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新たなる破滅フラグ
③
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木漏れ日が静かに揺れる森の中、狩猟大会は順調に進んでいるように見えた。
矢が放たれる音や馬の蹄が地面を叩く音が遠くから聞こえ、貴族たちはそれぞれの獲物を追いかけていた。
アイリスは慎重に馬を進めながら、森の奥へと視線を巡らせていた。
原作通りなら、クラリスがこの森で迷子になり、危険な状況に陥るはずだ。
(あの子、今どこにいるのかしら……)
地図で大まかな動きを予測していたアイリスだったが、クラリスの姿はなかなか見当たらない。
さらに、先ほど出会ったハルドの言葉が胸に引っかかっていた。
「狩猟場は思わぬ危険が潜んでいる」
(まさか……本当に危ない状況になるの?)
アイリスは馬を走らせ、クラリスの姿を探し始めた。
しばらく進むと、前方の茂みの向こうから小さな声が聞こえた。
「誰か……助けて!」
クラリスの声だ。
アイリスは急いで馬から降り、声のする方へと駆け寄った。
そこには、足元を枝に絡め取られて身動きが取れないクラリスの姿があった。
そのすぐそばには、毛を逆立てた一頭のイノシシが、低く唸り声を上げながら今にも飛びかかろうとしている。
「クラリスさん!」
アイリスは咄嗟にクラリスとイノシシの間に立ちはだかった。
その姿に、クラリスは驚いたように目を見開いた。
「アイリス様……!」
「大丈夫よ。すぐに助けますから」
とはいえ、アイリスには武器がない。
この場でイノシシをどうにかする術はないに等しかった。
(ここで私が逃げたら、クラリスが危ない……でも、どうすれば?)
その時、近くに落ちていた枝が目に入る。
アイリスはそれを拾い上げ、イノシシを睨みつけた。
「さあ、どうするの?」
アイリスの声に、イノシシは一瞬だけ動きを止めた。
だが次の瞬間、獣の目には再び攻撃の意志が宿る。
「くっ……!」
イノシシが踏み込んできたその瞬間――。
鋭い矢が空を切り裂き、獣の足元に突き刺さった。
イノシシは驚いて逃げ出し、その場は静寂に包まれる。
「無茶なことをするな」
低い声が響き、振り向くとそこには王太子レオナードが立っていた。
手には狩猟用の弓を握り、冷たい目でこちらを見つめている。
「レオナード様……」
「どうして貴女がこんな場所にいる?」
その言葉に、アイリスは一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに優雅な微笑みを浮かべて答えた。
「クラリスさんが危険な状況にいるのを見て、助けようと思っただけですわ」
「助けようと思った?無防備に獣の前に立ち、棒切れ一本で?」
レオナードの声には、わずかな怒気が滲んでいた。
「無茶をして何かあれば、公爵家の名に傷がつく。それくらい考えられなかったのか」
(……!)
アイリスは胸の中で息を飲んだ。
彼の言葉には正しさがある。だが、それを認めるのは悔しい。
「私の判断が浅かったことは認めます。ですが、クラリスさんを放っておけませんでした」
その一言に、レオナードの眉がわずかに動いた。
「……貴女らしい答えだ」
呟くようにそう言った彼の顔は、どこか複雑な感情を含んでいるように見えた。
だが、すぐに表情を引き締めた彼は、矢を再び弓に収めた。
「これ以上妙なことをするな。それだけだ」
そう言い残し、レオナードは森の奥へと姿を消した。
クラリスの足を枝から解放したアイリスは、彼女を連れて狩猟大会の広場へと戻った。
道中、クラリスは何度もお礼を口にしたが、アイリスはただ微笑みで返すだけだった。
(今回も何とか乗り切れたけど……またしても注目を浴びてしまったわね)
広場に戻ると、周囲の貴族たちが二人を見てざわざわと噂をしている。
その視線を感じながらも、アイリスは毅然とした態度で振る舞い続けた。
その日の夜、自室に戻ったアイリスは、窓の外を見ながら小さく息を吐いた。
「今日も危なかった……でも、破滅フラグは回避できたわよね」
クラリスを助け、原作通りの展開にはならなかった。
だが、その代償として、王太子レオナードの疑念はますます強まっている。
「それでも、私は負けない」
月明かりが静かに差し込む中、アイリスは新たな計画を練り始めた。
矢が放たれる音や馬の蹄が地面を叩く音が遠くから聞こえ、貴族たちはそれぞれの獲物を追いかけていた。
アイリスは慎重に馬を進めながら、森の奥へと視線を巡らせていた。
原作通りなら、クラリスがこの森で迷子になり、危険な状況に陥るはずだ。
(あの子、今どこにいるのかしら……)
地図で大まかな動きを予測していたアイリスだったが、クラリスの姿はなかなか見当たらない。
さらに、先ほど出会ったハルドの言葉が胸に引っかかっていた。
「狩猟場は思わぬ危険が潜んでいる」
(まさか……本当に危ない状況になるの?)
アイリスは馬を走らせ、クラリスの姿を探し始めた。
しばらく進むと、前方の茂みの向こうから小さな声が聞こえた。
「誰か……助けて!」
クラリスの声だ。
アイリスは急いで馬から降り、声のする方へと駆け寄った。
そこには、足元を枝に絡め取られて身動きが取れないクラリスの姿があった。
そのすぐそばには、毛を逆立てた一頭のイノシシが、低く唸り声を上げながら今にも飛びかかろうとしている。
「クラリスさん!」
アイリスは咄嗟にクラリスとイノシシの間に立ちはだかった。
その姿に、クラリスは驚いたように目を見開いた。
「アイリス様……!」
「大丈夫よ。すぐに助けますから」
とはいえ、アイリスには武器がない。
この場でイノシシをどうにかする術はないに等しかった。
(ここで私が逃げたら、クラリスが危ない……でも、どうすれば?)
その時、近くに落ちていた枝が目に入る。
アイリスはそれを拾い上げ、イノシシを睨みつけた。
「さあ、どうするの?」
アイリスの声に、イノシシは一瞬だけ動きを止めた。
だが次の瞬間、獣の目には再び攻撃の意志が宿る。
「くっ……!」
イノシシが踏み込んできたその瞬間――。
鋭い矢が空を切り裂き、獣の足元に突き刺さった。
イノシシは驚いて逃げ出し、その場は静寂に包まれる。
「無茶なことをするな」
低い声が響き、振り向くとそこには王太子レオナードが立っていた。
手には狩猟用の弓を握り、冷たい目でこちらを見つめている。
「レオナード様……」
「どうして貴女がこんな場所にいる?」
その言葉に、アイリスは一瞬言葉を詰まらせたが、すぐに優雅な微笑みを浮かべて答えた。
「クラリスさんが危険な状況にいるのを見て、助けようと思っただけですわ」
「助けようと思った?無防備に獣の前に立ち、棒切れ一本で?」
レオナードの声には、わずかな怒気が滲んでいた。
「無茶をして何かあれば、公爵家の名に傷がつく。それくらい考えられなかったのか」
(……!)
アイリスは胸の中で息を飲んだ。
彼の言葉には正しさがある。だが、それを認めるのは悔しい。
「私の判断が浅かったことは認めます。ですが、クラリスさんを放っておけませんでした」
その一言に、レオナードの眉がわずかに動いた。
「……貴女らしい答えだ」
呟くようにそう言った彼の顔は、どこか複雑な感情を含んでいるように見えた。
だが、すぐに表情を引き締めた彼は、矢を再び弓に収めた。
「これ以上妙なことをするな。それだけだ」
そう言い残し、レオナードは森の奥へと姿を消した。
クラリスの足を枝から解放したアイリスは、彼女を連れて狩猟大会の広場へと戻った。
道中、クラリスは何度もお礼を口にしたが、アイリスはただ微笑みで返すだけだった。
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その視線を感じながらも、アイリスは毅然とした態度で振る舞い続けた。
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「今日も危なかった……でも、破滅フラグは回避できたわよね」
クラリスを助け、原作通りの展開にはならなかった。
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