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1章 修道女を目指します
閑話 弟の誤解と決意
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姉が突然、「修道女になりたい」と言い出したのは、ある朝のことだった。僕――エドガー・ヴァレンシュタインにとって、その言葉は衝撃以外の何物でもなかった。
あの姉が、修道女?
信じられない。姉は強くて誇り高く、どんな相手に対しても一歩も引かない存在だ。僕にとっては――そう、少し怖いけど、それ以上に憧れでもある。
それが、どうして修道女なんて……。
その日以来、僕は姉の様子を密かに観察するようになった。けれど、彼女の態度は何も変わらない。穏やかで優しく、笑顔すら浮かべている。
でも、そこに違和感を覚えた。
笑顔がどこか無理をしているように見えたのだ。姉が本当に平気なはずがない。きっと何か、誰にも言えない辛いことがあったのだろう。
(ルシアン殿下……まさか、殿下が姉さんを傷つけたんじゃないだろうな?)
考えたくはなかったが、可能性はある。婚約者である殿下が冷たい態度を取ったり、厳しい言葉をかけたりしたのかもしれない。
姉が全てを諦めたように修道女になりたいと言い出したのは、そのせいではないだろうか。
「……エドガー様、最近様子が変ですよ?」
執務室で書類に目を通していた僕に、使用人のクラリスが声をかけてきた。彼女はいつも控えめだが、こうして遠慮なく口を挟んでくることもある。
「別に変じゃない。姉さんのことが心配なだけだ」
「リリアナお嬢様ですか?」
クラリスの声には少し驚きが含まれていた。
「そうだ。姉さんが修道女になりたいなんて、どう考えてもおかしいだろう?」
「……確かに、急なお話でしたね。でも、お嬢様はお変わりなくお元気そうですよ?」
「元気そうに見えるだけだ」
僕は書類を机に置き、真剣な顔でクラリスを見た。
「姉さんは昔から、辛いことがあっても絶対に顔に出さない。だから僕たちが気づけないんだ」
「……そうでしょうか?」
クラリスは首を傾げた。彼女の反応に少し苛立ちを覚えたが、すぐにそれを抑えた。
「とにかく、姉さんが何かを隠しているのは確かだ。僕がそれを解き明かして、姉さんを救わなきゃならない」
「救う……?」
クラリスの表情が微妙に引きつるのを見ながら、僕は深くうなずいた。
「そうだ。僕が動かなければ、姉さんはきっとこのまま孤独な道を歩むことになる。それだけは絶対に避けたいんだ」
その日の夜、僕は姉に話しかけるタイミングをずっと探していた。彼女は廊下を静かに歩いていて、まるで何も気にしていないようだった。
「姉さん」
僕が呼びかけると、彼女は立ち止まって振り返った。
「どうしたの、エドガー?」
彼女の顔には、微笑みが浮かんでいた。それがどれほど強がりに見えたか、彼女は知らないだろう。
「何か、僕に言いたいことはない?」
「言いたいこと?」
「……辛いことがあるなら、話してほしい。僕に隠さなくていい」
姉は少し驚いたように目を見開いた。それから、小さく笑う。
「大丈夫よ、エドガー。わたくしは元気だし、特に困っていることもないわ」
その言葉に、僕は思わず拳を握りしめた。
「姉さん、僕に嘘をつかないでくれ!」
彼女は驚いたように目を瞬かせた。
「嘘なんてついていないわ。本当に何も問題は――」
「何もないはずがない!姉さんが修道女になりたいなんて言うなんて、それだけでおかしいんだ!僕は……僕は、姉さんが傷つくのを見たくない!」
叫んだ僕に、姉は一瞬呆然としたようだった。それから、少しだけ困ったような笑顔を浮かべる。
「……ありがとう、エドガー。でも、わたくしが決めたことなの。だから、心配しないで」
そう言って、彼女はまた歩き出した。その背中を見つめながら、僕は心の中で誓った。
(絶対に、姉さんを守る)
誤解かもしれない。でも、僕にとっては関係ない。姉さんが幸せになれるように、僕は何だってするつもりだ。
次の日、僕は母から新しい話を聞いた。
「ルシアン殿下が修道院に向かったそうよ」
その言葉に、僕は思わず立ち上がる。
「……どういうこと?」
「リリアナが修道院を訪ねたと知って、後を追ったらしいわ。きっと、リリアナのことを心配しているのよ」
その話を聞いて、胸に不安が広がった。
(姉さん、今度は殿下に追い詰められているんじゃないだろうな……)
僕は再び誓いを新たにした。
(姉さん、待っていてくれ。僕が必ず助けるから)
あの姉が、修道女?
信じられない。姉は強くて誇り高く、どんな相手に対しても一歩も引かない存在だ。僕にとっては――そう、少し怖いけど、それ以上に憧れでもある。
それが、どうして修道女なんて……。
その日以来、僕は姉の様子を密かに観察するようになった。けれど、彼女の態度は何も変わらない。穏やかで優しく、笑顔すら浮かべている。
でも、そこに違和感を覚えた。
笑顔がどこか無理をしているように見えたのだ。姉が本当に平気なはずがない。きっと何か、誰にも言えない辛いことがあったのだろう。
(ルシアン殿下……まさか、殿下が姉さんを傷つけたんじゃないだろうな?)
考えたくはなかったが、可能性はある。婚約者である殿下が冷たい態度を取ったり、厳しい言葉をかけたりしたのかもしれない。
姉が全てを諦めたように修道女になりたいと言い出したのは、そのせいではないだろうか。
「……エドガー様、最近様子が変ですよ?」
執務室で書類に目を通していた僕に、使用人のクラリスが声をかけてきた。彼女はいつも控えめだが、こうして遠慮なく口を挟んでくることもある。
「別に変じゃない。姉さんのことが心配なだけだ」
「リリアナお嬢様ですか?」
クラリスの声には少し驚きが含まれていた。
「そうだ。姉さんが修道女になりたいなんて、どう考えてもおかしいだろう?」
「……確かに、急なお話でしたね。でも、お嬢様はお変わりなくお元気そうですよ?」
「元気そうに見えるだけだ」
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「姉さんは昔から、辛いことがあっても絶対に顔に出さない。だから僕たちが気づけないんだ」
「……そうでしょうか?」
クラリスは首を傾げた。彼女の反応に少し苛立ちを覚えたが、すぐにそれを抑えた。
「とにかく、姉さんが何かを隠しているのは確かだ。僕がそれを解き明かして、姉さんを救わなきゃならない」
「救う……?」
クラリスの表情が微妙に引きつるのを見ながら、僕は深くうなずいた。
「そうだ。僕が動かなければ、姉さんはきっとこのまま孤独な道を歩むことになる。それだけは絶対に避けたいんだ」
その日の夜、僕は姉に話しかけるタイミングをずっと探していた。彼女は廊下を静かに歩いていて、まるで何も気にしていないようだった。
「姉さん」
僕が呼びかけると、彼女は立ち止まって振り返った。
「どうしたの、エドガー?」
彼女の顔には、微笑みが浮かんでいた。それがどれほど強がりに見えたか、彼女は知らないだろう。
「何か、僕に言いたいことはない?」
「言いたいこと?」
「……辛いことがあるなら、話してほしい。僕に隠さなくていい」
姉は少し驚いたように目を見開いた。それから、小さく笑う。
「大丈夫よ、エドガー。わたくしは元気だし、特に困っていることもないわ」
その言葉に、僕は思わず拳を握りしめた。
「姉さん、僕に嘘をつかないでくれ!」
彼女は驚いたように目を瞬かせた。
「嘘なんてついていないわ。本当に何も問題は――」
「何もないはずがない!姉さんが修道女になりたいなんて言うなんて、それだけでおかしいんだ!僕は……僕は、姉さんが傷つくのを見たくない!」
叫んだ僕に、姉は一瞬呆然としたようだった。それから、少しだけ困ったような笑顔を浮かべる。
「……ありがとう、エドガー。でも、わたくしが決めたことなの。だから、心配しないで」
そう言って、彼女はまた歩き出した。その背中を見つめながら、僕は心の中で誓った。
(絶対に、姉さんを守る)
誤解かもしれない。でも、僕にとっては関係ない。姉さんが幸せになれるように、僕は何だってするつもりだ。
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その言葉に、僕は思わず立ち上がる。
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「リリアナが修道院を訪ねたと知って、後を追ったらしいわ。きっと、リリアナのことを心配しているのよ」
その話を聞いて、胸に不安が広がった。
(姉さん、今度は殿下に追い詰められているんじゃないだろうな……)
僕は再び誓いを新たにした。
(姉さん、待っていてくれ。僕が必ず助けるから)
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