悪役令嬢は修道院を目指しますーなのに、過剰な溺愛が止まりません

藤原遊

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8章 迫る決戦

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「これがオルフ公爵の陰謀を暴く鍵になるはずだ。」

ルシアン殿下が持ち帰った魔石の破片と、輸送ルートを示す地図を前に、私たちは新たな作戦を練るべく再び集まった。エドガーが少し誇らしげに話し始める。

「これで公爵の動きを完全に封じ込められるね!次はどうするの?」

「この証拠を王宮に届ける。それと同時に、彼らの次の取引を妨害し、動きを封じ込める。」
ルシアン殿下が冷静に指示を出す。その言葉には揺るぎない自信が感じられた。

「次の取引はいつ、どこで行われるか分かっているのですか?」

エリーナが地図を覗き込みながら尋ねる。

「地図に記されているこの港だ。公爵の関係者たちがここに集結する予定になっている。おそらく次の大規模な取引がここで行われるだろう。」

ルシアン殿下が指差したのは、王都から少し離れた海沿いの港町だった。

「そこに踏み込むのですね。」

私は彼の言葉に頷いた。

「そうだ。だが、今回は大規模な動きを必要とする。俺が王宮から兵を連れてくる間、君たちは現地で準備を整えてくれ。」

「分かりました。殿下にお任せします。」

そう答えながらも、胸の中では緊張が高まっていた。この一手が成功するか否かで、全てが決まるのだ。

数日後、私たちは港町に到着した。現地で取引の準備が進んでいる様子を遠目に確認しながら、私たちは殿下が兵を連れて到着するのを待っていた。

「姉さん、向こうの倉庫に人が出入りしてる。あれが取引の現場だね。」

エドガーが遠くを指差しながら言う。

「間違いないわ。でも、今はまだ動かないで。殿下が来るのを待つのよ。」

「うん、分かった!」

エドガーの落ち着いた返事に少しだけ安堵しながらも、私は緊張で胸が高鳴るのを感じていた。港町の空気は冷たく、波の音が耳に響いている。

日が暮れた頃、ルシアン殿下が率いる部隊が到着した。その姿を見た瞬間、私の胸に広がる不安が少しだけ和らぐ。

「リリアナ、準備はいいか?」

彼が真剣な目で私を見つめる。その瞳には揺るぎない決意が宿っていた。

「ええ、いつでも大丈夫です。」

「よし。取引が始まるタイミングを見計らって動くぞ。」

殿下の指示のもと、兵士たちが静かに配置につく。エドガーとエリーナも、それぞれの役割を確認しながら待機していた。

やがて、倉庫の中で明かりが灯り、人々が集まり始めた。見張りが出入りし、取引が始まるのは時間の問題だ。

「殿下、準備が整いました。」

部下の一人が報告する。

「よし、全員突入準備だ。」

殿下が静かに命令を下す。緊張が高まる中、私は殿下の隣に立ちながら深呼吸をした。

「リリアナ、君はここにいろ。」

彼が低い声で言う。その言葉に、私は少しだけ眉をひそめた。

「でも、わたくしも一緒に……」

「君の力は必要だ。だが、ここで見守ることもまた役割だと理解してくれ。」

彼の真剣な声に、私はしばらく沈黙していたが、やがて小さく頷いた。

「分かりました。でも、どうか無事で戻ってきてください。」

「約束する。」

彼が微笑む。その笑顔を見た瞬間、私は彼を信じて待つ覚悟を決めた。

夜が更ける中、ルシアン殿下が率いる部隊が港町の倉庫に突入した。怒号や剣戟の音が遠くから響き渡る中、私は倉庫の少し離れた場所で、エリーナと共に祈るような気持ちでその様子を見守っていた。

(どうか……無事でいてください、殿下。)

心の中で何度もそう呟きながら、私は拳を握り締めていた。自分の無力さが悔しかったが、殿下を信じることが今の私の役目だと必死に言い聞かせていた。

やがて、倉庫の中の騒ぎが静まっていく。数人の兵士が出口から囚われた男たちを引きずり出し、次々と制圧していくのが見えた。

「終わった……!」

エリーナが嬉しそうに声を上げる。その言葉に私も胸を撫で下ろした。

(殿下……無事でいて……)

しばらくして、ルシアン殿下が倉庫から現れた。少し疲れた表情ではあったが、その手には取引の帳簿が握られていた。エドガーもその隣に立っている。

「殿下……!」

私は彼に駆け寄った。

「リリアナ、待たせたな。」

殿下が私に向けて微笑む。その笑顔に、私は安堵のあまり言葉が出なかった。

「無事で……本当に良かったです。」

私はそう呟いたが、殿下の手が私の肩に触れた瞬間、胸が高鳴るのを感じた。

「君を危険な目に遭わせるわけにはいかない。だからこそ、俺が無事に戻る必要があった。」

彼の声は静かだが、どこか温かい。思わず顔を伏せてしまう自分が恥ずかしかった。

「でも、殿下……あまり無茶をしないでください。」

私がそう呟くと、殿下は少しだけ苦笑した。

「それを君に言われるとは思わなかったな。」

彼の言葉に、私もつい微笑みがこぼれる。

その後、残りの作業が進む中、殿下と私は少しだけ倉庫の裏手に立っていた。月明かりが二人を照らす中、彼がふと私の方を振り向いた。

「リリアナ、君に聞きたいことがある。」

「何でしょう?」

「君は……どうしてここまで頑張れるんだ?」

殿下の問いに、私は少し考え込んだ。

「わたくしは……守りたいのです。家族を、この国を。以前のわたくしは、ただ自分のことだけを考えていました。でも、今は違います。」

「……そうか。」

殿下は静かに頷いた。その目がどこか遠くを見つめているようで、私は少し不安になった。

「殿下?」

「君が……俺の隣にいる未来を想像してしまった。」

その言葉に、私は驚いて彼を見つめた。殿下は目を伏せることなく、まっすぐ私を見つめている。

「君は、俺が想像する以上に強い人だ。そして、君がいてくれるだけで、俺はどんな危険も乗り越えられる気がする。」

「……殿下、それは……」

「だから、俺を信じてほしい。君が守りたいものを、俺も守る。」

殿下の真剣な言葉に、胸が締め付けられるような感覚を覚えた。私が彼を信じていないわけではない。それでも、彼の想いに応えることができる自分なのかという不安が胸をよぎる。

「……わたくしにはまだ、至らないところがたくさんあります。」

「それでもいい。君の隣に立てるよう、俺も成長し続けるつもりだ。」

殿下が少しだけ微笑む。その笑顔を見た瞬間、胸の中にあった不安が少しだけ和らいだ気がした。

「……ありがとうございます、殿下。」

私は小さく頭を下げ、彼の言葉を胸に刻み込むようにした。
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