101号室の鍵

藤原遊

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廃墟ホテル

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101号室を出た瞬間、鬼の重い足音が再び響き渡り、白く光る目が闇の中から彼らを睨んでいた。五人は迷うことなく走り出した。鍵を握りしめた陽介が先頭に立ち、後ろから響く音に全員が神経を尖らせている。

「本当に戻るしかないのかよ!」
隼人が息を切らしながら叫ぶ。

「ここまで来て、他に道なんてない!」
陽介が振り返らずに言い放つ。

「台座までたどり着けば、何とかなるかもしれない。」
真理がノートを抱えながら必死に走る。

廊下の模様が再び光り始め、道を示すように輝いている。その光を頼りに全員が足を止めずに進むが、鬼もまた距離を詰めてきているのが分かる。重い振動が床全体に響き、彼らの恐怖をさらに煽った。

ようやく模様の光が途切れると、彼らは台座の部屋の扉の前にたどり着いた。扉は先ほどまでと変わらず、静かに佇んでいる。だが、そこに潜む空気は以前よりも一層張り詰めていた。

「早く中に入れ!」
大樹が陽介を急かす。

陽介が扉を押し開け、全員が中に飛び込むように駆け込んだ。扉を閉めた瞬間、鬼の足音がぴたりと止まった。静寂が部屋を覆い、全員が息を荒らしながらその場に座り込んだ。

「止まった……?」
奈緒が肩で息をしながら言う。

「いや、すぐには追ってこないだけだ。時間がない。」
陽介が鍵を握り直し、台座の方へ向かう。

台座は以前と変わらず光を放っていたが、模様の一部がすでに崩れ始めていた。中心にある穴が再び鍵を求めるようにぼんやりと輝いている。

「ここに……鍵を戻せば、何かが起こるはず。」
真理がノートを見ながら言った。

「何かって、具体的には?」
隼人が怯えた声で問いかける。

「分からない。でも、この台座が封印に関わっているのは確かよ。鍵が戻れば……封印が完成するんじゃないかと思う。」
真理がそう言うと、陽介は無言で鍵を台座に差し込んだ。

鍵が台座に収まると同時に、部屋全体が激しく震え始めた。模様の光が一気に強まり、台座を中心に眩しい光の円が広がっていく。五人はその場に立ち尽くしながら光景を見守った。

「これで……封印が完成するのか?」
大樹が光に目を細めながら言った。

だが、その期待を打ち消すように、背後の扉が突然激しく揺れ始めた。鬼が外から扉を叩いている。凄まじい衝撃音と共に、扉が今にも崩れ落ちそうだった。

「来るぞ!」
陽介が叫び、刀を構えた。

扉が破られると同時に鬼が姿を現した。先ほどよりも明らかに巨大で、白い目が怒りに燃えているようだった。その姿を見た瞬間、全員の体が一瞬凍りついた。

「台座を守れ!あいつに触れさせるな!」
陽介が声を張り上げた。

鬼が部屋の中へ踏み込むと、床の模様がその足元で裂けるように暗くなった。台座が発する光が鬼に届くたび、鬼の体が黒い煙のように崩れるが、すぐに再生する。

「光だけじゃ抑えきれない……!」
真理が焦りながら叫ぶ。

陽介が刀を振り上げ、鬼の腕に向かって一閃した。刃が鬼に触れると再び光が弾け、腕が裂けて消える。しかし、鬼は動きを止めない。

「時間がない……!」
奈緒が声を震わせた。

その時、台座の中心に刻まれていた模様が激しく光を放ち始めた。それはまるで、彼ら全員に語りかけているような感覚を与えた。

「台座の力を最大限に引き出せれば……奴を封じられるかもしれない。」
真理が模様を指しながら言った。

「どうやるんだよ!」
隼人が叫ぶ。

「陽介!」
真理が陽介を見つめる。
「刀を台座に!それが『白き刃』の本当の役割だと思う!」

陽介が一瞬だけ逡巡する。だが、鬼が台座に触れようとした瞬間、彼は全力で台座に刀を突き刺した。

刀が台座に突き刺さると、部屋全体が強烈な光に包まれた。その光は鬼を飲み込み、白い目を最後に黒い影が完全に消滅していく。

「終わった……のか?」
大樹が光を見つめながら呟く。

陽介は刀を握ったまま、力なく膝をついた。刀は輝きを失い、まるでただの鉄の棒のようになっていた。

「封印……完成したみたい。」
真理がノートを見ながら小さく言った。

部屋に再び静寂が訪れる。五人は光が収まった空間の中、ただその場に座り込んだ。
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