101号室の鍵

藤原遊

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廃墟ホテル

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狭い通路は、まとわりつくような湿気と、何か腐ったような臭いで満ちていた。壁に手をつきながら進むと、冷たい水滴が指先に触れ、不快感が全身を駆け巡る。後ろからは「ゴン……ゴン……」という鬼の足音が徐々に遠ざかるが、それが安心感を与えることはなかった。

「大丈夫なのか、ここ……」
隼人が息を切らしながら呟く。

「そんなの分かるわけないだろ。でも、戻ればあいつに捕まるだけだ。」
陽介が前を照らしながら答える。彼の懐中電灯は弱々しく揺れ、奥に何があるのかを正確に映し出すことはできない。

「狭い……これ、私たち本当に通れるの?」
奈緒が壁に触れながら進み、つぶやく。通路は次第に狭くなり、頭を低くしなければ前に進めない場所もあった。

「この先に出られる場所があると信じるしかない。」
陽介が言い、全員が無言でうなずいた。

進むたびに通路はさらに湿っぽくなり、天井からは水滴がポタポタと落ちてきた。通路の途中には錆びた配管がむき出しになっていて、その錆が水と混じって独特の鉄臭い匂いを漂わせている。

「……待って。」
真理が突然声を上げた。

「なんだよ?」
大樹が振り返る。

「音……聞こえる。前から。」
真理は耳を澄ませ、静かに言った。その言葉に全員が足を止める。

通路の奥から、何かがゆっくりと動く音が聞こえてきた。金属が床を擦るような、異様に低い音。それは、先ほど彼らを追い詰めた鬼の音ではない。どこか機械的で、それでいて不規則だった。

「また、別のやつか……?」
隼人が顔を青ざめたまま呟く。

「静かに。」
陽介が囁く。全員が息を潜め、奥の音をじっと聞いた。

その音は次第に近づいてきている――だが、形はまだ見えない。ただ、空気が重くなり、冷たさが増していくのを全員が感じていた。

「とにかく行こう。ここにいても捕まるだけだ。」
陽介が言い、全員が再び動き出した。

通路の先にはやがて開けた空間が見えてきた。暗闇の中にぼんやりと浮かぶのは、広い円形の部屋だった。天井には古びたライトがぶら下がっているが、光る気配はない。床には奇妙な模様が刻まれており、その上には錆びた鉄製の装置のようなものが置かれている。

「……ここ、なに?」
奈緒が小声で言った。

「分からねえ。だけど、どう見ても普通じゃない。」
大樹が模様を見つめながら言う。

床に刻まれた模様は、何かの儀式に使われたもののように見えた。円の中には複雑な文様が描かれ、中心には古びた台座が置かれている。その台座には剥がれかけた文字が刻まれていたが、何語なのかも判別がつかない。

「ここ……何かの儀式場?」
真理が慎重に台座を覗き込みながら呟いた。

「儀式だとしたら、何のためだよ……。」
隼人が怯えた表情を浮かべて言う。

その時、通路の奥から再び音が響いた。金属が擦れる音と、湿った足音――さっきまで追ってきた鬼の音だ。

「来てる!どうする!?」
隼人が声を荒げる。

「この部屋……何かに使えるかもしれない。」
陽介が模様を指しながら言う。

「おいおい、何言ってんだよ!こんな模様が何の役に立つんだよ!」
隼人が声を荒げるが、その時、床の模様が微かに光を放った。

全員が驚き、足を止める。台座の上の文字が淡く浮かび上がり、部屋全体が不気味な光に包まれる。

「……なに、これ……?」
奈緒が呆然と光を見つめながら言った。

「分からねえけど……使えるもんなら使うしかない。」
陽介が台座に手を伸ばした。

その瞬間、部屋全体が震え、光が一瞬にして消えた。同時に、通路の奥から姿を現したのは――再び現れた鬼だった。闇の中から伸びる骨ばった腕、白い目が全員をなぞるように動いている。

「来るぞ!」
陽介が叫び、全員が構えるように台座を囲んだ。

鬼が部屋の中へ足を踏み入れた瞬間、床の模様が再び光を放つ――その光が鬼を包み込み、部屋全体に激しい音を響かせた。
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