101号室の鍵

藤原遊

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廃墟ホテル

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全員が出口に向かって走り出した。鬼の視線を避けるように頭を低くし、肩をぶつけ合いながらも廊下へと飛び出す。廊下は暗闇に包まれ、視界はほとんど利かない。スマホのライトが頼りだったが、その光は恐怖に震える手の中で不規則に揺れていた。

「どっちだ!?どっちに行けば出口があるんだ!」
隼人が叫ぶように問いかける。

「分かるわけないだろ!ただ走れ!」
陽介が即座に怒鳴り返した。

背後で「ゴン……ゴン……」と響く重低音が追いかけてくる。それは廊下全体に反響し、足音とも何ともつかない振動が彼らを飲み込むように迫っていた。鬼がゆっくりと追ってきている――だが、そのスピードは確実に加速している。

「早く、早くしろ!」
隼人が後ろを振り返りながら叫ぶ。その目に映ったのは、廊下の闇の中にぼんやりと浮かぶ鬼の姿。骨ばった腕が異様に伸び、壁を引き裂くように移動してくる様子は、ただ見ているだけで心臓を握り潰されそうなほどの恐怖をもたらした。

「くそっ、足が遅い!走れって言ってんだろ!」
大樹が叫ぶが、その声も震えていた。

その時、真理が唐突に声を上げた。
「待って!ここ、さっき通った……!」

全員が足を止めた。慌てて周囲を見渡すと、廊下の壁にかかっている大きな絵画――どこか湿気を帯びた風景画が見覚えのある位置にある。そう、彼らが最初にこの廊下を通ってきたときと同じ場所だった。

「どういうことだよ、これ……!」
隼人が叫ぶ。

「どうやって走っても、ここに戻ってくるのか……?そんなのおかしいだろ!」
大樹が壁を叩いたが、湿った木材が鈍い音を返すだけだった。

「……出口がない。」
奈緒が低い声で呟いた。

その一言に、全員が絶望に襲われた。汗が肌を冷やし、全身の力が抜けるような感覚が襲う。だが、背後の闇は確実に近づいている。逃げることを諦めれば、その瞬間に全てが終わる――その事実だけは全員が理解していた。

「待て、こっち!」
陽介が息を切らしながら、廊下の分岐点を指差す。暗闇の奥に、微かに光るものが見えた。それは、かつての避難灯の名残のようなぼんやりとした緑色の光だ。

「そこが出口なのか!?」
隼人が叫ぶ。

「分からない!でも、ここにいるよりはマシだ!」
陽介が声を張り上げ、全員を引っ張るように走り出した。

緑の光を目指して全力で駆け抜ける。その先には、古びた鉄製の扉があった。扉は錆びついており、押してもビクともしない。全員が焦燥感に駆られ、扉を力任せに押したり引いたりするが、動く気配はなかった。

「なんで開かねえんだよ……!」
隼人が拳で扉を叩きつける。

その時だった。廊下全体を覆うような低い音が響き、彼らの背後で空気が変わった。鬼が、すぐそこまで来ていた。床を這うように伸びる影が、扉の下からじわじわと侵入し始めている。

「くそっ、もう駄目だ……!」
隼人が膝をつきかけたその瞬間、大樹が咄嗟に背後にあった古い消火器を掴んだ。

「おらぁ!」
彼は勢いよくピンを引き抜き、鬼に向かって噴射した。白い粉が勢いよく噴き出し、廊下全体に霧状に広がる。その瞬間、鬼の動きが一瞬止まった。

「効いたか!?」
陽介が振り返る。

だが、鬼は静止したまま首を曲げ、再び動き始めた。その白い目が消火器の粉を通して光り、じわじわと彼らを追い詰めていく。

「駄目だ、これも意味ない!」
大樹が消火器を床に叩きつけた。振動が廊下に響く。

「開いた!」
その時、真理が叫んだ。扉がわずかに開き、暗い空間が見えた。全員が無言でそれに飛び込み、扉を全力で閉じた。鉄製の扉が「ガン!」と鈍い音を立てて閉じると、彼らはその場に崩れ落ちた。

「……逃げ切った……か?」
隼人が息を切らしながら言う。

だが、扉の向こうから、湿った音が聞こえてきた。鬼はまだそこにいる――いや、完全に消えたわけではなく、扉の向こう側で彼らをじっと見つめているのだ。
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