31 / 48
さらなる陰謀
③
しおりを挟む
王太子レオナードと共に、新たな問題の調査に向かう準備を整えていたアイリスは、ふと彼と二人きりになる瞬間を迎えた。
馬車の中、重い沈黙が続く中で、レオナードが口を開いた。
「……貴女がここまで行動力を発揮するとは、正直驚いている」
「私は、婚約者として殿下のお力になるべき立場ですから」
アイリスは冷静に返事をしたが、その言葉にレオナードはわずかに眉をひそめた。
「婚約者として……か。貴女はそうやって、自分を枠の中に閉じ込めているように思える」
「どういう意味ですか?」
「貴女は私を助けることが、自分の役割だと考えている。だが、それだけではないはずだ。貴女自身の意思で、もっと自由に動いていい」
その言葉に、アイリスは少し驚き、そして困惑した。
前世の記憶がある彼女にとって、この婚約は「破滅フラグの中心」に他ならない。
レオナードに過度に近づきすぎることは、いずれ自分が悲惨な結末を迎えるリスクを高める――そう思い込んでいたのだ。
「……私は、婚約者としての務めを果たせれば十分です。それ以上のことを望むつもりはありません」
アイリスの声はどこか硬かった。
しかし、その返事を聞いたレオナードは静かに目を閉じ、少しだけ苦笑した。
「それ以上のことを望んでいるのは、私だけというわけか」
その言葉に、アイリスの胸が僅かにざわついた。
「殿下……?」
「いや、気にするな」
レオナードはそれ以上何も言わず、外の景色に目を向けた。
アイリスはそんな彼の横顔を見つめながら、自分の感情がわずかに揺れるのを感じていた。
調査を終えた後、王宮に戻ったアイリスは、休息のために一人で庭園を歩いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、クラリスだった。
「アイリス様、少しよろしいですか?」
「クラリスさん、どうしました?」
「実は……最近、アイリス様と殿下の関係について、周囲でいろいろな噂が広がっています」
その言葉に、アイリスは表情を引き締めた。
「噂、ですか?」
「ええ。お二人が婚約者だということは周知の事実ですけれど……それでも、『王太子殿下がアイリス様を特別視している』とか、『婚約以上の感情を抱いているのではないか』という話が出ています」
「……そうですか」
アイリスは短く答えたが、内心では動揺していた。
自分では距離を置き、婚約者としての役割を最低限に留めているつもりだったのに、周囲はそうは受け取っていない。
「アイリス様……その、殿下に対してどう思っているのですか?」
クラリスの無邪気な問いかけに、アイリスは思わず言葉を詰まらせた。
「私は……」
(どう思っているのか。そんなこと、考えたこともないわ)
彼女の心には、前世の記憶と、今の関係が複雑に絡み合っていた。
破滅フラグを回避するために婚約者としての務めを果たす――それが唯一の目標だったはずなのに。
「殿下は、私の婚約者です。それ以上でも以下でもありません」
アイリスはそう言い切ったが、その声はどこか冷たかった。
クラリスは何か言いたそうにしていたが、それ以上は何も言わず、小さく微笑むだけだった。
その夜、アイリスはお父様エルネストの執務室を訪れた。
エルネストは娘が現れると、少しだけ驚いた表情を浮かべた。
「珍しいな、こんな時間に。どうした?」
「お父様……婚約者として、私は正しく振る舞えていますか?」
アイリスの問いに、エルネストはしばらく黙り込んだ後、静かに口を開いた。
「アイリス、お前は立派に務めを果たしている。だが、それだけで本当に良いのか?」
「どういうことですか?」
「お前が王太子に対して見せているのは、義務としての振る舞いだ。だが、彼が求めているのは、ただの婚約者ではないのではないか?」
その言葉に、アイリスは目を見開いた。
「彼が求めているもの……」
「彼が何を望んでいるかはわからない。だが、お前が『婚約者』という役割に囚われている以上、本当の答えにはたどり着けないだろう」
エルネストの言葉は、アイリスの胸に深く響いた。
「お前がどう振る舞うかは自由だ。だが、婚約者としてだけではなく、一人の人間として、彼と向き合うことを考えてみるのも悪くはない」
アイリスは父の言葉を反芻しながら、小さく頷いた。
「……ありがとうございます、お父様。少し、考えてみます」
エルネストは微笑み、娘の頭をそっと撫でた。
「それでいい。お前がどんな道を選んでも、私はいつでもお前を支える」
馬車の中、重い沈黙が続く中で、レオナードが口を開いた。
「……貴女がここまで行動力を発揮するとは、正直驚いている」
「私は、婚約者として殿下のお力になるべき立場ですから」
アイリスは冷静に返事をしたが、その言葉にレオナードはわずかに眉をひそめた。
「婚約者として……か。貴女はそうやって、自分を枠の中に閉じ込めているように思える」
「どういう意味ですか?」
「貴女は私を助けることが、自分の役割だと考えている。だが、それだけではないはずだ。貴女自身の意思で、もっと自由に動いていい」
その言葉に、アイリスは少し驚き、そして困惑した。
前世の記憶がある彼女にとって、この婚約は「破滅フラグの中心」に他ならない。
レオナードに過度に近づきすぎることは、いずれ自分が悲惨な結末を迎えるリスクを高める――そう思い込んでいたのだ。
「……私は、婚約者としての務めを果たせれば十分です。それ以上のことを望むつもりはありません」
アイリスの声はどこか硬かった。
しかし、その返事を聞いたレオナードは静かに目を閉じ、少しだけ苦笑した。
「それ以上のことを望んでいるのは、私だけというわけか」
その言葉に、アイリスの胸が僅かにざわついた。
「殿下……?」
「いや、気にするな」
レオナードはそれ以上何も言わず、外の景色に目を向けた。
アイリスはそんな彼の横顔を見つめながら、自分の感情がわずかに揺れるのを感じていた。
調査を終えた後、王宮に戻ったアイリスは、休息のために一人で庭園を歩いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、クラリスだった。
「アイリス様、少しよろしいですか?」
「クラリスさん、どうしました?」
「実は……最近、アイリス様と殿下の関係について、周囲でいろいろな噂が広がっています」
その言葉に、アイリスは表情を引き締めた。
「噂、ですか?」
「ええ。お二人が婚約者だということは周知の事実ですけれど……それでも、『王太子殿下がアイリス様を特別視している』とか、『婚約以上の感情を抱いているのではないか』という話が出ています」
「……そうですか」
アイリスは短く答えたが、内心では動揺していた。
自分では距離を置き、婚約者としての役割を最低限に留めているつもりだったのに、周囲はそうは受け取っていない。
「アイリス様……その、殿下に対してどう思っているのですか?」
クラリスの無邪気な問いかけに、アイリスは思わず言葉を詰まらせた。
「私は……」
(どう思っているのか。そんなこと、考えたこともないわ)
彼女の心には、前世の記憶と、今の関係が複雑に絡み合っていた。
破滅フラグを回避するために婚約者としての務めを果たす――それが唯一の目標だったはずなのに。
「殿下は、私の婚約者です。それ以上でも以下でもありません」
アイリスはそう言い切ったが、その声はどこか冷たかった。
クラリスは何か言いたそうにしていたが、それ以上は何も言わず、小さく微笑むだけだった。
その夜、アイリスはお父様エルネストの執務室を訪れた。
エルネストは娘が現れると、少しだけ驚いた表情を浮かべた。
「珍しいな、こんな時間に。どうした?」
「お父様……婚約者として、私は正しく振る舞えていますか?」
アイリスの問いに、エルネストはしばらく黙り込んだ後、静かに口を開いた。
「アイリス、お前は立派に務めを果たしている。だが、それだけで本当に良いのか?」
「どういうことですか?」
「お前が王太子に対して見せているのは、義務としての振る舞いだ。だが、彼が求めているのは、ただの婚約者ではないのではないか?」
その言葉に、アイリスは目を見開いた。
「彼が求めているもの……」
「彼が何を望んでいるかはわからない。だが、お前が『婚約者』という役割に囚われている以上、本当の答えにはたどり着けないだろう」
エルネストの言葉は、アイリスの胸に深く響いた。
「お前がどう振る舞うかは自由だ。だが、婚約者としてだけではなく、一人の人間として、彼と向き合うことを考えてみるのも悪くはない」
アイリスは父の言葉を反芻しながら、小さく頷いた。
「……ありがとうございます、お父様。少し、考えてみます」
エルネストは微笑み、娘の頭をそっと撫でた。
「それでいい。お前がどんな道を選んでも、私はいつでもお前を支える」
0
あなたにおすすめの小説
大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!
古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。
その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。
『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』
昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。
領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。
一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――
【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?
旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】
佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。
新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。
「せめて回復魔法とかが良かった……」
戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。
「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」
家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。
「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」
そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。
絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。
これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。
【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました
いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。
子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。
「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」
冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。
しかし、マリエールには秘密があった。
――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。
未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。
「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。
物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立!
数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。
さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。
一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて――
「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」
これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、
ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー!
※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。
公爵令嬢は、どう考えても悪役の器じゃないようです。
三歩ミチ
恋愛
*本編は完結しました*
公爵令嬢のキャサリンは、婚約者であるベイル王子から、婚約破棄を言い渡された。その瞬間、「この世界はゲームだ」という認識が流れ込んでくる。そして私は「悪役」らしい。ところがどう考えても悪役らしいことはしていないし、そんなことができる器じゃない。
どうやら破滅は回避したし、ゲームのストーリーも終わっちゃったようだから、あとはまわりのみんなを幸せにしたい!……そこへ攻略対象達や、不遇なヒロインも絡んでくる始末。博愛主義の「悪役令嬢」が奮闘します。
※小説家になろう様で連載しています。バックアップを兼ねて、こちらでも投稿しています。
※以前打ち切ったものを、初めから改稿し、完結させました。73以降、展開が大きく変わっています。
前世ブラックOLの私が転生したら悪役令嬢でした
タマ マコト
ファンタジー
過労で倒れたブラック企業勤めのOLは、目を覚ますと公爵令嬢アーデルハイトとして転生していた。しかも立場は“断罪予定の悪役令嬢”。だが彼女は恋愛や王子の愛を選ばず、社交界を「市場」と見抜く。王家の財政が危ういことを察知し、家の莫大な資産と金融知識を武器に“期限付き融資”という刃を突きつける。理想主義の王太子と衝突しながらも、彼女は決意する――破滅を回避するためではない。国家の金脈を握り、国そのものを立て直すために。悪役令嬢の経済戦争が、静かに幕を開ける。
虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました
たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。
「無能」と捨てられた少女は、神の愛し子だった――。 凍てつく北の地で始まる、聖獣たちと冷徹公爵による「世界一過保護な」逆転生活。
秦江湖
恋愛
魔法適性「鑑定」がすべてを決める、黄金の国ルミナリス。 名門ベルグラード公爵家の末娘アデリーンは、十五歳の鑑定式で、前代未聞の『鑑定不能(黒の沈黙)』を叩き出してしまう。
「我が家の恥さらしめ。二度とその顔を見せるな」
第一王子からは婚約破棄を突きつけられ、最愛の三人の兄たちからも冷酷な言葉とともに、極寒の地「ノースガル公国」へ追放を言い渡されたアデリーン。
着の身着のままで雪原に放り出された彼女が出会ったのは、一匹の衰弱した仔狼――それは、人間には決して懐かないはずの『伝説の聖獣』だった。
「鑑定不能」の正体は、魔力ゼロなどではなく、聖獣と心を通わせる唯一の力『調律師』の証。
行き倒れたアデリーンを救ったのは、誰もが恐れる氷の公爵ゼノスで……。
「こんなに尊い存在を捨てるとは、黄金の国の連中は正気か?」
「聖獣も、私も……お前を離すつもりはない」
氷の公爵に拾われ、聖獣たちに囲まれ、これまでの不遇が嘘のような「極上溺愛」を享受するアデリーン。
一方で、彼女を捨てた黄金の国は、聖獣の加護を失い崩壊の危機に直面していた。
慌ててアデリーンを連れ戻そうとする身勝手な王族たち。
しかし、彼らの前には「復讐」の準備を終えたアデリーンの兄たちが立ちはだかる。
「遅いよ。僕らのかわいい妹を泣かせた罪、一生かけて償ってもらうからね」
これは、すべてを失った少女が、真の居場所と愛を見つけるまでの物語。
ゲーム未登場の性格最悪な悪役令嬢に転生したら推しの妻だったので、人生の恩人である推しには離婚して私以外と結婚してもらいます!
クナリ
ファンタジー
江藤樹里は、かつて画家になることを夢見ていた二十七歳の女性。
ある日気がつくと、彼女は大好きな乙女ゲームであるハイグランド・シンフォニーの世界へ転生していた。
しかし彼女が転生したのは、ヘビーユーザーであるはずの自分さえ知らない、ユーフィニアという女性。
ユーフィニアがどこの誰なのかが分からないまま戸惑う樹里の前に、ユーフィニアに仕えているメイドや、樹里がゲーム内で最も推しているキャラであり、どん底にいたときの自分の心を救ってくれたリルベオラスらが現れる。
そして樹里は、絶世の美貌を持ちながらもハイグラの世界では稀代の悪女とされているユーフィニアの実情を知っていく。
国政にまで影響をもたらすほどの悪名を持つユーフィニアを、最愛の恩人であるリルベオラスの妻でいさせるわけにはいかない。
樹里は、ゲーム未登場ながら圧倒的なアクの強さを持つユーフィニアをリルベオラスから引き離すべく、離婚を目指して動き始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる