乙女ゲームの悪役令嬢は前世の推しであるパパを幸せにしたい

藤原遊

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番外編

大人気ない王太子殿下①

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王宮の庭園。
木漏れ日が優しく芝生を照らす中、レオナードはしばらくぶりに訪れた年少の従兄弟、リオネルを案内していた。

リオネルは辺境伯の息子で、元気いっぱいの7歳。
久しぶりの再会に、レオナードもどこか微笑ましい気持ちを抱いていた。

「殿下!これが王宮の庭なんですね!広いなぁ!」

リオネルは興奮した様子で庭園を駆け回りながら、珍しい花を見つけては歓声を上げている。
そんな従兄弟の姿を眺めながら、レオナードは穏やかに声をかけた。

「少し落ち着け、リオネル。怪我をしては大変だぞ」

「はーい!」

元気に返事をしながら走り回るリオネルを見て、レオナードは小さくため息をついた。

(まあ、子どもらしいと言えばその通りだが……)

その時、庭の一角にあるベンチに座っていたアイリスの姿が目に入った。

「……アイリス?」

レオナードが彼女に気づいたのと同時に、リオネルもその視線を追った。

「わぁ!きれいなお姉さん!」

リオネルはまっすぐにアイリスの方へ駆け出していった。
レオナードがそれを止める間もなく、リオネルはアイリスの前で足を止め、大きな目を輝かせた。

「お姉さん!あなたは王宮の人ですか?」

突然の訪問者に驚いた様子のアイリスだったが、すぐに優しい笑顔を浮かべた。

「ええ、そうですわ。あなたはどなたかしら?」

「僕、リオネル!王太子殿下の従兄弟です!」

リオネルは誇らしげに胸を張って自己紹介する。
アイリスはそんな彼に微笑みかけながら、優しく頭を撫でた。

「まあ、それは素晴らしいですわね。とても元気なお子様ですね」

その様子を少し離れたところから見ていたレオナードは、胸の中に何とも言えない感情が湧き上がるのを感じた。

(……何をしている、リオネル。アイリスは私の婚約者だぞ)

「ねえ、お姉さん。僕、ここで遊ぶの初めてなんだ。いろいろ教えてくれない?」

「もちろんですわ。庭園にはいろいろな花がありますのよ。このあたりはバラ園です」

「すごい!お姉さん、王宮のこといっぱい知ってるんだね!」

アイリスの説明に興奮した様子のリオネルは、さらにぐいぐいと距離を縮めていく。
その光景を眺めているレオナードの眉が次第に険しくなっていく。

(まるで彼女が、リオネル専属の案内人のようではないか……)

リオネルが無邪気にアイリスの手を取った時、ついにレオナードは行動に移した。

「リオネル、少し落ち着け」

彼は冷静さを保ちつつも、やや低い声でリオネルに声をかけた。
リオネルは一瞬だけ驚いたように振り返ったが、すぐににっこり笑って答える。

「だって、アイリスお姉さんとお話しするの楽しいんだもん!」

その言葉に、レオナードの胸がもやもやとした感情でいっぱいになる。

(楽しいのはわかる……だが、なぜ彼女と話すことでここまで嬉しそうになるのだ)

アイリスはリオネルの無邪気な言葉に軽く笑いながら、レオナードに目を向けた。

「殿下、お従兄弟様はとても素直で可愛らしいお子様ですね」

「……そうだな」

「リオネル様、もっといろいろとご覧になりたい場所はありますか?」

「うん!じゃあ、次は噴水のところが見たい!」

アイリスがリオネルと共に歩き出そうとしたその瞬間、レオナードは自然と彼女の横に並んだ。

「リオネル。彼女を独り占めするのはほどほどにしておけ」

「えっ、いいじゃないですか!アイリスお姉さんも楽しいって言ってくれてるし!」

そのやり取りに、アイリスは少しだけ驚き、そして控えめに微笑んだ。

(殿下がこんなふうに冗談を交えるなんて……少し新鮮ですわ)

その後、リオネルが庭園の噴水に夢中になり、少し離れて遊び始めた隙に、レオナードはアイリスに声をかけた。

「……リオネルには、随分と懐かれているようだな」

「ええ、とても純粋で素敵なお子様ですわ」

その言葉に、レオナードの胸の中で再び小さな嫉妬が顔を覗かせる。

(アイリスはいつもこうだ……誰にでも分け隔てなく優しい。だが、その優しさを独り占めしたいと思う自分がいる)

「……だが、彼に振り回されて疲れてしまったのではないか?」

レオナードの問いに、アイリスは首を横に振って答えた。

「いいえ。むしろ、私の方が元気をいただいている気がしますわ」

その言葉に、レオナードは少しだけ視線を逸らし、低く呟いた。

「……少しは私にも、その元気を分けてほしいものだな」

「……殿下?」

アイリスが不思議そうに問い返したが、レオナードはそれ以上何も言わずに、庭園の景色に目を向けた。

その後、リオネルは満足そうな笑顔を浮かべながらレオナードの元に戻ってきた。

「ねえ殿下、アイリスお姉さんってすごく優しい人だね!」

「ああ、そうだな」

「僕、大人になったらアイリスお姉さんみたいな人と結婚したいな!」

その無邪気すぎる一言に、レオナードは思わず言葉を詰まらせた。
だが、すぐに冷静さを装いながら答えた。

「リオネル、それはお前にはまだ早すぎる話だ」

「そうかなぁ?でも、本当に素敵な人だと思う!」

リオネルの言葉に、レオナードの胸の中には複雑な感情が渦巻いていた。

(アイリス、お前の魅力は年齢を問わず誰をも惹きつける。だが……やはり私だけのものにしたい)

その想いを胸に、レオナードはアイリスの後ろ姿を静かに見つめていた。
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