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第二部 自称ヒロインのミレイナと破滅未遂
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もはやミレイナ嬢の発想力には、ある意味で感心すら覚え始めていた。
そして今日、彼女はついに「魔導」に手を出してきたらしい。
***
私は魔導院に足を運んでいた。
最近はアベルの好意で、時折新たな魔導理論を見学させてもらっている。
「アナスタシア様、こちらは新たに整理された結界理論の図面です」
「いつもありがとうございますわ、アベル様」
私は優雅に礼を述べながら、ふと背後の視線を感じた。
……うん、今日も来てるわね。
「アナスタシア様!」
やはり登場したのはミレイナ・ベルグレイヴ嬢。
もう呼吸をするかのように高らかに叫ぶ彼女。
「わたくし、恐ろしい物を見つけてしまいましたの!」
そう言って差し出してきたのは、魔導理論の初歩的な基礎教本だった。
「こちらの頁に記された禁忌の章が……! アナスタシア様はこれを学んでおいでなのでしょう!? だから闇に堕ちようとして――!」
……え?
私は思わず手元の本を覗き込んだ。
該当ページに書かれていたのは、どう見ても【初歩的な魔力干渉の注意事項】である。
闇どころか、小学生レベルの基礎安全確認項目だ。
――この娘……知識量が致命的に足りていない。
「まあ……危険なことは致しませんわ。私はあくまで学術的な興味の範囲でしてよ」
私はまたいつもの通り穏やかに微笑んでみせた。
そして案の定、アベルが横から淡々と冷静に止めを刺す。
「ミレイナ嬢。そこに記されているのは魔導初心者向けの警告事項です。禁忌ではありません。むしろ基礎の理解を怠る方が危険です」
「そ、そんな……!?」
ミレイナは大袈裟に口元を覆った。が、もちろん誰も同調しない。
***
その場を通りかかった魔導院の研究助手たちが、またもやヒソヒソ声を交わしていた。
「……アナスタシア様、あんな理不尽な疑いにも落ち着いて対応なさるなんて」
「まるで貴婦人の鑑ですわ……」
――……もう、やめて。
内心では今にも床を転げ回りたい衝動に駆られていたが、私は平然と紅茶を口に運んだ。
***
そして、ふとアベルの視線が私に向けられる。
眼鏡の奥の琥珀色の瞳は静かに観察していた。
「アナスタシア様……本当に、お強い方ですね」
違うのよ。
私はただ……突っ込み疲れてるだけなのに。
破滅のチャンスは、また遠のいた。
そして今日、彼女はついに「魔導」に手を出してきたらしい。
***
私は魔導院に足を運んでいた。
最近はアベルの好意で、時折新たな魔導理論を見学させてもらっている。
「アナスタシア様、こちらは新たに整理された結界理論の図面です」
「いつもありがとうございますわ、アベル様」
私は優雅に礼を述べながら、ふと背後の視線を感じた。
……うん、今日も来てるわね。
「アナスタシア様!」
やはり登場したのはミレイナ・ベルグレイヴ嬢。
もう呼吸をするかのように高らかに叫ぶ彼女。
「わたくし、恐ろしい物を見つけてしまいましたの!」
そう言って差し出してきたのは、魔導理論の初歩的な基礎教本だった。
「こちらの頁に記された禁忌の章が……! アナスタシア様はこれを学んでおいでなのでしょう!? だから闇に堕ちようとして――!」
……え?
私は思わず手元の本を覗き込んだ。
該当ページに書かれていたのは、どう見ても【初歩的な魔力干渉の注意事項】である。
闇どころか、小学生レベルの基礎安全確認項目だ。
――この娘……知識量が致命的に足りていない。
「まあ……危険なことは致しませんわ。私はあくまで学術的な興味の範囲でしてよ」
私はまたいつもの通り穏やかに微笑んでみせた。
そして案の定、アベルが横から淡々と冷静に止めを刺す。
「ミレイナ嬢。そこに記されているのは魔導初心者向けの警告事項です。禁忌ではありません。むしろ基礎の理解を怠る方が危険です」
「そ、そんな……!?」
ミレイナは大袈裟に口元を覆った。が、もちろん誰も同調しない。
***
その場を通りかかった魔導院の研究助手たちが、またもやヒソヒソ声を交わしていた。
「……アナスタシア様、あんな理不尽な疑いにも落ち着いて対応なさるなんて」
「まるで貴婦人の鑑ですわ……」
――……もう、やめて。
内心では今にも床を転げ回りたい衝動に駆られていたが、私は平然と紅茶を口に運んだ。
***
そして、ふとアベルの視線が私に向けられる。
眼鏡の奥の琥珀色の瞳は静かに観察していた。
「アナスタシア様……本当に、お強い方ですね」
違うのよ。
私はただ……突っ込み疲れてるだけなのに。
破滅のチャンスは、また遠のいた。
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