亡命した混血の俺と天使の幼馴染、七斗学院で新しい人生を始めます

藤原遊

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柔らかな風が七斗学院の高窓を撫でる午後。
俺とククルは、緊張した面持ちで学院内の応接室に呼ばれていた。

部屋には、既に三人の人物が待っていた。

ソフィア教授──黄色の魔導を司る、我らの担当教授。
マリアン教授──青の魔導を司る、学院でも屈指の実力者。
そして──

「初めまして、ジム・クエーサー、ククル・クエーサー」

ゆったりとした歩みで振り返った彼女は、ただの人ではなかった。

艶のある赤髪。
すらりと伸びた四肢。
整った美貌の奥に滲む圧倒的な威圧感。

何より──その背に浮かび上がる幻の如き巨大な龍の影が、彼女が何者かを物語っていた。

「我が名はリンドラ・ナーガ。フェーゲ王国、竜族ナーガ家の直系──国境の守護者と呼ばれている」

赤竜だ──!

本でしか知らなかった名を、俺は今まさに目の前にしていた。

「……竜族の、直系……?」

思わず声が掠れる俺の隣で、ククルもわずかに肩を震わせている。

だがリンドラ様は、そんな俺たちの怯えを和らげるように微笑んだ。

「緊張しなくて良い。私は客人として、君たちに会いに来たのだから」

その視線が、ふわりとククルへと移動する。

「──噂以上だな、ククル・クエーサー。
 天使の混血でありながら、これほど繊細で美しい個体は稀有だ。護りたいと願う者が多いのも、当然だろう」

「……あ、ありがとうございます」

ククルは、怯えと礼儀の入り混じった小さな声で答えた。

リンドラ様の紅い瞳が、今度は俺に注がれる。

「そして……君がジム・クエーサーだな。竜族の血を引く者。わずかに残る混血でありながら、これほど頑健で、かつ危機察知に優れるとは」

「……恐れ入ります」

なんとか声を絞り出す。
だが、驚くほどそのまなざしは柔らかだった。

「私は君たちを”査定”しに来たわけではない。今日は、縁を結びに来ただけだ」

ソフィア教授が静かに言葉を継ぐ。

「──ククル、ジム。今回のフェーゲ王国からのご提案は、我々からも申し上げたのです」

「わたくしも同席させていただきました」とマリアン教授も柔らかな声で頷いた。

「君たちが今いるレイド王国は、混血に冷たい社会構造だ。だが──」

リンドラ様の声が重なる。

「──フェーゲ王国は違う。我が国にとって、強さが誇りだ。強き血は守り、育て、王国を支える柱となる」

その言葉は嘘偽りのない、誇り高き断言だった。

「特に君、ジム・クエーサー。竜族の常識を知らない中、本能だけで自分の天使を見つけて、護り抜く竜族──稀有だ。
 本来なら君は、我ら竜族が直々に教育し、軍の守護者に育てるに相応しい。
    フェーゲでは天使一族の守護者であることは一族が強い象徴と考えている」

ビクリとククルの肩が揺れた。

「ククルも──フェーゲならば天使として最上の庇護を約束する。フェーゲ王国に残る聖域で暮らせば、誰にも怯える必要はない」

ああ、分かる。
言っていることは、確かに理屈の上では好条件だ。

けれど──

「……ありがとうございます。光栄なお申し出です」

俺は深く頭を下げた。

「ですが──俺はククルと共に、今の道を進みます。ラグエンティ伯爵家からの保護と、ニコラウス商会の後援に感謝しており、今はそこに恩を返したいのです」

隣で、ククルもそっと俺の袖を掴んでくる。

「僕も……ジムと一緒に行きたいです」

リンドラ様は一瞬だけ驚いたように目を見開き──やがて、優雅に微笑んだ。

「──良い判断だ。君たちが選んだ道を尊重しよう。だが──いずれ困った時は、フェーゲ王国を思い出すと良い。我ら竜族ナーガ家は、常に門戸を開けている」

「ありがとうございます」

深く頭を下げる俺たちに、リンドラ様は風のように微笑んだ。

「──加護神シャムシアイエルの祝福があらんことを」

**

こうして、思わぬ大国からの誘いは──穏やかなうちに幕を下ろした。

けれど、俺は知っている。
今日交わされた言葉は、きっと俺たちの未来にも繋がっていくのだろうと──。
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