ほとりのカフェ

藤原遊

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青森県三沢市に降り立ったのは、東京に住む30代の女性、佐藤美奈だった。彼女は手に小さな古い写真を握りしめていた。写真には、若い頃の父が写っている。隣には、陽気そうなアメリカ兵が肩を組むように立っていた。背景には「MISAWA BASE」の文字がうっすらと写っている。

父が亡くなって1年。遺品整理をしていた美奈は、この写真を見つけた。「三沢」という名前は聞いたことがなかったが、どうして父がここでアメリカ兵と一緒に写真を撮っていたのか気になり、思い切って旅に出たのだった。

三沢市の冬は、東京とは違う冷たさがある。美奈は手をこすりながら、小川原湖畔にある「ほとりのカフェ」に入った。

「いらっしゃいませ。」
店主の康平が笑顔で迎える。店内は木のぬくもりが感じられ、外の雪景色を眺める窓際の席に座った。

「温かいコーヒーをお願いします。」
美奈はメニューを開きながらそう頼む。カバンの中の写真が気になり、つい手に取って眺めた。

コーヒーを運んできた康平が、その写真に目を留めた。「それ、もしかして三沢基地の写真ですか?」

美奈は驚きながら頷いた。「ええ、そうみたいなんです。若い頃の父なんですけど、なぜこんな写真を持っているのか、私には分からなくて……。」

康平は写真を見つめた後、カフェの常連である老婦人に話しかけた。「この写真、何か覚えていませんか?昔の三沢基地のようです。」

老婦人は写真をじっと見つめ、少し微笑みながら口を開いた。「ああ、この制服……アメリカ兵の制服ね。戦後しばらくしてから、三沢基地で働いてた日本人も結構いたのよ。お父さんもその一人だったんじゃないかしら?」

美奈はその話に驚き、「父が基地で働いていたなんて、聞いたことがありませんでした」と呟いた。

「その頃はみんな大変だったのよね。お金を稼ぐためには基地で働くしかない人も多かった。でも、その中でアメリカ兵と仲良くなる人もいたのよ。お父さんも、そうだったのかもしれないわね。」

美奈はそれから数日、三沢市を巡りながら父の過去を探った。地元の資料館や、基地関係者の記録を頼りに少しずつピースをつなぎ合わせる。そして分かったのは、父が基地で働きながら、アメリカ人の友人と楽しい時間を過ごしていたという事実だった。

カフェに戻った美奈は、康平にその話を伝えた。「父は、日本とアメリカの違いを感じながらも、基地での仕事を楽しんでいたみたいです。そんな父の姿が、想像できるようになりました。」

美奈は帰る前に、「湖のノート」にこう書き残した。

「父が愛した三沢の街を訪れることができて、本当に良かったです。ここで父の新しい一面を知ることができました。」

康平はその文字を読んで、静かに頷いた。「ほとりのカフェ」は、記憶や物語を紡ぐ場所でもあった。
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