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廃墟ホテル
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部屋に静寂が戻った。光の余韻が薄れる中、五人はその場に座り込み、互いに荒い息を整えていた。湿った空気が再び漂い始めたが、先ほどまでの異常な圧迫感は消えている。
「……本当に終わったのか?」
隼人が恐る恐る周囲を見渡す。部屋にはもはや異形の気配はなく、鬼の白い目も影も消えていた。
「台座が……光を失ってる。」
真理がノートを抱えながら台座を指差した。鍵と刀が刺さったままの台座は、ただの古びた石のように見える。あれほど輝いていた模様も消え去り、薄暗い空間に戻っていた。
「終わったんだ……きっと。」
陽介が刀の柄を握ったまま、静かに呟いた。その声には安堵と疲労が滲んでいる。
「じゃあ……帰れるってことか?」
大樹が力なく笑いながら壁にもたれた。
「帰れる……」
奈緒が呆然と繰り返す。彼女の目には涙が浮かんでいた。
五人は台座の部屋を後にし、廊下を進む。先ほどまで暗闇に覆われていた廊下は、どこか明るさを取り戻しているように見えた。壁にあった奇妙な模様も消え、ただの古びたホテルの通路に戻っている。
「こんな風に見えるの、信じられないな。」
隼人が肩をすくめながら言った。
「さっきまでが地獄だったのに、今じゃただの廃墟だ。」
「それでいい。ここから早く出よう。」
陽介が先を急ぐように言った。
階段を駆け上がると、出口の扉が見えた。全員が手を伸ばし、扉を押し開ける。そこにはようやく見慣れた外の世界が広がっていた。
外に出ると、雨は止み、空にはわずかな星が見えていた。五人は草むらに腰を下ろし、互いに肩を叩き合う。
「……生きて帰れた。」
奈緒が小さく呟き、涙をこぼす。
「本当にな。」
大樹が笑いながら深く息を吐く。
「これで……終わったのか?」
隼人が空を見上げながら言った。
「終わったさ。」
陽介が短く答える。
「少なくとも、あの化け物はもういない。」
全員が無言で頷いた。その沈黙の中には、言葉にならない感情が交錯していた。恐怖、安堵、そして彼らが共に生き延びたという絆。
一週間後――。
陽介は自宅の机に座り、101号室のノートを見つめていた。それは結局全てを解読することはできなかったが、「封印」という言葉の意味だけは確かに分かる。そして、その封印が再び壊れたとき、自分たちがどんな役割を果たしたのかも。
彼はため息をつき、ノートを閉じてバッグにしまおうとした。その瞬間、ポケットの中に硬い金属の感触を覚えた。
「……なんだ?」
取り出すと、それは101号室の鍵だった。間違いなくホテルの部屋の鍵だ。封印が完成し、ホテルそのものが崩壊して消えたはずなのに、なぜこの鍵が自分の手元にあるのか。
陽介は鍵を見つめながら立ち上がり、ふと部屋のドアを振り返った。部屋の中は静かで、日常そのものだ――しかし、扉の向こうから微かに「カタン……」と軋む音が聞こえた。
彼は一瞬、鍵を握りしめたまま動けなくなった。
「……本当に終わったのか?」
隼人が恐る恐る周囲を見渡す。部屋にはもはや異形の気配はなく、鬼の白い目も影も消えていた。
「台座が……光を失ってる。」
真理がノートを抱えながら台座を指差した。鍵と刀が刺さったままの台座は、ただの古びた石のように見える。あれほど輝いていた模様も消え去り、薄暗い空間に戻っていた。
「終わったんだ……きっと。」
陽介が刀の柄を握ったまま、静かに呟いた。その声には安堵と疲労が滲んでいる。
「じゃあ……帰れるってことか?」
大樹が力なく笑いながら壁にもたれた。
「帰れる……」
奈緒が呆然と繰り返す。彼女の目には涙が浮かんでいた。
五人は台座の部屋を後にし、廊下を進む。先ほどまで暗闇に覆われていた廊下は、どこか明るさを取り戻しているように見えた。壁にあった奇妙な模様も消え、ただの古びたホテルの通路に戻っている。
「こんな風に見えるの、信じられないな。」
隼人が肩をすくめながら言った。
「さっきまでが地獄だったのに、今じゃただの廃墟だ。」
「それでいい。ここから早く出よう。」
陽介が先を急ぐように言った。
階段を駆け上がると、出口の扉が見えた。全員が手を伸ばし、扉を押し開ける。そこにはようやく見慣れた外の世界が広がっていた。
外に出ると、雨は止み、空にはわずかな星が見えていた。五人は草むらに腰を下ろし、互いに肩を叩き合う。
「……生きて帰れた。」
奈緒が小さく呟き、涙をこぼす。
「本当にな。」
大樹が笑いながら深く息を吐く。
「これで……終わったのか?」
隼人が空を見上げながら言った。
「終わったさ。」
陽介が短く答える。
「少なくとも、あの化け物はもういない。」
全員が無言で頷いた。その沈黙の中には、言葉にならない感情が交錯していた。恐怖、安堵、そして彼らが共に生き延びたという絆。
一週間後――。
陽介は自宅の机に座り、101号室のノートを見つめていた。それは結局全てを解読することはできなかったが、「封印」という言葉の意味だけは確かに分かる。そして、その封印が再び壊れたとき、自分たちがどんな役割を果たしたのかも。
彼はため息をつき、ノートを閉じてバッグにしまおうとした。その瞬間、ポケットの中に硬い金属の感触を覚えた。
「……なんだ?」
取り出すと、それは101号室の鍵だった。間違いなくホテルの部屋の鍵だ。封印が完成し、ホテルそのものが崩壊して消えたはずなのに、なぜこの鍵が自分の手元にあるのか。
陽介は鍵を見つめながら立ち上がり、ふと部屋のドアを振り返った。部屋の中は静かで、日常そのものだ――しかし、扉の向こうから微かに「カタン……」と軋む音が聞こえた。
彼は一瞬、鍵を握りしめたまま動けなくなった。
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