101号室の鍵

廃墟ホテル

13

陽介が扉をそっと開けると、湿った冷気が再び彼らを包み込んだ。通路は相変わらず暗く、湿った壁からポタポタと滴る水音だけが響いている。先ほどの安堵感はすっかり薄れ、全員が緊張した面持ちで一歩一歩を踏み出した。

「本当にあの部屋だけ、別の空間みたいだったな。」
隼人が後ろを振り返りながら呟く。

「安全だったことに感謝すべきよ。あそこがなかったら、もうとっくに追いつかれてた。」
奈緒が低い声で答える。

「でも、それもここを進む理由にはならないんだよな……。」
大樹が眉をひそめながら前方を見据える。

「理由がなかったら、俺たちはここで死ぬだけだ。」
陽介が短く言い放ち、静かに刀を構えた。

「この鍵とノートが何かの手がかりになるなら、それに賭けるしかない。」

「賭けって……おいおい、本当に行くのかよ、また101号室に。」
隼人が明らかに怯えた様子で問いかけた。

「行くしかない。」
陽介は迷いなく答えた。
「この鍵がそこに導いてるのは間違いない。あの部屋に戻れば、次に進むための何かが分かるはずだ。」

「でも……また奴らが出てきたらどうするの？」
奈緒が不安げに問いかける。

「その時は……戦うしかないだろ。」
陽介が静かに刀を握り直した。

通路を進むたびに、不気味な音がどこからともなく聞こえ始めた。それは金属が擦れる音や、湿った何かが這うような音だった。気配を感じるたびに、全員が無意識に歩みを速める。

「なあ、気のせいかもしれないけど……音が近づいてねえか？」
隼人が後ろを振り返りながら言った。

「気のせいじゃない。追ってきてる。」
陽介が短く答えた。

「くそっ……またかよ！」
大樹が忌々しそうに吐き捨てる。

その時だった。後ろから「ゴン……ゴン……」と重い足音が響き、通路の奥にぼんやりとした白い光が浮かび上がった。それは鬼の目だ。彼らを睨みつけるように光りながら、ゆっくりとこちらに向かってきている。

「来た……！」
奈緒が怯えた声を上げる。

「走れ！今は奴をどうにかするより、101号室にたどり着くのが先だ！」
陽介が叫び、全員が一斉に駆け出した。

廊下を走り続ける中、真理が急に足を止めた。

「待って！模様がある！」
彼女が壁を指差すと、そこには再び奇妙な文様が浮かび上がっていた。それは台座の部屋で見たものと似ていたが、どこか違って見える。

「これ、何かの経路かもしれない……！」
真理が模様を指でなぞりながら言った。

「今は経路を探してる暇なんかねえ！来るぞ！」
大樹が叫ぶ。

「違う、これが私たちを101号室に導いてるかもしれない！」
真理がそう言うと、陽介が短く頷いた。

「分かった。模様を追え。」

真理が壁の模様を頼りに先頭に立ち、全員でその経路を辿り始めた。鬼の足音が徐々に近づいてくる中、模様の導きが次第に明確になっていく。そして、彼らは再び見覚えのある扉にたどり着いた――「101号室」の扉だ。

扉の前に立ち止まった全員が、一瞬だけ顔を見合わせた。

「開けるぞ。」
陽介が言い、鍵を差し込んだ。錆びついた鍵穴が重々しい音を立て、扉がゆっくりと開く。中には、最初に入った時と同じ光景が広がっていた。埃っぽい部屋、薄暗い電球、古びた家具――だが、何かが違っている。

部屋の中央には、一冊の新しいノートが置かれていた。それは明らかにさっきのノートとは異なり、真っ白で新品のように見える。

「これ……また手がかりなの？」
奈緒が恐る恐る言う。

陽介が慎重にノートを手に取り、ページを開く。その中には、たった一行だけが記されていた。

「封印を完成させるために、『鍵』を台座に戻せ。」

「台座に戻せ……？」
隼人が顔をしかめた。

「つまり、この鍵が必要なんだ。」
陽介が鍵を見つめながら言った。

その時、扉の外から再び重い足音が響いた。鬼が再び部屋に迫ってきている。

「行くぞ！台座に戻るんだ！」
陽介が叫び、全員が再び通路へと駆け出した。