【完結】悪役令嬢アナスタシアは破滅を嗤う

藤原遊

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第一部 聖女セラフィーナと幸福の罠

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 それは、ある晴れた午後のことだった。

 セラフィーナから突然のお誘いが届いた。
 お茶会。
 しかも「ぜひ二人きりでお話がしたいのです」とまで添えられている。

 ……これは、ついに来たのかもしれない。

 私は内心、奇妙な緊張を覚えていた。
 もしかして、何かしらの誤解が解けてしまったのでは?
 あるいは、私の「本来の役割」を思い出させるような展開がついに訪れるのでは?

 期待――いや、もはや執念に近い予感を抱え、私はセラフィーナの待つ離宮のサロンへと足を運んだ。

***

「アナスタシア様! 本日はお忙しい中ありがとうございますわ!」

 開口一番から、セラフィーナは相変わらずの太陽のような笑顔を向けてきた。

 ――うん、まずは順調に明るすぎる。

「いえ、こちらこそお招きいただき光栄ですわ」

 私は柔らかな微笑みを浮かべて席についた。
 豪華すぎず、しかし上品に整えられたサロン。
 用意された紅茶は香り高く、菓子も美しく並んでいる。

 ……いや、そうじゃなくて。
 大事なのはこれからの会話だ。

「実は、ご相談があるのですの!」

 そう、そうよ!
 この「ご相談」が今日の本題。
 私は息を潜めるようにして続きを待った。

「ええ、何でもお聞きしますわ」

 すると、セラフィーナはぱっと両手を頬に添え、目を輝かせた。

「エドガー様から……ついに、告白されましたの!」

 ……は?

 私の内心が固まる音がした。
 いや、今なんて?

「とても突然で……でも本当に嬉しくて!」

 セラフィーナは既に暴走モードに突入していた。
 あふれんばかりの感情が次々と飛び出してくる。
 あの時の表情が、あの言葉が、手を取られて、優しく囁かれて――

 あああ、違うのよ。
 今欲しかったのは、そういう桃色の相談じゃなくて、私を断罪するような重苦しい空気のはずだったのに。

***

 私はちらりと、手元のティーポットを見た。

 今日は、念のためにこぼれやすいカップを選んで持参していた。
 多少の水しぶきでも浴びせれば、嫌がらせの材料としては悪役らしいムーブになり得る。
 セラフィーナにわざと水をこぼせば、さすがに私への反感も生まれよう――そんな姑息な計画すら考えていたのに。

 だが現実は違った。

「それで、あの時のエドガー様のお顔が――まぁ、本当に素敵で!」

 勢いよく身を乗り出してくるセラフィーナに、私は反射的にティーポットで軽く押し返してしまう。
 ただの弾丸トークの勢い抑え用の小道具に成り果てた。

「ええ……それは、素晴らしいですわね……」

 私は表面上はにこやかに相槌を打ちながら、心の中では頭を抱えていた。

 ――もう、ダメかもしれない。
 破滅どころか、聖女との友好ルートすら固定されてしまった感がある。
 どこまで好感度を上げさせれば気が済むのだろう、この世界は。

 静かに、ため息を一つ、内心に落とした。
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