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王宮へ
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「お仕着せってそんなの……一体いくらかかるんだよ。時間もかかるだろうし、そもそも、どれくらいの数を作るのかも決まってないんだぞ?」
カイの反発の言葉に、サーシャは「そうですねえ」とつぶやき、ゆっくりと話し出した。
「まず、お金のことですが。ドレスの修繕がどれくらいするのか、ローラさんから費用の請求を受けているカイさんはご存知ですよね?」
カイは記憶をたどりながら首肯する。
「その金額は新品のドレスのおよそ三分の一、傷み具合によっては半値以上になる場合もあります。しかも、それだけのお金をかけて修繕しても、毎日のように着ていてはまたすぐに悪くなってしまうでしょう。どうです? 修繕品も意外とお金がかかると思いませんか?」
カイは納得したような、そうでもないような様子でいたが、ひとまず話を進めることにしたようだ。
「……なるほど、お金に関してはあんたの言うことにも一理あるとしてだ。じゃあ、新品のドレスをお仕着せ用に新たに作る場合の、寸法と数量は? 事前に予測なんてできないし、あらかじめ余分に作るのも無駄が多い。その都度あつらえてる時間だってないぞ」
そこでサーシャは大きく頷いた。
「そうです! ですから、従来のドレスを作るのではなく、まったく新しい『王女宮のお仕着せ』を作るのです」
カイは首をかしげサーシャの言うことを理解しようと努め、やがて頭を振った。
「……よくわからない。金も時間もかからないような簡易な衣装を作るということか? 王女宮だぞ、品位を疑われるようなのはダメだろう」
「簡易なものだと品位が下がるのですか?」
サーシャは静かに、けれど迷いのない声で続ける。
「私はそうは思いません。生地や形を吟味すれば、品格を損なわないものだって作れるはずです。現にはるか遠い国では、一枚の生地を一定の規格どおりに切って直線で縫い合わせるだけの衣装が正装として──」
「わ、わかった、わかったから」
サーシャの熱に気圧されたカイはのけぞって手のひらを前に押し出す。
「じゃあその吟味とやらはあんたに任せたらいいか?」
「はい、お任せください。カイさんは、予定されている侍女の人数と予算額の確認をお願いします」
カイはため息をひとつ吐くと気だるげに立ち上がり、サーシャの方を向いた。
はく、と口を開きかけるも、そのまま何かを飲み込んだ。そして、結局は音を発することなく部屋を出ていくのだった。
お任せください──そう言い切ったサーシャだったが、そうすぐに妙案が浮かぶものでもない。とりあえず彼女たちが働く様子を実際に見るために、王女宮の中を歩いた。
行き交う侍女たちは、みなめいめいのドレスを着ている。中堅どころと思わしき者は定番型の上質なドレスを、年若い者たちは流行りの型の華やかなものを着こなしている。
まれに修繕品を着ている者も見受けられたが、見比べなければそれとわかるものでもない。
──今のところお仕着せが必要なのは全体の2割ほどかしら
──意外とみなさん早歩きなのね
──あっ、あんな大きな荷物を一人で!?
サーシャは慌てて駆け寄りとっさに支えた。
恐縮する侍女とともにそのまま目的地に向かうと、そこは王宮の縫製室だった。
部屋に入らなくてもわかる。ここにはきっとたくさんのお針子たちが在籍し、王宮の彩りを作り出しているのだろう。
サーシャはネネとルルに思いを馳せて、小さく笑みを浮かべた。
ふと、縫製室から気配を感じたが、サーシャは気にかけることなく踵を返した。
カイの反発の言葉に、サーシャは「そうですねえ」とつぶやき、ゆっくりと話し出した。
「まず、お金のことですが。ドレスの修繕がどれくらいするのか、ローラさんから費用の請求を受けているカイさんはご存知ですよね?」
カイは記憶をたどりながら首肯する。
「その金額は新品のドレスのおよそ三分の一、傷み具合によっては半値以上になる場合もあります。しかも、それだけのお金をかけて修繕しても、毎日のように着ていてはまたすぐに悪くなってしまうでしょう。どうです? 修繕品も意外とお金がかかると思いませんか?」
カイは納得したような、そうでもないような様子でいたが、ひとまず話を進めることにしたようだ。
「……なるほど、お金に関してはあんたの言うことにも一理あるとしてだ。じゃあ、新品のドレスをお仕着せ用に新たに作る場合の、寸法と数量は? 事前に予測なんてできないし、あらかじめ余分に作るのも無駄が多い。その都度あつらえてる時間だってないぞ」
そこでサーシャは大きく頷いた。
「そうです! ですから、従来のドレスを作るのではなく、まったく新しい『王女宮のお仕着せ』を作るのです」
カイは首をかしげサーシャの言うことを理解しようと努め、やがて頭を振った。
「……よくわからない。金も時間もかからないような簡易な衣装を作るということか? 王女宮だぞ、品位を疑われるようなのはダメだろう」
「簡易なものだと品位が下がるのですか?」
サーシャは静かに、けれど迷いのない声で続ける。
「私はそうは思いません。生地や形を吟味すれば、品格を損なわないものだって作れるはずです。現にはるか遠い国では、一枚の生地を一定の規格どおりに切って直線で縫い合わせるだけの衣装が正装として──」
「わ、わかった、わかったから」
サーシャの熱に気圧されたカイはのけぞって手のひらを前に押し出す。
「じゃあその吟味とやらはあんたに任せたらいいか?」
「はい、お任せください。カイさんは、予定されている侍女の人数と予算額の確認をお願いします」
カイはため息をひとつ吐くと気だるげに立ち上がり、サーシャの方を向いた。
はく、と口を開きかけるも、そのまま何かを飲み込んだ。そして、結局は音を発することなく部屋を出ていくのだった。
お任せください──そう言い切ったサーシャだったが、そうすぐに妙案が浮かぶものでもない。とりあえず彼女たちが働く様子を実際に見るために、王女宮の中を歩いた。
行き交う侍女たちは、みなめいめいのドレスを着ている。中堅どころと思わしき者は定番型の上質なドレスを、年若い者たちは流行りの型の華やかなものを着こなしている。
まれに修繕品を着ている者も見受けられたが、見比べなければそれとわかるものでもない。
──今のところお仕着せが必要なのは全体の2割ほどかしら
──意外とみなさん早歩きなのね
──あっ、あんな大きな荷物を一人で!?
サーシャは慌てて駆け寄りとっさに支えた。
恐縮する侍女とともにそのまま目的地に向かうと、そこは王宮の縫製室だった。
部屋に入らなくてもわかる。ここにはきっとたくさんのお針子たちが在籍し、王宮の彩りを作り出しているのだろう。
サーシャはネネとルルに思いを馳せて、小さく笑みを浮かべた。
ふと、縫製室から気配を感じたが、サーシャは気にかけることなく踵を返した。
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