悪役令嬢は修道院を目指しますーなのに、過剰な溺愛が止まりません

7章 陰謀の影

閑話 父たちの思惑

ヴァレンシュタイン侯爵が王宮を訪れたのは、リリアナとルシアン殿下がオルフ公爵の陰謀に立ち向ち合う中、重要な情報共有が必要だという連絡を受けたからだった。国王の私室に通されると、王自らが迎え入れた。

「侯爵、急に呼び出して申し訳ない。だが、そなたと話すべきことがある。」

「陛下のお言葉ならば、何なりと。」

侯爵は静かに頭を下げながら、差し出された椅子に腰掛けた。国王は自ら侯爵に酒を注ぎ、穏やかな口調で切り出した。

「ルシアンが、そなたの娘リリアナ嬢と共に危険な調査に乗り出している。」

「はい、聞いております。わたくしも、リリアナがこうした行動に出たことに驚いておりますが……彼女自身が望んだことです。」

国王は杯を手に取り、軽く一口飲んだ後、侯爵を見つめた。

「驚いているのは私もだ。リリアナ嬢がここまでの行動力を持っているとは思わなかった。そして、それに付き従う形になったルシアンも……」

国王の言葉には少しだけ驚きが含まれていた。侯爵はその言葉に、少し微笑みを浮かべた。

「リリアナは、わたくしが思っている以上に強い意志を持っています。ですが、その裏で多くの葛藤も抱えているのでしょう。」

「葛藤か……。それは、ルシアンも同じだろうな。」

侯爵は静かに頷いた。

「おそらく、リリアナも殿下も、若さゆえに全てを自分で抱え込もうとしているのだと思います。彼らの挑む相手はオルフ公爵――あまりにも危険すぎます。」

「その通りだ。だが、我々が守るべき時と、彼ら自身に成長の機会を与えるべき時があるのではないか？」

侯爵はその言葉にハッとした。

「成長の機会……」

「そうだ。リリアナ嬢もルシアンも、未来のこの国を支える存在だ。だからこそ、この試練を彼らがどう乗り越えるかを、我々は見守らねばならない。」

国王の表情には、深い思慮と決意が宿っていた。

「陛下の仰る通りかもしれません。しかし、親としては、やはり心配が尽きないものです。」

侯爵が正直な気持ちを口にすると、国王は微笑みながら頷いた。

「私も同じだ。ルシアンが自分の意志で動いているとはいえ、父としての心配は拭えん。だが……親がいつまでも子を守り続けるわけにはいかないだろう？」

「……その通りですな。」

侯爵は静かに杯を傾けた。王もまた、自らの杯を手に取り、続けた。

「私が彼らに期待しているのは、ただ危険を乗り越えるだけではない。互いに協力し、絆を深め、未来に繋がる何かを築いてほしいのだ。」

「……それは、わたくしも同じ気持ちです。」

侯爵はその言葉に同意し、決意を新たにした。

「ですが、彼らがどうしても危機に陥ることがあれば……その時は、全力で支えに参りましょう。」

「もちろんだ。見守るのが親の役目だとしても、手を貸す時は躊躇しない。」

国王と侯爵は互いに杯を掲げ、小さく頷き合った。

「この試練が、彼らにとって糧となることを祈りましょう。」

「ええ。それが未来のためにもなる。」

二人の父親は、若い世代の成長と絆に期待を込め、静かに杯を合わせた。