悪役令嬢は修道院を目指しますーなのに、過剰な溺愛が止まりません

藤原遊

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1章 修道女を目指します

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次の日、使用人クラリスがまたもや慌ててやってきた。

「お嬢様、大変です!さらに噂が広まってしまいました!」

「……今度は何ですの?」

少し嫌な予感がした。クラリスは戸惑いながら口を開く。

「『リリアナお嬢様が修道女になりたいのは、殿下との婚約に絶望したからだ』という話が……。しかも、それを聞いた貴族たちが、次々とお見合いの申し出をしているとか……」

私は呆然とした。

「お見合いの申し出……?どうしてそうなるの?」

「皆さん、『リリアナお嬢様を救いたい』というお気持ちのようで……」

「救うって、一体何から?」

自分のことなのに、まるで知らない話を聞いている気分だった。誤解が広がるたびに話がどんどん膨らみ、もはや修正不可能になっている気がする。

「殿下にこのことが伝われば、また厄介なことになりそうね……」

私は額に手を当てて深いため息をついた。


昼食の時間、母がまた私を真剣な顔で呼び出した。今度は父も一緒だ。

「リリアナ、あなたに一度だけ聞きたいことがあります」

父は重々しく切り出した。どうやらこの話は、昼食前にしておきたいというほど重要なことらしい。

「あなた、本当に修道女になることを望んでいるの?」

「ええ、そうですわ」

「それならば……その理由を聞かせてほしい。もし、修道院が本当にあなたを幸せにすると確信しているなら、私たちも協力しよう」

父の真剣な眼差しに、私は一瞬心が揺れた。どう答えれば彼らを納得させられるのか。

「わたくし、もう争いのない静かな場所で生きていきたいのです」

静かな声で言うと、父は一瞬驚いたように目を見開いた。だが、すぐに深くうなずく。

「分かった。だが、君がそう思うに至るまでの何かを、私たちは見逃していないか?」

「そうです!お父様の言う通りです!」

母が乗り出してくる。

「リリアナ、何があったのか正直に言って。私たち、あなたを助けたいのよ!」

「……ですから、誰も何もしていません!」

私はもう一度説明しようとするが、彼らの真剣な表情を見ると、これ以上話すことが無駄に思えた。

「これ以上心配をかけたくありませんの。どうか、信じてください」

父と母は困惑した顔を見合わせる。やがて母が静かに頷いた。

「分かったわ、リリアナ。ただ、これだけは覚えていて。何があっても、あなたには家族がいることを」

「……ありがとうございます、お母様」

私はそう答えるのが精一杯だった。


その日の夕方、ルシアンが突然屋敷を訪ねてきた。案内もそこそこに、彼は私のいる応接間に現れる。

「君に話がある」

第一声からして、ただ事ではない。

「殿下、何かありましたか?」

「……君に関する噂がさらに広まっている。『修道院に行きたいのは俺との婚約破棄が理由』とか、『君が俺に虐げられた結果だ』とか……。俺は、耐えられない」

耐えられない?その言葉に、私は思わず目を丸くした。

「殿下、それはすべて誤解です」

「分かっている。だが、君の名誉を守るためにも、俺は何かしなければならない」

「何を、なさるおつもりですか?」

彼の目が鋭く光る。

「結婚だ」

「……は?」

あまりの唐突な提案に、私は呆然とした。

「君が修道院に行きたがる理由を誰にも与えないためには、それしかない。君が俺の婚約者である限り、誰も余計な噂を立てることはできない」

「そんな……」

私は言葉を失った。

「君が望むなら、修道院に行くことも自由だ。だが、その前に俺にできることをさせてくれ」

彼の瞳には、どこか決意のようなものが宿っていた。その真剣さに、私はどう応えればいいのか分からなかった。

その夜、私はベッドの中で目を閉じながら考えていた。

(修道女になれば、こんな騒ぎに巻き込まれることはないはず……)

だが、周囲の反応が大きくなればなるほど、私は自分がどこまで進むべきか分からなくなっていた。

(ルシアン殿下の提案は……ありえないわ)

私は何度もそう自分に言い聞かせた。だが、その言葉が胸の奥で消えていくたび、彼の言葉が頭をよぎる。

「……次の行動を考えないと」

そう呟いたとき、窓の外から月の光が優しく差し込んでいた。
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