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離宮の部屋には、まだ薬草の香が薄く残っていた。
白のカーテンが風に揺れ、ベッド脇に活けられた花瓶には、ユリアンが届けさせた淡い青の花が咲いている。
「リリーナ様、ご機嫌よう。少しだけ失礼しますわね」
柔らかな声とともに現れたのはカミラ。
その後ろに控える黒衣の青年がエドガーだった。
「わざわざ来てくれてありがとう。今はだいぶ良くなって……ほら、こうして起き上がれるようにもなったの」
リリーナは白い寝間着に薄手のショールを纏いながら、穏やかな笑みを見せた。
その頬に、カミラは心底安堵の色を浮かべる。
「本当によかった……私、本気で泣いたのよ?
このまま消えてしまうんじゃないかって……」
「心配かけてしまってごめんなさい。けれどもう、大丈夫」
リリーナの微笑みは、儚くも静かに輝いている。
エドガーは黙って扉の前に控えていたが、カミラがちらりと視線を送ると小さく頷いた。
「……王都では、いくつかの動きが落ち着きました」
「兄上、ヴァルセリオス殿下は、正式に王位継承権を放棄なさったわ」
リリーナの瞳が、僅かに揺れた。
けれどそれは悲しみではない。
「……そう。兄上が、ご自分で選ばれたのなら、それが一番ね」
「ええ。騎士団長として、これからは国を守ってくださるそうよ。
そして、ユリアン殿下が王太子に」
その名が告げられた瞬間、リリーナの口元に、柔らかな光が宿る。
白磁のようなその横顔に、ふと春風が差すような、あたたかな表情が浮かぶ。
「ふたりとも、ようやく……自分の歩くべき道を見つけたのね」
嬉しそうに、でもどこか遠くを見るようなその顔に、カミラは扇を当てながら肩をすくめた。
「まったく……あなたが仕組んでいたことかは、聞かないことにするわ。
本人たちが納得してるなら、私たちがどうこう言うことじゃないし」
「希望通りならいいんじゃないですか、リリーナ様が」
エドガーの言葉に、リリーナはふっと笑った。
少しだけ目を伏せ、言葉の代わりに、手元のアクアマリンのネックレスに指先を添える。
「ええ、そうね。……今が一番、穏やかで幸せかもしれないわ」
部屋に一瞬、静けさが落ちる。
カミラはそれ以上は踏み込まず、ふわりと立ち上がった。
「それじゃあ、今日はこの辺で。あまり長居すると、弟君に怒られるわ」
「本当に……ご無理なさらずに。
何かあれば、すぐに私たちへ」
エドガーの言葉に、リリーナはこくりと頷く。
「ありがとう、ふたりとも」
見送るその眼差しに、わずかな翳りもない。
けれどその背で、アクアマリンが微かにきらめいたのを、誰も気づかなかった。
白のカーテンが風に揺れ、ベッド脇に活けられた花瓶には、ユリアンが届けさせた淡い青の花が咲いている。
「リリーナ様、ご機嫌よう。少しだけ失礼しますわね」
柔らかな声とともに現れたのはカミラ。
その後ろに控える黒衣の青年がエドガーだった。
「わざわざ来てくれてありがとう。今はだいぶ良くなって……ほら、こうして起き上がれるようにもなったの」
リリーナは白い寝間着に薄手のショールを纏いながら、穏やかな笑みを見せた。
その頬に、カミラは心底安堵の色を浮かべる。
「本当によかった……私、本気で泣いたのよ?
このまま消えてしまうんじゃないかって……」
「心配かけてしまってごめんなさい。けれどもう、大丈夫」
リリーナの微笑みは、儚くも静かに輝いている。
エドガーは黙って扉の前に控えていたが、カミラがちらりと視線を送ると小さく頷いた。
「……王都では、いくつかの動きが落ち着きました」
「兄上、ヴァルセリオス殿下は、正式に王位継承権を放棄なさったわ」
リリーナの瞳が、僅かに揺れた。
けれどそれは悲しみではない。
「……そう。兄上が、ご自分で選ばれたのなら、それが一番ね」
「ええ。騎士団長として、これからは国を守ってくださるそうよ。
そして、ユリアン殿下が王太子に」
その名が告げられた瞬間、リリーナの口元に、柔らかな光が宿る。
白磁のようなその横顔に、ふと春風が差すような、あたたかな表情が浮かぶ。
「ふたりとも、ようやく……自分の歩くべき道を見つけたのね」
嬉しそうに、でもどこか遠くを見るようなその顔に、カミラは扇を当てながら肩をすくめた。
「まったく……あなたが仕組んでいたことかは、聞かないことにするわ。
本人たちが納得してるなら、私たちがどうこう言うことじゃないし」
「希望通りならいいんじゃないですか、リリーナ様が」
エドガーの言葉に、リリーナはふっと笑った。
少しだけ目を伏せ、言葉の代わりに、手元のアクアマリンのネックレスに指先を添える。
「ええ、そうね。……今が一番、穏やかで幸せかもしれないわ」
部屋に一瞬、静けさが落ちる。
カミラはそれ以上は踏み込まず、ふわりと立ち上がった。
「それじゃあ、今日はこの辺で。あまり長居すると、弟君に怒られるわ」
「本当に……ご無理なさらずに。
何かあれば、すぐに私たちへ」
エドガーの言葉に、リリーナはこくりと頷く。
「ありがとう、ふたりとも」
見送るその眼差しに、わずかな翳りもない。
けれどその背で、アクアマリンが微かにきらめいたのを、誰も気づかなかった。
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