【完結】サリシャの光 〜憧れの先へ〜

ねるねわかば

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満ちる

新しい部屋

「おい、部屋を移るぞ」

 ある日、カイが入室するなり声を上げた。女官長と侍女長も一緒にいることにサーシャは驚く。
 彼らについていくと、広い作業場のような部屋に着いた。大きさはそこまでではないが、雰囲気はまるで王宮の縫製室のような──

「王女宮の縫製室だ」


 これまで王女宮において必要となる衣装は、王宮の縫製室で仕立てられていた。
 しかし、サーシャのお仕着せが思いのほか需要が多く、王宮の縫製室の仕事量をひっ迫させる事態となったために、王女宮にも縫製室が置かれることとなった。

 服飾に関する業務は引き続き王宮の服飾室が行い、カイとサーシャは王女宮のお仕着せを管理していく。

「つまり、やることは一緒で部屋が広くなったってことだ。あと、あんたにとって嬉しいことがまだある」


「サーシャさんっ!!」

 顔じゅう全部を喜びで満たしたようなピコが飛び込んできた。やれやれといった様子のフレネもあとに続く。

「ピコがうるさいもんだから、私まで追い出されてしまったよ。あっちで話がついたらあと二人ほど来るよ。しかしまあ、お輿入れの御衣装なんて腕が鳴るねえ」

 そう言って、フレネはまたニカッと笑った。


 カイとサーシャの執務スペースは、縫製室の一角を仕切って設けられた。カイの執務机も小さな応接セットも、以前の部屋のものを持ってきて使っている。
 そこに、サーシャの机も加えられた。この王女宮に自分の場所がある。それだけのことが、無性に嬉しかった。


 サーシャは出仕するとまず執務室の机を拭く。これは部屋を移る前からの習慣だ。同じ部屋で布を扱うことが多いために始めたことだった。
 カイの机は、無造作に置かれたペンやメモ書きをいったん横にずらして拭いてから、また戻しておく。続いて新しいサーシャの机と応接机も拭いた。
 縫製室の方の作業台も、固く絞った布で拭く。広い台ではあったが、整頓されているためそう大変な作業ではなかった。

「おはようございます! あっ、サーシャさん、そんなことはあたしがしますよ!」

「いいのよ。これをしないと一日が始まらないの。ピコたちがきちんと片付けてるから、大して時間もかからないわ」

 不満そうな顔をしたピコを宥めていると、カイも出仕してきた。

「……っす。朝から何騒いでるんだ?」

「あっ、カイさん! サーシャさんってば一番に来て、机を拭いてくれてたんですよ! 知ってました?」

「……知らなかったが、そんなことしなくていいぞ。忙しいんだから自分の仕事だけしてろ」

 サーシャはピコにしたのと同じ説明をする。

「日課なんです。私がやりたくてやってるだけなので、カイさんこそ気にしないでください」


 翌朝、サーシャがカイの机を拭こうとすると、そこは昨日よりも少しだけ整頓されていた。



◇◇◇

お読みいただき、ありがとうございます。
明日も3話(『偽物』ほか)投稿します。
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