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第一部 聖女セラフィーナと幸福の罠
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破滅はもう、完全に遠のいていた。
いや、正確に言うならば――
最初からそんなもの、存在しなかったのかもしれない。
***
その後も、事態は順調すぎるほど順調に進んだ。
セラフィーナは、幼馴染のエドガーとの婚約を正式に発表した。
王宮はお祝いムード一色で、神殿も騎士団も貴族社会も皆がそれを祝福した。
私はてっきり、彼女と王太子ユリウスとの間に何かあるだろうとばかり思っていた。
それが原作の筋書きだったのだから。
だが、ユリウスは最初から一度もセラフィーナを愛していなかった。
彼が見ていたのは、常に私――アナスタシアだったのだ。
破滅する役など、どこにも用意されていなかったのだ。
最初から。
***
今、私は王太子ユリウスと共に王宮のバルコニーに立っていた。
夜空には無数の星が広がっている。
眼下では祝宴の余韻がまだ残っていた。
「アナスタシア」
隣に立つユリウスが、静かに私の名を呼んだ。
以前よりもずっと穏やかに、しかし決して逃げられない距離感で。
「僕は、君がこの王宮に来てくれたことを、ずっと神に感謝しているよ」
私は視線をそらした。
「……買いかぶりですわ」
「そう思うなら、僕にこうして隣にいてくれる理由は何だろう?」
言葉に詰まる。
そんな理由、私自身すらわからなかった。
私はただ、筋書きに従って破滅を待っていただけだったのに。
気づけば、いつの間にか、この幸福の檻に閉じ込められていた。
「逃げなくていいよ、アナスタシア」
ユリウスは、静かに私の手を取った。
それはあまりにも自然で、私に抗う隙を与えなかった。
「君は君のままでいい。無理をしなくていい。僕が君の隣に居続けるから」
優しさは、ときに最も残酷だ。
もう私は、破滅という名の救いすら与えてもらえないらしい。
胸の奥にわずかに疼く諦めと、どこか静かな安堵が同時に浮かんだ。
私は静かに息を吐き、ほんのわずかに微笑んだ。
「――ええ、殿下」
これが、私の辿り着いた結末。
破滅を望んでいたはずの私が、幸福という牢獄の中に取り込まれていく結末だった。
――皮肉なものね。
それでも悪くない、なんて思ってしまう自分が一番、滑稽なのかもしれないけれど。
いや、正確に言うならば――
最初からそんなもの、存在しなかったのかもしれない。
***
その後も、事態は順調すぎるほど順調に進んだ。
セラフィーナは、幼馴染のエドガーとの婚約を正式に発表した。
王宮はお祝いムード一色で、神殿も騎士団も貴族社会も皆がそれを祝福した。
私はてっきり、彼女と王太子ユリウスとの間に何かあるだろうとばかり思っていた。
それが原作の筋書きだったのだから。
だが、ユリウスは最初から一度もセラフィーナを愛していなかった。
彼が見ていたのは、常に私――アナスタシアだったのだ。
破滅する役など、どこにも用意されていなかったのだ。
最初から。
***
今、私は王太子ユリウスと共に王宮のバルコニーに立っていた。
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眼下では祝宴の余韻がまだ残っていた。
「アナスタシア」
隣に立つユリウスが、静かに私の名を呼んだ。
以前よりもずっと穏やかに、しかし決して逃げられない距離感で。
「僕は、君がこの王宮に来てくれたことを、ずっと神に感謝しているよ」
私は視線をそらした。
「……買いかぶりですわ」
「そう思うなら、僕にこうして隣にいてくれる理由は何だろう?」
言葉に詰まる。
そんな理由、私自身すらわからなかった。
私はただ、筋書きに従って破滅を待っていただけだったのに。
気づけば、いつの間にか、この幸福の檻に閉じ込められていた。
「逃げなくていいよ、アナスタシア」
ユリウスは、静かに私の手を取った。
それはあまりにも自然で、私に抗う隙を与えなかった。
「君は君のままでいい。無理をしなくていい。僕が君の隣に居続けるから」
優しさは、ときに最も残酷だ。
もう私は、破滅という名の救いすら与えてもらえないらしい。
胸の奥にわずかに疼く諦めと、どこか静かな安堵が同時に浮かんだ。
私は静かに息を吐き、ほんのわずかに微笑んだ。
「――ええ、殿下」
これが、私の辿り着いた結末。
破滅を望んでいたはずの私が、幸福という牢獄の中に取り込まれていく結末だった。
――皮肉なものね。
それでも悪くない、なんて思ってしまう自分が一番、滑稽なのかもしれないけれど。
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