婚約破棄されたので、もうあなたを想うのはやめます

藤原遊

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第3話:それは、必要としていた人だった

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辺境伯からの呼び出しだと聞いたとき、私は一瞬、聞き間違いかと思った。

王弟殿下。
国境を預かり、軍事を一手に担う実質的な国のナンバーツー。

その人物が、なぜ私を。

王城の一室で待っていたのは、想像していたよりも静かな男だった。
軍服姿だが威圧感はなく、ただ、無駄がない。

「来てくれて助かる」

それが、最初の言葉だった。

「君が公爵家領地の実務を担っていた人物だと聞いた」

私は否定もし、誇りもしなかった。
ただ事実として頷く。

「私は軍事に集中したい。だが、辺境伯領の管理は複雑で、人手が足りていない」

彼は淡々と続ける。

「必要なのは、忠誠でも血筋でもない。
実際に、領地を回せる人間だ」

机の上に置かれたのは、見覚えのある形式の帳簿だった。
私がまとめていたものと、ほとんど同じ構成。

「これを見て、君の名前が出た」

胸の奥で、静かに何かがほどける。

公爵家では、当たり前のようにやってきた仕事。
評価されることはなく、ただ“婚約者だから”と扱われていた。

「……私で、お役に立てるでしょうか」

そう問うと、彼は迷いなく答えた。

「君だから頼んでいる」

それだけだった。

甘い言葉はない。
だが、そこにははっきりとした信頼があった。

「条件は明確にしよう。
婚約や立場の話ではない。
君には、仕事として領地を任せたい」

私は、ゆっくりと息を吐いた。

「……承知しました」

それは、誰かの付属物としてではなく。

初めて、私自身が必要とされた瞬間だった。
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