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波乱
熱気
考え得る準備を全て万端に整え、いよいよ展示会当日を迎えた。
王都の中心地に位置する商業組合本部には、並々ならぬ熱気が満ちていた。
石畳の広場には、正装をまとった紳士淑女たちが馬車から降り立ち、優雅な足取りで会場へと吸い込まれていく。
裏口では大きな荷物を抱えた職人が次々とやって来ては搬入を進めていた。会場のあちこちで、小間使いらしき少年たちが忙しなく人波の間を縫っていく。
喧騒の中に混じる、靴の音、指示の声、そして期待に満ちた人々の囁き。
この国の技術の粋が、すべてここに集まっていた。
ローディック商会に割り当てられた区画は、会場の中央だ。天窓から降り注ぐ光が、サリシャの繊細な光を際立たせていた。
サーシャのドレスは細身で、胸元と裾部分にドレープ状にサリシャがあしらわれている。主役となる生地をふんだんに使い、それでいてサーシャの良さを損なわない、ネネとルル渾身の作品だ。
メリンダのドレスは胸下からふんわりと広がる形をとり、ところどころに散りばめられたビーズがサリシャの光と相まって、星のまたたきのように見える。これもまた、メリンダの良さを引き立てる会心の出来栄えだった。
やがて会場最奥に設えられた壇上に組合長が現れ、場内が静まる。よく通る声で開会の言葉を告げた組合長の隣には、父スタンリー・ローディックが立っていた。
彼は商売人らしい柔和な笑みを浮かべ、あいさつを述べ始める。
「僭越ながらこの度の展示会において、最も栄誉ある区画を頂戴しました。これもひとえに、商会を支えてくださる皆様のおかげでございます」
そこで一息ついて会場を見渡し、さらに続ける。
「本日わがローディック商会よりお披露目します新素材は、娘のサーシャの考案によるものでございます。若い力の台頭に、商会長として、また一人の親として、誇らしい思いでいっぱいです。皆様、今後のローディック商会にも、是非ともご期待ください!」
わあっと会場全体がどよめいた。割れんばかりの拍手が起こり、みなの目がサーシャに集まる。
天窓からの光が一層強くなり、白地のサリシャに包まれたサーシャを輝かせた。
父の思いを知り、喝采を浴びたサーシャは万感の思いが込み上げる。
そして、今日の自分をニックもどこかで見てくれているだろうか。そんな風に思った。
サーシャは結局、ニックを公式に招くことはできなかった。
両親と番頭に相談したところ、伯爵家と商会に直接の関わりがないため難しいと言われたのだ。
けれどサーシャは諦められず、こっそりと学園の寮に宛てて招待状を送った。
サリシャはニックのおかげで生まれた布だ。そのお披露目を、どうしても間近で見てもらいたかった。
区画を訪れる人の波が落ち着くと、サーシャとメリンダは持ち場を離れても良いと言われた。メリンダは招いた友人たちといると言うので、サーシャはショールを肩にかけて一人で見て回っている。
展示会では、あれこれと珍しいものを見た。新しい紙、カットの美しいガラス細工、革の工芸品。至るところに商売の種があった。
ふと、視線の端でサリシャの光が揺れた。
目を向けると、メリンダが出口に向かっていた。
──お友だちは? どうして一人で外へ?
声をかけようとするが、人波に阻まれ見失ってしまう。
伸ばした指も、名を呼ぶ声も、届かなかった。
やっと見つけた時、彼女は一人ではなかった。
メリンダは、ニックに抱きしめられていた。
王都の中心地に位置する商業組合本部には、並々ならぬ熱気が満ちていた。
石畳の広場には、正装をまとった紳士淑女たちが馬車から降り立ち、優雅な足取りで会場へと吸い込まれていく。
裏口では大きな荷物を抱えた職人が次々とやって来ては搬入を進めていた。会場のあちこちで、小間使いらしき少年たちが忙しなく人波の間を縫っていく。
喧騒の中に混じる、靴の音、指示の声、そして期待に満ちた人々の囁き。
この国の技術の粋が、すべてここに集まっていた。
ローディック商会に割り当てられた区画は、会場の中央だ。天窓から降り注ぐ光が、サリシャの繊細な光を際立たせていた。
サーシャのドレスは細身で、胸元と裾部分にドレープ状にサリシャがあしらわれている。主役となる生地をふんだんに使い、それでいてサーシャの良さを損なわない、ネネとルル渾身の作品だ。
メリンダのドレスは胸下からふんわりと広がる形をとり、ところどころに散りばめられたビーズがサリシャの光と相まって、星のまたたきのように見える。これもまた、メリンダの良さを引き立てる会心の出来栄えだった。
やがて会場最奥に設えられた壇上に組合長が現れ、場内が静まる。よく通る声で開会の言葉を告げた組合長の隣には、父スタンリー・ローディックが立っていた。
彼は商売人らしい柔和な笑みを浮かべ、あいさつを述べ始める。
「僭越ながらこの度の展示会において、最も栄誉ある区画を頂戴しました。これもひとえに、商会を支えてくださる皆様のおかげでございます」
そこで一息ついて会場を見渡し、さらに続ける。
「本日わがローディック商会よりお披露目します新素材は、娘のサーシャの考案によるものでございます。若い力の台頭に、商会長として、また一人の親として、誇らしい思いでいっぱいです。皆様、今後のローディック商会にも、是非ともご期待ください!」
わあっと会場全体がどよめいた。割れんばかりの拍手が起こり、みなの目がサーシャに集まる。
天窓からの光が一層強くなり、白地のサリシャに包まれたサーシャを輝かせた。
父の思いを知り、喝采を浴びたサーシャは万感の思いが込み上げる。
そして、今日の自分をニックもどこかで見てくれているだろうか。そんな風に思った。
サーシャは結局、ニックを公式に招くことはできなかった。
両親と番頭に相談したところ、伯爵家と商会に直接の関わりがないため難しいと言われたのだ。
けれどサーシャは諦められず、こっそりと学園の寮に宛てて招待状を送った。
サリシャはニックのおかげで生まれた布だ。そのお披露目を、どうしても間近で見てもらいたかった。
区画を訪れる人の波が落ち着くと、サーシャとメリンダは持ち場を離れても良いと言われた。メリンダは招いた友人たちといると言うので、サーシャはショールを肩にかけて一人で見て回っている。
展示会では、あれこれと珍しいものを見た。新しい紙、カットの美しいガラス細工、革の工芸品。至るところに商売の種があった。
ふと、視線の端でサリシャの光が揺れた。
目を向けると、メリンダが出口に向かっていた。
──お友だちは? どうして一人で外へ?
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伸ばした指も、名を呼ぶ声も、届かなかった。
やっと見つけた時、彼女は一人ではなかった。
メリンダは、ニックに抱きしめられていた。
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