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第一部 聖女セラフィーナと幸福の罠
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静かに、だけど確実に、私は追い詰められている。
破滅の兆しを探して行動すればするほど、どういうわけか周囲からは評価が上がり、好意を向けられ、私の立場は安定していく一方だった。
――これはおかしい。
破滅どころか、むしろ安泰の道を歩かされているような気さえする。
そんな私の疑念に、ついに決定的な一撃が加えられる日がやってきた。
***
午後の陽射しが心地よい王宮の庭園。
私は珍しく、王太子ユリウスに呼び出されていた。
「アナスタシア、最近はよく外に出ているようだね」
微笑みながら切り出すユリウスの声は、いつも通り穏やかだった。
けれど、その奥にわずかな探るような色が混ざっているのを私は感じ取っていた。
「ええ。少し気分転換も兼ねておりますの」
「神殿に通い、魔導院にも顔を出し、貧民街にまで足を運んだとか」
――そこまで把握されていたの!?
驚きが顔に出ないよう細心の注意を払う。
内心では冷や汗が流れていた。私の奇妙な行動が、思った以上に報告されていたらしい。
「ご心配をおかけしていたのなら、申し訳ありませんわ。危険な行動を取るつもりはございませんのよ」
「そうだといいが」
ユリウスは少し視線を細め、芝生の上を歩きながら続ける。
「アナスタシア、僕はずっと君を見てきた」
その言葉に、わずかに足が止まる。
「君は誰よりも理知的で、冷静で、周囲に流されずに立っている。……けれど時々、とても遠くを見ているようにも思えるんだ」
また、核心を掠めるような言葉。
本当に、この世界の登場人物たちは無意識の鋭さが過ぎる。
「殿下、私のことを買いかぶりすぎですわ」
私は笑って返す。けれどユリウスは一歩、距離を詰めた。
「君は、自分がどう見られているかを常に計算している。でも、僕の前ではそういう仮面は外してくれても構わないと思っている」
「……仮面、ですの?」
「君は、何かを諦めている目をしている時がある」
その一言に、心臓が軽く跳ねた。
やめて。そのあたりを突かれるのは、本当に困る。
私は破滅を受け入れているだけ。諦めでも開き直りでもない。ただ、筋書きを知っているだけ。
「殿下こそ、私を深読みしすぎですわ」
「そうかもしれない。でも、君にそう言わせてしまうのは、少し寂しいな」
ユリウスはそう言って、ふと微笑んだ。
その笑顔は、これまでのどれとも違っていた。
「僕は君に期待している。王太子の婚約者として、ではなく――アナスタシアという人間に」
ドクン、と胸が鳴った。
これは、違う。
原作の筋書きにこんな場面は存在しない。
王太子は、こんなふうに私に踏み込んでくるはずじゃなかった。
「……光栄に存じますわ」
どうにか笑顔を繕いながら返す。
だが内心では、叫び出したくなるくらいの焦りが渦巻いていた。
――誰か。誰でもいいから、早く私を破滅させてくれないかしら。
破滅の兆しを探して行動すればするほど、どういうわけか周囲からは評価が上がり、好意を向けられ、私の立場は安定していく一方だった。
――これはおかしい。
破滅どころか、むしろ安泰の道を歩かされているような気さえする。
そんな私の疑念に、ついに決定的な一撃が加えられる日がやってきた。
***
午後の陽射しが心地よい王宮の庭園。
私は珍しく、王太子ユリウスに呼び出されていた。
「アナスタシア、最近はよく外に出ているようだね」
微笑みながら切り出すユリウスの声は、いつも通り穏やかだった。
けれど、その奥にわずかな探るような色が混ざっているのを私は感じ取っていた。
「ええ。少し気分転換も兼ねておりますの」
「神殿に通い、魔導院にも顔を出し、貧民街にまで足を運んだとか」
――そこまで把握されていたの!?
驚きが顔に出ないよう細心の注意を払う。
内心では冷や汗が流れていた。私の奇妙な行動が、思った以上に報告されていたらしい。
「ご心配をおかけしていたのなら、申し訳ありませんわ。危険な行動を取るつもりはございませんのよ」
「そうだといいが」
ユリウスは少し視線を細め、芝生の上を歩きながら続ける。
「アナスタシア、僕はずっと君を見てきた」
その言葉に、わずかに足が止まる。
「君は誰よりも理知的で、冷静で、周囲に流されずに立っている。……けれど時々、とても遠くを見ているようにも思えるんだ」
また、核心を掠めるような言葉。
本当に、この世界の登場人物たちは無意識の鋭さが過ぎる。
「殿下、私のことを買いかぶりすぎですわ」
私は笑って返す。けれどユリウスは一歩、距離を詰めた。
「君は、自分がどう見られているかを常に計算している。でも、僕の前ではそういう仮面は外してくれても構わないと思っている」
「……仮面、ですの?」
「君は、何かを諦めている目をしている時がある」
その一言に、心臓が軽く跳ねた。
やめて。そのあたりを突かれるのは、本当に困る。
私は破滅を受け入れているだけ。諦めでも開き直りでもない。ただ、筋書きを知っているだけ。
「殿下こそ、私を深読みしすぎですわ」
「そうかもしれない。でも、君にそう言わせてしまうのは、少し寂しいな」
ユリウスはそう言って、ふと微笑んだ。
その笑顔は、これまでのどれとも違っていた。
「僕は君に期待している。王太子の婚約者として、ではなく――アナスタシアという人間に」
ドクン、と胸が鳴った。
これは、違う。
原作の筋書きにこんな場面は存在しない。
王太子は、こんなふうに私に踏み込んでくるはずじゃなかった。
「……光栄に存じますわ」
どうにか笑顔を繕いながら返す。
だが内心では、叫び出したくなるくらいの焦りが渦巻いていた。
――誰か。誰でもいいから、早く私を破滅させてくれないかしら。
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