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第一部 聖女セラフィーナと幸福の罠
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破滅の種を探す日々は、相変わらず成果ゼロだった。
王太子は妙に優しいままだし、聖女セラフィーナはお友達扱いを続けてくれるし、騎士団長レオンには救われ叱られ、聖務官シグルドには敬われ……
何かがおかしい。すべてが好転していく。
――どうして、こうも破滅から遠ざかるのだろう。
もはや自分でも、破滅を探してるのか、現実逃避してるのかよくわからなくなってきた。
そんな中、私は王都の中央広場で、思いがけない人物に出くわした。
「おや、これはこれは。アナスタシア様じゃありませんか」
軽やかな声。振り返れば、派手な刺繍のジャケットを羽織った男が立っていた。
ユリオ・マルカート。王都一の商会の跡取り息子。
商売の才覚は抜群で、王宮にも顔が利く快楽主義者――というのが表向きの評判だ。
原作では、彼もまた聖女セラフィーナに惹かれていく攻略対象のひとりだった。
「ごきげんよう、ユリオ様。偶然ですわね」
「ええ、偶然です。もっとも、偶然というのは商人にとって常に少しだけ嘘くさいものですが」
口元を愉快そうに歪めて笑う。
相変わらず軽薄そうに見えるが、目は笑っていない。彼の本質は、常に計算と好奇心でできている。
「本日はお買い物ですの?」
「ええ。仕入れ先との顔合わせです。アナスタシア様こそ、こんな街中をお一人で? 王太子殿下の婚約者ともあろうお立場なのに、随分と自由なお振る舞いで」
柔らかく言いながら、じっとこちらを観察してくる視線が鋭い。
……まただ。
最近、やけに周囲が私の行動を注目してくる。破滅の予定が狂って以降、すべての歯車が妙な角度で回り出している気がする。
「少しくらい外の空気を吸いたくなりましてよ。城の中ばかりでは息が詰まりますわ」
「なるほど。確かに、あなたはいつも少しだけ外側から世界を眺めているように見えますから」
「……外側?」
「ええ」ユリオはひらりと手を振る。「まるで舞台の観客席から、自分の出番を待っている役者のように、ね」
心臓が小さく跳ねた。
観察者――まさに今の私の内心そのものを、言葉にされた気がした。
もちろん、彼に私の転生の事情などわかるはずもない。
だが、この男の目はどこまでも勘が鋭い。
「私はただ……与えられた役目を果たしているだけですわ」
「それは結構。けれど、あなたは演技が上手すぎる」
ユリオは微笑みながら、さらに一歩だけ距離を詰めた。
「お気をつけてくださいね、アナスタシア様。舞台の外側にい続ける者は、いつしか舞台そのものを狂わせてしまうものですから」
「……忠告として受け取っておきますわ」
私は微笑を崩さずに応じた。
けれど内心はまた一段、ざわつきを増していた。
――まったく、また筋書きから逸れていく。
誰も私を破滅させてくれないどころか、今度は観察まで始めてくるなんて。
王太子は妙に優しいままだし、聖女セラフィーナはお友達扱いを続けてくれるし、騎士団長レオンには救われ叱られ、聖務官シグルドには敬われ……
何かがおかしい。すべてが好転していく。
――どうして、こうも破滅から遠ざかるのだろう。
もはや自分でも、破滅を探してるのか、現実逃避してるのかよくわからなくなってきた。
そんな中、私は王都の中央広場で、思いがけない人物に出くわした。
「おや、これはこれは。アナスタシア様じゃありませんか」
軽やかな声。振り返れば、派手な刺繍のジャケットを羽織った男が立っていた。
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原作では、彼もまた聖女セラフィーナに惹かれていく攻略対象のひとりだった。
「ごきげんよう、ユリオ様。偶然ですわね」
「ええ、偶然です。もっとも、偶然というのは商人にとって常に少しだけ嘘くさいものですが」
口元を愉快そうに歪めて笑う。
相変わらず軽薄そうに見えるが、目は笑っていない。彼の本質は、常に計算と好奇心でできている。
「本日はお買い物ですの?」
「ええ。仕入れ先との顔合わせです。アナスタシア様こそ、こんな街中をお一人で? 王太子殿下の婚約者ともあろうお立場なのに、随分と自由なお振る舞いで」
柔らかく言いながら、じっとこちらを観察してくる視線が鋭い。
……まただ。
最近、やけに周囲が私の行動を注目してくる。破滅の予定が狂って以降、すべての歯車が妙な角度で回り出している気がする。
「少しくらい外の空気を吸いたくなりましてよ。城の中ばかりでは息が詰まりますわ」
「なるほど。確かに、あなたはいつも少しだけ外側から世界を眺めているように見えますから」
「……外側?」
「ええ」ユリオはひらりと手を振る。「まるで舞台の観客席から、自分の出番を待っている役者のように、ね」
心臓が小さく跳ねた。
観察者――まさに今の私の内心そのものを、言葉にされた気がした。
もちろん、彼に私の転生の事情などわかるはずもない。
だが、この男の目はどこまでも勘が鋭い。
「私はただ……与えられた役目を果たしているだけですわ」
「それは結構。けれど、あなたは演技が上手すぎる」
ユリオは微笑みながら、さらに一歩だけ距離を詰めた。
「お気をつけてくださいね、アナスタシア様。舞台の外側にい続ける者は、いつしか舞台そのものを狂わせてしまうものですから」
「……忠告として受け取っておきますわ」
私は微笑を崩さずに応じた。
けれど内心はまた一段、ざわつきを増していた。
――まったく、また筋書きから逸れていく。
誰も私を破滅させてくれないどころか、今度は観察まで始めてくるなんて。
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