終わったらバカンスに行くんだ！〜幻想に終わる社畜の夢〜

担当者すでに退職済

「DX推進担当、すでに退職済み」

AM 9:00 — DX運用開始（グダグダ）

「えー、本日よりDX推進プロジェクトが正式に運用開始となります！ 皆さん、頑張ってくださいね！」

本社からの一方的なメールが届いた瞬間、地方本部全体に冷たい空気が流れた。

「……いや、ウチの営業ツール、まだ設定途中なんですが？」
「労務管理システム、そもそも使い方がわかんないんですけど？」
「経費精算、謎のエラー出てるけど、問い合わせ窓口もないんですが？」

地方本部はどこも初期構築が終わっていなかった。 にもかかわらず、本社は「もう運用開始したから！」と、すべての問題を無視して突っ走ったのだ。

「……これ、普通に無理では？」

チカは思わず鬼島の方を見る。
鬼島は、すでにデスクに突っ伏していた。

「鬼島さん、大丈夫ですか？」
「……俺は何も聞こえない」
「聞こえた方がいいですよ、現実は逃げませんから」

AM 10:30 — SOSを本社に送る

「とにかく、本社に問い合わせするしかないな……」

鬼島は深いため息をつきながら、DX推進プロジェクトを担当していた本社社員にメールを送ることにした。

📩 件名：「DXシステムに関する緊急の問い合わせ」
📩 「現在、システムの運用が困難な状況です。初期設定のマニュアルがなく、一部機能が動作しません。本社のDX担当者のサポートをお願いします」

送信ボタンを押し、鬼島とチカはしばらく待った。

10分後——。

📩 【エラー】「このメールアドレスは存在しません」

「……え？」

チカがメールを二度見する。
鬼島も首をかしげながら、他のDX推進担当の社員を検索する。

「鬼島さん、このDX推進プロジェクトの担当者って……誰でしたっけ？」
「確か、本社の〇〇ってやつだったよな」

念のため、社内の連絡先一覧を確認してみる。

結果——

「DX推進担当者、すでに退職済み」

「……」
「……」

「ちょっと待って、DX推進を主導した本人がいないってどういうことですか？」
「いや、俺に聞かれても……」

DX推進の全責任者が、運用開始前に退職していた。

PM 12:00 — さらなる地獄

「ウチの営業ツール、設定終わってないからログインすらできないんですけど！」
「労務管理システム、エラーで勤怠登録ができない！」
「経費精算ツール、バグって社員全員の請求額がゼロになってるぞ！？」

全国の地方本部から次々と悲鳴が上がる。

「……鬼島さん、本社の他の人に聞いてみましょう」

📞 「本社の△△ですが、DXのことはよく分かりません」
📞 「あー、それはDX担当の××がやってたんで、こっちでは分からないですね」
📞 「え、もう運用開始してるんですか？ 初耳ですね……」

「本社、誰もDXのこと把握してないんですが……！？」

PM 1:30 — DX、無理でした

「……もう、全部手作業でやるしかないな」

鬼島はついに諦めた。

「チカ、各地方本部に連絡しろ。今後も従来のやり方で業務を続行するって」
「つまり、DXシステム……全く使えないってことですか？」
「うん」

「いやいやいや！ 何のためのDXだったんですか！？ 効率化とは！？」
「多分、本社が“DXやってる感”を出したかっただけだろ」

（結局、何も変わらなかった……）

こうして、地方本部の社畜たちは、今日もアナログ作業で業務を回すのであった。

—— 終わり（そして、DXは消えた）