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ギルベルト1
幕間,ロランツ
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報告が終わり立ち去るギルベルトの後ろ姿を、ロランツは感慨深く眺め、そして心の中で呟いた。
──姉さん、ギルベルトは良い目をしていますよ
ロランツが地方調整室に来る以前にギルベルトを見たのは、姉マリアの葬儀の時が最後だった。
棺に取り縋り、「お母様、お母様」と泣き続けるギルベルトの声は参列者の涙を誘った。侯爵家の子息とはいえ五歳の子供。母親を喪って泣くなというのは無理な話である。
ヴィンロード家は高位貴族には珍しく、親子の距離が近い家族だったからなおさらだ。
そんな中、悲痛な空気を破って怒号が響いた。
「マリアが死んだのは貴様のせいだ!! 貴様が薬さえ飲ませていれば!! 貴様のせいでマリアは……マリアは……!!」
目を血走らせ、くびり殺してやりたいと言わんばかりに侯爵が睨み付けているのは、彼の義父でありマリアとロランツの父親だった。
「し、しかしあれは子どもの頃に誰もがかかる病で……!
薬がなくても元気になったんだ!」
「侍医が言っておった!
あの病は薬で完治させねば長らく潜伏したのち必ず再発すると!」
「そんな……あの時かかった医者は寝ていれば治ると言った。それに再発しても大人の体力なら重症化などしないだろうと……」
「それは貴様がろくな医者に診せておらぬからだ!
侯爵家の支援で存続出来た程度の貧しい田舎貴族だ。どうせ金を出し惜しんだのだろう!」
ロランツの父は何も言い返さなかった。
それは図星を突かれたからではない。
ロランツの家には侍医などおらず、病気の際に診てもらっていたのはいわゆる普通の町医者だった。それは侯爵からすると『ろくな医者』とは言えないかもしれない。
しかし決して金を惜しんだためではなく、地方の医者の少なさを考えればごく当たり前のことだった。
その病の再発は軽症で済むことが一般的であり、姉の場合はあまりにも不幸な偶然だったと、おそらく侯爵も含めその場の者はみなわかっていたことだろう。
最愛を喪った深すぎる悲しみを、何かにぶつけずにはいられない──侯爵のその哀惜が手に取るようにわかるからこそ、ロランツの父は理不尽な罵りをただただ受け止めた。
故人を偲び慰め合うべき遺族たちはそのまま訣別し、以来ロランツがギルベルトに会うことはなかった。
その後十五年余りを経て再会したギルベルトは、母親似の感情豊かだった目元はすっかり様変わりし、温度を感じさせない冷めた目の青年になっていた。
けれど、彼がルースライン領の調査から戻った時には、その目に光が宿っているのをロランツは確かに見たのだった。
「ルースラインでどんな出会いがあったんだろうなあ」
どんな人物と、どのような関わりがあったのかはわからない。
けれどもその出会いがギルベルトに笑顔を取り戻してくれますようにと、そう願わずにはいられなかった。
──姉さん、ギルベルトは良い目をしていますよ
ロランツが地方調整室に来る以前にギルベルトを見たのは、姉マリアの葬儀の時が最後だった。
棺に取り縋り、「お母様、お母様」と泣き続けるギルベルトの声は参列者の涙を誘った。侯爵家の子息とはいえ五歳の子供。母親を喪って泣くなというのは無理な話である。
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そんな中、悲痛な空気を破って怒号が響いた。
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目を血走らせ、くびり殺してやりたいと言わんばかりに侯爵が睨み付けているのは、彼の義父でありマリアとロランツの父親だった。
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「そんな……あの時かかった医者は寝ていれば治ると言った。それに再発しても大人の体力なら重症化などしないだろうと……」
「それは貴様がろくな医者に診せておらぬからだ!
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ロランツの父は何も言い返さなかった。
それは図星を突かれたからではない。
ロランツの家には侍医などおらず、病気の際に診てもらっていたのはいわゆる普通の町医者だった。それは侯爵からすると『ろくな医者』とは言えないかもしれない。
しかし決して金を惜しんだためではなく、地方の医者の少なさを考えればごく当たり前のことだった。
その病の再発は軽症で済むことが一般的であり、姉の場合はあまりにも不幸な偶然だったと、おそらく侯爵も含めその場の者はみなわかっていたことだろう。
最愛を喪った深すぎる悲しみを、何かにぶつけずにはいられない──侯爵のその哀惜が手に取るようにわかるからこそ、ロランツの父は理不尽な罵りをただただ受け止めた。
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けれど、彼がルースライン領の調査から戻った時には、その目に光が宿っているのをロランツは確かに見たのだった。
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どんな人物と、どのような関わりがあったのかはわからない。
けれどもその出会いがギルベルトに笑顔を取り戻してくれますようにと、そう願わずにはいられなかった。
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