9 / 20
廃墟ホテル
8
しおりを挟む
狭い通路は、まとわりつくような湿気と、何か腐ったような臭いで満ちていた。壁に手をつきながら進むと、冷たい水滴が指先に触れ、不快感が全身を駆け巡る。後ろからは「ゴン……ゴン……」という鬼の足音が徐々に遠ざかるが、それが安心感を与えることはなかった。
「大丈夫なのか、ここ……」
隼人が息を切らしながら呟く。
「そんなの分かるわけないだろ。でも、戻ればあいつに捕まるだけだ。」
陽介が前を照らしながら答える。彼の懐中電灯は弱々しく揺れ、奥に何があるのかを正確に映し出すことはできない。
「狭い……これ、私たち本当に通れるの?」
奈緒が壁に触れながら進み、つぶやく。通路は次第に狭くなり、頭を低くしなければ前に進めない場所もあった。
「この先に出られる場所があると信じるしかない。」
陽介が言い、全員が無言でうなずいた。
進むたびに通路はさらに湿っぽくなり、天井からは水滴がポタポタと落ちてきた。通路の途中には錆びた配管がむき出しになっていて、その錆が水と混じって独特の鉄臭い匂いを漂わせている。
「……待って。」
真理が突然声を上げた。
「なんだよ?」
大樹が振り返る。
「音……聞こえる。前から。」
真理は耳を澄ませ、静かに言った。その言葉に全員が足を止める。
通路の奥から、何かがゆっくりと動く音が聞こえてきた。金属が床を擦るような、異様に低い音。それは、先ほど彼らを追い詰めた鬼の音ではない。どこか機械的で、それでいて不規則だった。
「また、別のやつか……?」
隼人が顔を青ざめたまま呟く。
「静かに。」
陽介が囁く。全員が息を潜め、奥の音をじっと聞いた。
その音は次第に近づいてきている――だが、形はまだ見えない。ただ、空気が重くなり、冷たさが増していくのを全員が感じていた。
「とにかく行こう。ここにいても捕まるだけだ。」
陽介が言い、全員が再び動き出した。
通路の先にはやがて開けた空間が見えてきた。暗闇の中にぼんやりと浮かぶのは、広い円形の部屋だった。天井には古びたライトがぶら下がっているが、光る気配はない。床には奇妙な模様が刻まれており、その上には錆びた鉄製の装置のようなものが置かれている。
「……ここ、なに?」
奈緒が小声で言った。
「分からねえ。だけど、どう見ても普通じゃない。」
大樹が模様を見つめながら言う。
床に刻まれた模様は、何かの儀式に使われたもののように見えた。円の中には複雑な文様が描かれ、中心には古びた台座が置かれている。その台座には剥がれかけた文字が刻まれていたが、何語なのかも判別がつかない。
「ここ……何かの儀式場?」
真理が慎重に台座を覗き込みながら呟いた。
「儀式だとしたら、何のためだよ……。」
隼人が怯えた表情を浮かべて言う。
その時、通路の奥から再び音が響いた。金属が擦れる音と、湿った足音――さっきまで追ってきた鬼の音だ。
「来てる!どうする!?」
隼人が声を荒げる。
「この部屋……何かに使えるかもしれない。」
陽介が模様を指しながら言う。
「おいおい、何言ってんだよ!こんな模様が何の役に立つんだよ!」
隼人が声を荒げるが、その時、床の模様が微かに光を放った。
全員が驚き、足を止める。台座の上の文字が淡く浮かび上がり、部屋全体が不気味な光に包まれる。
「……なに、これ……?」
奈緒が呆然と光を見つめながら言った。
「分からねえけど……使えるもんなら使うしかない。」
陽介が台座に手を伸ばした。
その瞬間、部屋全体が震え、光が一瞬にして消えた。同時に、通路の奥から姿を現したのは――再び現れた鬼だった。闇の中から伸びる骨ばった腕、白い目が全員をなぞるように動いている。
「来るぞ!」
陽介が叫び、全員が構えるように台座を囲んだ。
鬼が部屋の中へ足を踏み入れた瞬間、床の模様が再び光を放つ――その光が鬼を包み込み、部屋全体に激しい音を響かせた。
「大丈夫なのか、ここ……」
隼人が息を切らしながら呟く。
「そんなの分かるわけないだろ。でも、戻ればあいつに捕まるだけだ。」
陽介が前を照らしながら答える。彼の懐中電灯は弱々しく揺れ、奥に何があるのかを正確に映し出すことはできない。
「狭い……これ、私たち本当に通れるの?」
奈緒が壁に触れながら進み、つぶやく。通路は次第に狭くなり、頭を低くしなければ前に進めない場所もあった。
「この先に出られる場所があると信じるしかない。」
陽介が言い、全員が無言でうなずいた。
進むたびに通路はさらに湿っぽくなり、天井からは水滴がポタポタと落ちてきた。通路の途中には錆びた配管がむき出しになっていて、その錆が水と混じって独特の鉄臭い匂いを漂わせている。
「……待って。」
真理が突然声を上げた。
「なんだよ?」
大樹が振り返る。
「音……聞こえる。前から。」
真理は耳を澄ませ、静かに言った。その言葉に全員が足を止める。
通路の奥から、何かがゆっくりと動く音が聞こえてきた。金属が床を擦るような、異様に低い音。それは、先ほど彼らを追い詰めた鬼の音ではない。どこか機械的で、それでいて不規則だった。
「また、別のやつか……?」
隼人が顔を青ざめたまま呟く。
「静かに。」
陽介が囁く。全員が息を潜め、奥の音をじっと聞いた。
その音は次第に近づいてきている――だが、形はまだ見えない。ただ、空気が重くなり、冷たさが増していくのを全員が感じていた。
「とにかく行こう。ここにいても捕まるだけだ。」
陽介が言い、全員が再び動き出した。
通路の先にはやがて開けた空間が見えてきた。暗闇の中にぼんやりと浮かぶのは、広い円形の部屋だった。天井には古びたライトがぶら下がっているが、光る気配はない。床には奇妙な模様が刻まれており、その上には錆びた鉄製の装置のようなものが置かれている。
「……ここ、なに?」
奈緒が小声で言った。
「分からねえ。だけど、どう見ても普通じゃない。」
大樹が模様を見つめながら言う。
床に刻まれた模様は、何かの儀式に使われたもののように見えた。円の中には複雑な文様が描かれ、中心には古びた台座が置かれている。その台座には剥がれかけた文字が刻まれていたが、何語なのかも判別がつかない。
「ここ……何かの儀式場?」
真理が慎重に台座を覗き込みながら呟いた。
「儀式だとしたら、何のためだよ……。」
隼人が怯えた表情を浮かべて言う。
その時、通路の奥から再び音が響いた。金属が擦れる音と、湿った足音――さっきまで追ってきた鬼の音だ。
「来てる!どうする!?」
隼人が声を荒げる。
「この部屋……何かに使えるかもしれない。」
陽介が模様を指しながら言う。
「おいおい、何言ってんだよ!こんな模様が何の役に立つんだよ!」
隼人が声を荒げるが、その時、床の模様が微かに光を放った。
全員が驚き、足を止める。台座の上の文字が淡く浮かび上がり、部屋全体が不気味な光に包まれる。
「……なに、これ……?」
奈緒が呆然と光を見つめながら言った。
「分からねえけど……使えるもんなら使うしかない。」
陽介が台座に手を伸ばした。
その瞬間、部屋全体が震え、光が一瞬にして消えた。同時に、通路の奥から姿を現したのは――再び現れた鬼だった。闇の中から伸びる骨ばった腕、白い目が全員をなぞるように動いている。
「来るぞ!」
陽介が叫び、全員が構えるように台座を囲んだ。
鬼が部屋の中へ足を踏み入れた瞬間、床の模様が再び光を放つ――その光が鬼を包み込み、部屋全体に激しい音を響かせた。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2025/12/15:『ちいさなむし』の章を追加。2025/12/22の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/14:『さむいしゃわー』の章を追加。2025/12/21の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/13:『ものおと』の章を追加。2025/12/20の朝8時頃より公開開始予定。
2025/12/12:『つえ』の章を追加。2025/12/19の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/11:『にく』の章を追加。2025/12/18の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/10:『うでどけい』の章を追加。2025/12/17の朝4時頃より公開開始予定。
2025/12/9:『ひかるかお』の章を追加。2025/12/16の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
女帝の遺志(第二部)-篠崎沙也加と女子プロレスラーたちの物語
kazu106
大衆娯楽
勢いを増す、ブレバリーズ女子部と、直美。
率いる沙也加は、自信の夢であった帝プロマット参戦を直美に託し、本格的に動き出す。
一方、不振にあえぐ男子部にあって唯一、気を吐こうとする修平。
己を見つめ直すために、女子部への入部を決意する。
が、そこでは現実を知らされ、苦難の道を歩むことになる。
志桜里らの励ましを受けつつ、ひたすら練習をつづける。
遂に直美の帝プロ参戦が、現実なものとなる。
その壮行試合、沙也加はなんと、直美の相手に修平を選んだのであった。
しかし同時に、ブレバリーズには暗い影もまた、歩み寄って来ていた。
あるフィギュアスケーターの性事情
蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。
しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。
何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。
この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。
そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。
この物語はフィクションです。
実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる