悪役令嬢は修道院を目指しますーなのに、過剰な溺愛が止まりません

9章 未来への一歩

②

オルフ公爵が逮捕され、国中に平和が戻りつつある中、私たちはようやく一息つける日々を迎えていた。だが、どこかそわそわした気持ちが胸の奥に残っている。

そんなある日の午後、王宮の庭園に呼び出された私は、そこで待つルシアン殿下の姿を見つけた。彼は私に気づくと微笑み、静かに手を差し出してくる。

「リリアナ、よく来てくれた。」

「殿下がわたくしをお呼びだと聞きまして。」

彼の真剣な瞳を見ていると、なぜか胸が高鳴る。何か重要な話があるのだろう――そんな予感がした。

「少し歩こうか。」

彼に誘われ、並んで歩き出す。庭園を吹き抜ける風が心地よく、木々の間から差し込む光が暖かい。

「リリアナ、この数週間、本当にありがとう。君がいなければ、この国はどうなっていたか分からない。」

「そんな……わたくしは、殿下や皆さまに支えられていただけです。」

私がそう答えると、彼は少しだけ眉を寄せた。

「君はいつもそうだ。自分の功績を小さく言い、周りに感謝を向ける。でも、それがどれだけの危険を伴ったか、君は分かっているのか？」

「それは……」

言葉に詰まる私に、彼は足を止め、まっすぐに私を見つめた。

「君がどれだけ優秀で、強くて、献身的であるかを俺は知っている。だが、それ以上に君は、自分を犠牲にしすぎる」

「犠牲……」

「君が全てを抱え込む姿を見て、俺は何度も不安になった。だから、これだけは言わせてほしい。君一人で背負わせるつもりはない。」

彼の言葉に、胸が締め付けられる思いがした。彼がどれほど私のことを気にかけ、見守ってくれていたのかを、改めて感じたからだ。

「殿下……」

彼は私の名前を静かに呼びながら、手を差し出した。その手が、わずかに震えているのが分かる。

「リリアナ。」

「はい」

その声に緊張を覚えると同時に、彼の真剣な目に引き込まれる。

「俺は……改めて、君にこの言葉を伝えたい。」

彼の言葉に、私の心臓が早鐘のように鳴り始める。

「リリアナ、俺と結婚してくれ。」

彼が静かに膝をつき、私の手を取った。その仕草は堂々としていて、彼の真剣な想いが伝わってくる。

「君がいてくれることで、俺はこれからも国を守る力を持ち続けられる。君と共に未来を築きたい。」

「殿下……」

言葉が出てこない。ただ彼の瞳を見つめながら、その想いの重さに胸がいっぱいになる。

「もちろん、答えは分かっているつもりだ。でも、俺の口から改めて伝えることが大事だと思った。」

その言葉に、私の目頭が熱くなる。彼がどれだけ私を大切に思い、未来を共にしたいと願っているかが痛いほど伝わってきた。

「わたくしでよろしければ、喜んでお受けします。」

彼の手を握り返しながら、ようやく言葉を紡ぐ。彼は嬉しそうに微笑み、立ち上がると私をそっと抱きしめた。

「ありがとう、リリアナ。君が隣にいてくれることが、俺の全てだ。」

その言葉に、私も自然と微笑みが浮かぶ。これまでの不安や迷いが、彼の言葉と温もりに溶かされていく。

数日後、王宮の大広間で、婚約発表が行われた。豪華な装飾に囲まれ、集まった貴族たちが一斉に注目する中、私はルシアン殿下と並んで立っていた。

「皆の者！」

国王が玉座から声を上げる。その威厳ある声に場内が静まり返る。

「本日、我が息子ルシアンとヴァレンシュタイン家の令嬢リリアナの結婚が正式に決定したことを報告する！」

その言葉に、貴族たちから歓声が上がる。彼らの祝福の声が響き渡る中、私は殿下と目を合わせ、小さく微笑んだ。

「緊張しているのか？」

彼が小声で囁く。

「少しだけ。でも、殿下が隣にいてくださるので大丈夫です。」

「そうか。君が隣にいるだけで、俺も安心できる。」

彼の穏やかな声に、胸が温かくなる。これが私の選んだ未来――彼と共に歩む道。迷いはもう、どこにもなかった。

後日、結婚式の日程が公表され、国中が祝福のムードに包まれる中、私は改めて自分の選んだ未来に向き合っていた。

「これからも、わたくしらしく前を向いて歩いていきます。殿下と共に。」

未来への期待と希望を胸に、私は静かに微笑んだ。