終わったらバカンスに行くんだ!〜幻想に終わる社畜の夢〜

藤原遊

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バナーはすぐできるでしょ?

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「すぐできるでしょ?案件は、すぐ終わらない」

AM 9:30 — クライアントからの依頼

「チカ、クライアントからバナー1枚作ってほしいって連絡が来た」

鬼島リョウが、朝のコーヒーを飲みながらそう言った。

「バナーですか?」
「うん。簡単な画像だから、すぐできるでしょ?って言ってた」

「……すぐできる、ねぇ」

(そう言われる案件ほど、すぐ終わらないんだよなぁ……)

AM 10:00 — 何もない

とりあえず、バナーを作り始めるためにクライアントからの素材を確認する。

(えーと、ロゴはどこに……)

ファイルを探す。

探す。

探す。

(……ない。)

「鬼島さん、クライアントからロゴが来てないんですけど?」
「あー、それな。『ロゴはウェブサイトから取ればいいでしょ?』って言ってた」

「いやいやいやいや」

「普通、印刷用の高解像度データとかあるはずでは!?」
「クライアントが、ロゴデータの存在を知らなかったんだろ」
「……これ、すぐ終わる案件ですか?」
「まだ始まってすらいないな」

AM 11:00 — 要件もふんわり

「鬼島さん、バナーのデザインの方向性、クライアントから何か言われてます?」
「『おしゃれな感じで』だとよ」
「……おしゃれな感じ、とは?」

(もう、この言葉だけで不安しかない)

「色の指定とか、トーンとかは?」
「『そこはセンスで!』って言ってた」
「……何のための要件定義なんでしょうか」

PM 1:00 — やっと作り終わる

「なんとか仕上げました!」

色々と試行錯誤しながら、なんとか“おしゃれな感じ”に仕上げたバナーをクライアントに送る。

📩 【件名:「バナーデザイン案のご確認」】
📩 「ご確認のほど、よろしくお願いいたします」

これで終わり……のはずだった。

20分後。

📩 【クライアントからの返信】
📩 「イメージとちょっと違いました! もう少し爽やかに!」

「爽やかに……!?」

PM 2:00 — 無限修正モード突入

「はい、爽やかにしました!」
📩 「もうちょっと高級感を出してください!」

「はい、高級感を出しました!」
📩 「ちょっとカジュアルすぎますね!」

「カジュアルにしすぎましたか?」
📩 「うーん、最初の案が一番よかったかも?」

「…………」

「鬼島さん、これ、どうしたらいいんですか?」
「知らん。俺も帰りたいんだけどな(帰らない)」

PM 4:30 — 突然のサイズ変更

ようやくデザインが確定しそうになったその時——

📩 【クライアントからのメール】
📩 「あっ、すみません! 言い忘れてましたけど、このバナー、PC用じゃなくてスマホ用でお願いします!」

「…………」

「…………」

「サイズ、ぜんぶやり直しじゃないですか。」

PM 7:00 — ついに完成

修正に修正を重ね、ようやく最終版が完成。
もう、これで終わりのはず……!

📩 【クライアントへの最終送信】
📩 「これで確定とさせていただきます!」

10分後——

📩 【クライアントからの返信】
📩 「すみません! やっぱりこのバナー、今回使わなくなりました!」

「…………」

「…………」

「鬼島さん、私、何のために……?」

鬼島は、コーヒーを飲みながらつぶやいた。

「こういう案件ほど、すぐできるとは言えないんだよ」

「すぐできるって……何だったんでしょうか……」

— 終わり(そして、また次の“すぐできるでしょ?”案件がやってくる)
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