【完結】ルースの祈り ~笑顔も涙もすべて~

ねるねわかば

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ギルベルト1

1,帰途に思う

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 ルースライン領から王都に戻る間、ギルベルトの頭からリゼの声が消えることはなかった。

 報告が終われば任務完了──そのとおりだ。案件ごとにいちいち心を痛め親身になるなど、自分たちがやることではない。
 調査官が作成した報告書を別の者が精査し支援の必要性を判断する。そこに私情を挟むことは公平性を失わせる愚行に他ならない。

 では何にこれほど引っ掛かりを覚えてしまうのか。

「今回の調査書はこっちで書くからな。ギルベルト。おい、聞いているか?」

 セインの声に、ギルベルトの思考は中断する。どうやら何度か話しかけられていたらしい。

「珍しくぼーっとしてどうした。まさかさっきの女が言ったことを真に受けているのか?あんなの国から金をせしめるために大袈裟に言ってるに決まっているだろう」

「そうでしょうか。私には本当に困っているように見えましたが」

「おいおい、まさか絆されたのか? 高潔な大貴族様も結構だが、女に免疫くらいつけといた方がいいんじゃないか?」

「いえ、そういうことでは──」

「まあいい。とにかく見たままを報告するだけだ。自分の懐が痛むわけじゃなし、多少は色をつけてやってもいいが、ああいうのはつけ上がると際限がないからな」

 つけ上がるも何も、際限がないのは当然だ。川がそこにある限り洪水は起こり続ける。
 支援金を渡してあとは各領の裁量でというのは効率的で無駄がないように思えるが、頻発するとわかっていることを放置しているのは領の、ひいては国の損失とも言えるのではないか。

 しかしそれは己の職務の範疇外のこと。調査報告を基に対応を考えるのは別の担当者や上司であり、調査官ではないのだ。


「やあ、ご苦労様。思っていたより早く帰れたね。道中はスムーズだったのかい?」

 どうにも割り切れない思いを抱え帰還したギルベルトを出迎えたのは、にこやかな笑顔のロランツ室長だった。
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