乙女ゲームの悪役令嬢は前世の推しであるパパを幸せにしたい

藤原遊

文字の大きさ
4 / 48
再会とさらなる誤解

しおりを挟む
朝の光が、アイリスの部屋に差し込んでいた。
窓の外からは、鳥のさえずりが聞こえる。
だが、その穏やかな景色とは裏腹に、彼女の頭の中は雑念でいっぱいだった。

(昨日のサロンでは、破滅フラグを何とか回避したけど……王太子の疑いの目が強すぎるわ)

目を閉じれば、レオナードの冷たい視線が思い出される。
「妙な行動は控えろ」という警告は、まだ耳の奥に残っているようだった。

「こんな状況じゃ、息が詰まるわ……」

アイリスは、思い切って外に出ることにした。

街は、王宮の堅苦しさとは全く違う活気に満ちていた。
花屋の露店には鮮やかな花々が並び、焼きたてのパンの香りが漂う。
行き交う庶民たちの笑い声や、商人たちの呼び声が、街全体を明るく彩っていた。

(たまにはこういう場所に来るのも悪くないわね)

歩きながら深呼吸をした瞬間、視界の片隅に見覚えのある姿を見つけた。

(あれは……クラリス?)

柔らかな栗色の髪を揺らし、控えめな仕草で何かを買い物している少女。
サロンで初めて顔を合わせた、ヒロイン・クラリスその人だった。

(ここで彼女に出会うなんて……もしかして、原作のイベントがまた動き出すの!?)

アイリスが心の中で警戒を強めていると、不意にクラリスが振り返り、目を丸くした。

「あ……アイリス様!」

「クラリスさん、こんなところで偶然ですわね」

穏やかに微笑むアイリスの言葉に、クラリスは嬉しそうに駆け寄ってきた。

「本当に偶然ですね!お一人でお出かけですか?」

「ええ、少し気分転換に」

「そうだったんですね。私も少し買い物をしていたんです」

クラリスは、小さな籠の中に並んだ果物やパンを見せながら微笑む。
その姿には、平民らしい素朴な可愛らしさがあった。

(ゲームでは「純真無垢なヒロイン」として描かれていたけど、こうして見ると本当にその通りね)

「サロンではお世話になりました!アイリス様が優しくしてくださったおかげで、私……とても嬉しかったんです!」

「そう?なら良かったわ」

アイリスは微笑みながら返すが、内心では(私が優しくしたのは破滅フラグを避けたかっただけなのに……)と複雑だった。

「アイリス様はやっぱり素敵な方ですね」

クラリスの瞳がキラキラと輝く。
その純粋な様子に、アイリスはなんとも言えない気恥ずかしさを覚えた。

(これ以上ヒロインに好かれるのはマズいわね。攻略対象が彼女を助けるべきところで、私が絡むと余計な誤解を生みそう……)

「では、私はそろそろ失礼するわ。またサロンで会いましょう」

そう言ってクラリスに別れを告げ、足早にその場を離れる。
だが、次の角を曲がった瞬間、冷たい声が彼女を呼び止めた。

「また貴女か」

振り向くと、そこには王太子レオナードがいた。
彼は腕を組み、冷たい視線でアイリスを見つめている。

「アイリス。どうしてこんなところにいる?」

(なぜあなたがここにいるの!?)

「少し気分転換に街を歩いていただけですわ」

「ならば、先ほど平民の少女と話していたのはどういうつもりだ?」

(見られてた!?)

「平民ではありません。彼女は昨日のサロンでお会いしたクラリスさんです。ただの偶然の再会でした」

「偶然にしては、妙に親しげだったな」

レオナードの眉がわずかに動く。

(また深読みしてる……!私はただ破滅フラグを避けたかっただけなのに!)

「私がどう行動しようと、王太子殿下に迷惑をかけることはございませんわ」

冷静を装って切り返すと、レオナードは微かに目を細めた。

「……確かにそうかもしれない。だが、私は貴女を監視し続ける」

「……ご自由にどうぞ」

内心では悲鳴を上げつつ、アイリスは礼儀正しく一礼してその場を去った。

その夜、アイリスは自室でため息をついた。
破滅フラグ回避のために動けば動くほど、王太子の疑念が深まっている気がする。

「一体どうすればいいの……」

月明かりに照らされながら、アイリスは静かに呟いた。

だが、彼女の目には迷いの代わりに決意の光が宿っている。

「それでも、私は負けない。お父様の笑顔を守るために!」

彼女の戦いは、まだ始まったばかりだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。

三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*  公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。  どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。 ※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。 ※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。

前世ブラックOLの私が転生したら悪役令嬢でした

タマ マコト
ファンタジー
過労で倒れたブラック企業勤めのOLは、目を覚ますと公爵令嬢アーデルハイトとして転生していた。しかも立場は“断罪予定の悪役令嬢”。だが彼女は恋愛や王子の愛を選ばず、社交界を「市場」と見抜く。王家の財政が危ういことを察知し、家の莫大な資産と金融知識を武器に“期限付き融資”という刃を突きつける。理想主義の王太子と衝突しながらも、彼女は決意する――破滅を回避するためではない。国家の金脈を握り、国そのものを立て直すために。悪役令嬢の経済戦争が、静かに幕を開ける。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。

秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。 「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」 第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。 着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。 「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。 行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。 「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」 「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」 氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。 一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。 慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。 しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。 「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」 これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。

ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!

クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。 ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。 しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。 ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。 そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。 国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。 樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。

処理中です...