。
(何度目だよ。あいつら……)
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天使の混血。珍しい癒しの適性。儚げで品の良い容姿──王家の象徴にもなり得る逸材だ、と。
だが、そんなのは全部奴らの都合だ。
ククルの気持ちも、人生も、まるで無視している。
「──そこまでにしてくれませんか」
俺は踏み出した。
咄嗟にククルが振り返り、小さく目を見開く。
「ジム……!」
「おや、クエーサー君」
上級生の男たちは、俺を値踏みするように見下ろした。
「混血の君も優秀だと聞いている。だが──ここは君の話ではない」
「いや、関係ある」
俺は静かに言った。
怒鳴る必要なんかない。ただ、静かに、だが確実に圧を込めて。
「ククルは俺の家族だ。──勝手に引きずり込むのは許さねぇ」
男たちは鼻で笑った。
「はは……随分と情熱的だな。しかし将来的に国の庇護を受けるのは彼のためにも──」
「俺たちはもう後ろ盾を持ってる。ラグエンティ伯爵家と、ニコラウス商会の庇護下だ。余計なお世話だ」
バシ、と壁を軽く叩き牽制すると、男たちはわずかに引き下がった。
「……今は、な。だがこの先は分からんぞ」
「今も先も、関係ない」
それだけ告げて、俺はククルの肩を抱くようにして引き寄せた。
「さあ、行こうぜ」
「……うん」
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寮の部屋に戻ってからも、ククルは少し俯いていた。
「……ジム、ごめんね。僕がいつも守られてばかりで……」
「馬鹿か、お前は」
俺は小さく溜息をつき、ククルの頭を撫でた。
「守らせろよ。お前は俺の、大事な……」
喉元まで出かけた言葉を飲み込む。
──友達。いや、もうそれだけじゃない。
ククルは微かに頬を染めて、静かに笑った。
「……うん。ジムがそう言うなら」
月明かりが差し込む小さな部屋の中で、儚い銀髪が淡く揺れていた。
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──だがその一方で、学院の外でも静かに動きはじめる者たちがいた。
共和国ノイトラールからの正式な迎えの使者。
そして──フェーゲ王国からの、思わぬ人物の訪問。
静かだった学院生活は、徐々に転機を迎えようとしていた。
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