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第4話:失ってから気づく
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公爵家の執務室は、明らかに回っていなかった。
報告は遅れ、判断を求められる案件は山積みになり、使用人たちは指示待ちのまま立ち尽くしている。
「……なぜ、こうなる」
彼は机に手をつき、低く呟いた。
以前は違った。
書類は整い、問題は表に出る前に片付いていた。
それが当然だと思っていた。
婚約者なのだから、支えるのは当たり前だと。
だが――
彼女が去ってから、公爵家領地は目に見えて滞り始めた。
「次の方には、これまでと同じ形で業務をお願いしたいのですが……」
そう切り出したとき、新しい婚約者は困ったように微笑んだ。
「私は、そのような実務は得意ではありませんの」
それだけなら、まだよかった。
だが彼女は、公爵家の会議に顔を出さなくなり、領地の話題が出るたび、体調を理由に席を外すようになった。
使用人たちも、誰に判断を仰げばいいのか分からず、戸惑うばかりだ。
「……前の婚約者様と、結婚して下さればよかったのに」
誰かのそんな呟きが、胸に突き刺さる。
追い打ちをかけるように、王城から噂が届いた。
王弟殿下。
国境を預かる辺境伯が、有能な実務担当を迎えたという話だった。
その名を聞いた瞬間、彼は息を呑んだ。
「……彼女、が?」
軍事に集中するため、領地管理を一任された存在。
それが、かつて自分が切り捨てた婚約者だという現実。
彼はようやく理解した。
選ばれなかったのは、彼女ではない。
見る目がなかったのは――
自分だったのだと。
報告は遅れ、判断を求められる案件は山積みになり、使用人たちは指示待ちのまま立ち尽くしている。
「……なぜ、こうなる」
彼は机に手をつき、低く呟いた。
以前は違った。
書類は整い、問題は表に出る前に片付いていた。
それが当然だと思っていた。
婚約者なのだから、支えるのは当たり前だと。
だが――
彼女が去ってから、公爵家領地は目に見えて滞り始めた。
「次の方には、これまでと同じ形で業務をお願いしたいのですが……」
そう切り出したとき、新しい婚約者は困ったように微笑んだ。
「私は、そのような実務は得意ではありませんの」
それだけなら、まだよかった。
だが彼女は、公爵家の会議に顔を出さなくなり、領地の話題が出るたび、体調を理由に席を外すようになった。
使用人たちも、誰に判断を仰げばいいのか分からず、戸惑うばかりだ。
「……前の婚約者様と、結婚して下さればよかったのに」
誰かのそんな呟きが、胸に突き刺さる。
追い打ちをかけるように、王城から噂が届いた。
王弟殿下。
国境を預かる辺境伯が、有能な実務担当を迎えたという話だった。
その名を聞いた瞬間、彼は息を呑んだ。
「……彼女、が?」
軍事に集中するため、領地管理を一任された存在。
それが、かつて自分が切り捨てた婚約者だという現実。
彼はようやく理解した。
選ばれなかったのは、彼女ではない。
見る目がなかったのは――
自分だったのだと。
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