101号室の鍵

廃墟ホテル

7

金属を擦るような音が通路の奥から近づいてくる。どんな姿をしているかも分からないその音が、彼らの心臓を締め付けていくようだった。一方、背後からは湿った「ゴン……」という重低音。逃げ場は完全に塞がれているように思えた。

「挟まれた……どうすんだよ、これ……！」
隼人が壁に手をつきながら振り返る。

「待ってる余裕はない。前に進む！」
陽介が決然と叫んだ。

「でも、あの音……こっちにも何かいるんだよ！」
奈緒が恐怖を押し殺した声で言う。

「だからって立ち止まったら終わりだ！」
陽介の一言で、全員が再び走り出した。暗闇の中、スマホのライトと懐中電灯の光が壁にぶつかり、奇妙な影を生み出している。どこかから水滴が垂れる音がして、そのたびに全員の背筋が凍る。

「ここ、どこまで続いてんだよ……！」
隼人が息を切らしながら叫ぶ。

「考えるな！とにかく出口を探す！」
陽介が叫び返す。

その時、通路の先に光が見えた。ぼんやりとした緑色の光。それは避難灯のようなものかもしれない。

「見つけた！あそこだ！」
大樹が指差して声を上げる。

全員がその光を目指して駆け抜ける。だが、光に近づくにつれ、妙な違和感が全員を襲った。緑色の光は確かにあるのに、その下には扉も、出口らしきものも見当たらない。

「どういうことだよ……？」
隼人が立ち止まり、光を睨みつける。光の下にはただ床が広がっているだけだった。

「罠か……？」
陽介が光を見つめた瞬間だった。通路全体が突然揺れ、背後の闇が大きく膨らんだ。鬼だ。それが闇を裂くように姿を現し、白い目を光らせながら彼らを追ってきている。

「来てる！逃げろ！」
奈緒が叫ぶ。

だが、通路の先の音も近づいていた。通路の奥から現れたのは、鉄のように光る巨大な爪。見たこともない異形の手が、壁を引っ掻きながらゆっくりと進んでくる。その後ろには、くすんだ銀色に覆われた巨大な影――鬼とは違うが、同じくらい得体の知れない何かが姿を見せた。

「……なに、あれ……！」
真理が怯えた声で呟く。

二つの異形が、彼らを挟むように迫ってくる。前も後ろも塞がれ、もはや逃げ場がない。

「……くそっ！」
陽介が舌打ちし、壁際に追い詰められるように立ち止まった。

「どうするのよ、陽介！」
奈緒が声を震わせながら問い詰める。

陽介は息を荒らしながら壁を見回す。足元には瓦礫や古い金属片が散らばっている。彼はその中から、古びた鉄パイプを拾い上げた。

「戦うしかない。」

「は！？正気かよ！」
隼人が叫ぶ。

「他に選択肢があるか？止まれば終わりだ！」
陽介は鉄パイプを振り上げ、鬼の方に視線を向けた。白い目がじわじわと彼らを睨みつけている。

「何かで目を潰すんだ！光か何か……！」
陽介が言うと、大樹が咄嗟に懐中電灯を鬼に向けて照らした。弱々しい光が鬼の目に当たるが、その効果はわずかだった。鬼は首を傾け、光を避けるように体をねじるだけだ。

「駄目だ、効いてねえ！」
大樹が叫ぶ。

「まだだ！もっと強い光が必要なんだ！」
陽介が叫ぶが、言葉が終わらないうちに鬼の腕が伸び、壁に突き刺さった。大きな振動が通路全体に響き、瓦礫が音を立てて崩れる。

「こっちよ！」
奈緒が通路の脇にあった別の小道を指差す。そこは暗く狭いが、唯一鬼の攻撃を避けられそうな場所だった。

「行くぞ！」
陽介が叫び、全員がその狭い通路に飛び込んだ。