【完結】後宮の片隅にいた王女を拾いましたが、才女すぎて妃にしたくなりました

藤原遊

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カティア回想録

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あの夜のことは、決して忘れません。

――縁談の打診を前に、ユーリ殿下は動揺していました。

いつも穏やかで、どこまでも理性的で。
決して取り乱すことなどない殿下が、私の目の前で初めて、幼子のように縋ってきたのです。

「……君に離れて欲しくない」

絞り出すような殿下の声は、胸の奥を締め付けました。

ああ――

私の方こそ、ずっとそう思っていたのに。

私のような王女でも、妃として傍に置いてくださるだけで、夢のような日々だったのに。

それでも、殿下は言ってくださいました。

「……寂しかった。君が来てからようやく、一緒に歩める相手を得られたと思った」

その言葉は、私の心の奥深くに優しく沁み込んでいきました。

――私に、向けてくださったのですね。

これまでずっと遠くから憧れていた背中。
冷たい後宮の片隅で、幼い頃からずっと見つめていたお方。

それほどの寂しさを抱えながら、それでも優しさを失わずにいた殿下に――

今こうして、頼っていただける日が来るなんて。

(殿下……)

私はそっと、その手を握り返しました。

「私も、ずっと傍におりますわ」

そう囁くと、殿下はまるで緊張の糸が切れたように、私の膝に顔を伏せ、泣きながら眠りについていきました。

◇ ◇ ◇

そして私は気づいていました。

――今日が、十四歳の誕生日前夜だということを。

十四歳を迎えれば、正式な婚姻が可能となる年齢。

(このまま朝を迎えれば……少なくとも、外国へ嫁がされることはなくなる)

私は覚悟を決めていました。

殿下は優しいお方だから、正式に妃になれなくても、きっと離宮に置いてくださる。
けれど、今日ここで傍にいることが、私にとっても岐路になるとわかっていたのです。

(……離れたくない)

(私は、殿下の傍にいたい――)

だから私は静かに寄り添い続けました。
殿下の温かな寝息を感じながら、ゆっくりと夜が明けるのを待ったのです。

◇ ◇ ◇

やがて、窓の外が白み始め――

私は十四歳を迎えました。

そしてこの朝から、私の人生は確かに変わったのです。
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