没落領地の転生令嬢ですが、領地を立て直していたら序列一位の騎士に婿入りされました

藤原遊

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第9章 王女のお茶会と恋愛相談地獄

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講堂に静寂が落ちる。
私は深く息を吸い込み、指を弦に添えた。

最初の音が響いた瞬間、胸の奥から切なさが溢れ出す。
思い浮かべていたのは――会えなくなった大切な人たち。
前世の家族や友人、そして私を支えてくれた人々。

(……恋はわからなくても、“大切な人”なら)

そう思って選んだのは、火と水の精霊の歌。重ならない想いを、届かないとわかって紡ぐ切ない恋の歌だ。

弦をはじくごとに、旋律は温かくも寂しい色を帯びる。
イザベラ姉様が作ってくれた詞を口ずさむと、思いが形を持ち始めた。

「――火の精霊は夏を照らし
 水の精霊は冬を抱く
 交わらぬ道を歩みながら
 互いを慕い続ける――」

会うことはできない。
でも、ただ幸せを願いたい――そんな想いを乗せた歌。

歌い終えた瞬間、講堂に広がったのは深い沈黙だった。
やがて拍手が湧き起こり、視線が一斉に私へ注がれる。

「……素晴らしいですわ」

壇上にいた王女セレスティーナ殿下が、涙を光らせて告げてくださった。

けれど――別の視線が突き刺さる。
赤銅色の髪、燃えるような赤の瞳。アレクシスが、こちらを凝視していた。

(……まさか……!)

一瞬で悟った。
火の精霊に強く愛されるアレクシスと、水の精霊の加護を受ける私。
交わらぬ精霊同士の歌。

(……届かない想いを歌った私が、アレクシス様への気持ちを重ねた――そう受け取られる……!?)

血の気が引いていく。
この世界の常識では、序列十七位から序列一位への婚姻なんてあり得ない。
だからこそ「届かない想い」として彼に向けた、と誤認されるのは自然すぎた。

(ちょ、ちょっと待って……! 本当にただ“曲に心を込める”ために思い出しただけなのに! これじゃあ完全に――っ!)

胃がきりきりと痛む。
なんでもう少し早く気が付かなかったんだっ!迂闊すぎる。

アレクシスの真っ直ぐな視線をどう受け止めればいいのか、答えを持たないまま、私は震える指を強く組み合わせた。

そして――視界の端に、イザベラ姉様の姿が映った。
困ったように首を傾げ、ため息を噛み殺すように小さく肩をすくめている。

(……あ、姉様も“やっちゃった”って顔してる……!)

心臓がますます縮み上がり、私は唇を噛んだ。
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