【完結】悪役令嬢アナスタシアは破滅を嗤う

藤原遊

文字の大きさ
7 / 26
第一部 聖女セラフィーナと幸福の罠

6

しおりを挟む
 破滅の種を探す日々は、相変わらず成果ゼロだった。

 王太子は妙に優しいままだし、聖女セラフィーナはお友達扱いを続けてくれるし、騎士団長レオンには救われ叱られ、聖務官シグルドには敬われ……
 何かがおかしい。すべてが好転していく。

 ――どうして、こうも破滅から遠ざかるのだろう。

 もはや自分でも、破滅を探してるのか、現実逃避してるのかよくわからなくなってきた。
 そんな中、私は王都の中央広場で、思いがけない人物に出くわした。

「おや、これはこれは。アナスタシア様じゃありませんか」

 軽やかな声。振り返れば、派手な刺繍のジャケットを羽織った男が立っていた。

 ユリオ・マルカート。王都一の商会の跡取り息子。
 商売の才覚は抜群で、王宮にも顔が利く快楽主義者――というのが表向きの評判だ。
 原作では、彼もまた聖女セラフィーナに惹かれていく攻略対象のひとりだった。

「ごきげんよう、ユリオ様。偶然ですわね」

「ええ、偶然です。もっとも、偶然というのは商人にとって常に少しだけ嘘くさいものですが」

 口元を愉快そうに歪めて笑う。
 相変わらず軽薄そうに見えるが、目は笑っていない。彼の本質は、常に計算と好奇心でできている。

「本日はお買い物ですの?」

「ええ。仕入れ先との顔合わせです。アナスタシア様こそ、こんな街中をお一人で? 王太子殿下の婚約者ともあろうお立場なのに、随分と自由なお振る舞いで」

 柔らかく言いながら、じっとこちらを観察してくる視線が鋭い。
 ……まただ。
 最近、やけに周囲が私の行動を注目してくる。破滅の予定が狂って以降、すべての歯車が妙な角度で回り出している気がする。

「少しくらい外の空気を吸いたくなりましてよ。城の中ばかりでは息が詰まりますわ」

「なるほど。確かに、あなたはいつも少しだけ外側から世界を眺めているように見えますから」

「……外側?」

「ええ」ユリオはひらりと手を振る。「まるで舞台の観客席から、自分の出番を待っている役者のように、ね」

 心臓が小さく跳ねた。
 観察者――まさに今の私の内心そのものを、言葉にされた気がした。

 もちろん、彼に私の転生の事情などわかるはずもない。
 だが、この男の目はどこまでも勘が鋭い。

「私はただ……与えられた役目を果たしているだけですわ」

「それは結構。けれど、あなたは演技が上手すぎる」

 ユリオは微笑みながら、さらに一歩だけ距離を詰めた。

「お気をつけてくださいね、アナスタシア様。舞台の外側にい続ける者は、いつしか舞台そのものを狂わせてしまうものですから」

「……忠告として受け取っておきますわ」

 私は微笑を崩さずに応じた。
 けれど内心はまた一段、ざわつきを増していた。

 ――まったく、また筋書きから逸れていく。
 誰も私を破滅させてくれないどころか、今度は観察まで始めてくるなんて。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

婚約破棄してくださって結構です

二位関りをん
恋愛
伯爵家の令嬢イヴには同じく伯爵家令息のバトラーという婚約者がいる。しかしバトラーにはユミアという子爵令嬢がいつもべったりくっついており、イヴよりもユミアを優先している。そんなイヴを公爵家次期当主のコーディが優しく包み込む……。 ※表紙にはAIピクターズで生成した画像を使用しています

「『お前に書く手紙などない』と言った婚約者へ、私は7年間手紙を書き続けた——ただし、届け先は別の人でした」

歩人
ファンタジー
辺境伯令嬢リゼットは、婚約者に7年間手紙を書き続けた。返事は一度もなかった。 「お前に書く手紙などない。顔も覚えていない」——婚約破棄。しかしリゼットは 泣かなかった。手紙の本当の届け先は、最初から別にあったから。前世の情報分析 能力で辺境の異変を読み解き、暗号として織り込んだ7年分の手紙。それを受け取り 続けていたのは第一王子。リゼットは誰にも知られず、王国を守っていた。 婚約破棄の翌朝、王子からの手紙が届く。「7年間、ありがとう。迎えに行く」

悪女の私を愛さないと言ったのはあなたでしょう?今さら口説かれても困るので、さっさと離縁して頂けますか?

輝く魔法
恋愛
システィーナ・エヴァンスは王太子のキース・ジルベルトの婚約者として日々王妃教育に勤しみ努力していた。だがある日、妹のリリーナに嵌められ身に覚えの無い罪で婚約破棄を申し込まれる。だが、あまりにも無能な王太子のおかげで(?)冤罪は晴れ、正式に婚約も破棄される。そんな時隣国の皇太子、ユージン・ステライトから縁談が申し込まれる。もしかしたら彼に愛されるかもしれないー。そんな淡い期待を抱いて嫁いだが、ユージンもシスティーナの悪い噂を信じているようでー? 「今さら口説かれても困るんですけど…。」 後半はがっつり口説いてくる皇太子ですが結ばれません⭐︎でも一応恋愛要素はあります!ざまぁメインのラブコメって感じかなぁ。そういうのはちょっと…とか嫌だなって人はブラウザバックをお願いします(o^^o)更新も遅めかもなので続きが気になるって方は気長に待っててください。なお、これが初作品ですエヘヘ(о´∀`о) 優しい感想待ってます♪

【完結済】監視される悪役令嬢、自滅するヒロイン

curosu
恋愛
【書きたい場面だけシリーズ】 タイトル通り

「貧相な小娘」と罵った第一王子へ。番(つがい)は貴方ではなく、国王陛下(お父様)でした

しえろ あい
恋愛
「お父様、わたくし、あの方と目が合った瞬間、分かってしまったのです」 十六歳のデビュタントの夜、ルーセント侯爵令嬢フェリシアを待っていたのは、残酷な罵倒だった。第一王子カシウスは、可憐な白いドレスを纏った彼女を「貧相な小娘」と呼び、己の番(つがい)であることを真っ向から否定する。 会場に響く冷笑と、愛用の刺繍に込めた自信さえ打ち砕くような屈辱。しかし、絶望の淵に立たされた彼女を見つめていたのは、王子ではなく、圧倒的な威厳を放つ「ある男」だった。 魂を焦がすような熱い視線が重なり、静まり返る謁見の間。この出会いが、王室を揺るがす大事件の幕開けになるとは、まだ誰も知らない。自身の価値を否定された少女が、真実の愛によって世界で最も幸福な王妃へと駆け上がる、逆転溺愛ストーリー。 ※小説家になろう様にも投稿しています※

悪意には悪意で

12時のトキノカネ
恋愛
私の不幸はあの女の所為?今まで穏やかだった日常。それを壊す自称ヒロイン女。そしてそのいかれた女に悪役令嬢に指定されたミリ。ありがちな悪役令嬢ものです。 私を悪意を持って貶めようとするならば、私もあなたに同じ悪意を向けましょう。 ぶち切れ気味の公爵令嬢の一幕です。

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

【完結】婚約破棄はお受けいたしましょう~踏みにじられた恋を抱えて

ゆうぎり
恋愛
「この子がクラーラの婚約者になるんだよ」 お父様に連れられたお茶会で私は一つ年上のナディオ様に恋をした。 綺麗なお顔のナディオ様。優しく笑うナディオ様。 今はもう、私に微笑みかける事はありません。 貴方の笑顔は別の方のもの。 私には忌々しげな顔で、視線を向けても貰えません。 私は厭われ者の婚約者。社交界では評判ですよね。 ねぇナディオ様、恋は花と同じだと思いませんか? ―――水をやらなければ枯れてしまうのですよ。 ※ゆるゆる設定です。 ※名前変更しました。元「踏みにじられた恋ならば、婚約破棄はお受けいたしましょう」 ※多分誰かの視点から見たらハッピーエンド

処理中です...