23 / 69
ギルベルト1
8,庇護者の焦燥
しおりを挟む
リゼが王宮で勤め始めてそろそろ一月になる。
ロランツ夫妻は週に一度ほどの頻度で彼女と会っているらしい。
ギルベルトはロランツがリゼの話を始めると仕事の手を止め、相づちをうちながら聞くようにしている。
ロランツ曰く、リゼは侍女の仕事がとても性に合っているそうだ。会うたびに仕事の楽しさを語り、疲れている様子もないという。
ギルベルトは安心した。そして続いたロランツの言葉に焦りを覚えた。
「リゼは見るたびに垢抜けていくよ。表情も生き生きして見ている方も笑顔になれると、奥さんの同僚からもすこぶる評判が良いらしい。お偉方に見初められるのも時間の問題だなあ」
リゼが突然内務部に来たのは、ロランツがそんな話をした直後のことだった。ギルベルトはつい不用意に声をかけてしまう。
「ギ、ギルベルト様っ」
驚いた様子のリゼが目を大きく見開き固まっている。
ロランツから垢抜けたと聞いていたが、咄嗟の拍子に感情が表れてしまうところは変わっていないようだ。
この一月ほどの間に、彼女はそれほど変わっただろうか。
確かに活発さはいくらか鳴りをひそめ、落ち着いた物腰を意識しているように思える。そういうところが垢抜けたと言えるのかもしれない。
白のリボンは素朴なリゼに似合うと思って選んだが、こうして見ると洗練された雰囲気も感じさせる良い品だ。
やはりよく似合っている───
自身の手がリゼの髪に触れる寸前、我に返る。
リゼは驚いた顔でこちらを見ているが、おそらく自分も同様だろう。
無意識に伸びた手を慌てて戻し、ちょうど戻ったロランツに救われる形でその場を離れた。
その後ロランツが興奮しながら語った話によると、リゼはなんと隣国の使者の部屋付きになったらしい。
──お偉方に見初められる
ロランツの言葉が早くも現実のものとなった。
ギルベルトは名状しがたい焦燥感に駆られ、庇護者として為すべきことを考えるのだった。
ロランツ夫妻は週に一度ほどの頻度で彼女と会っているらしい。
ギルベルトはロランツがリゼの話を始めると仕事の手を止め、相づちをうちながら聞くようにしている。
ロランツ曰く、リゼは侍女の仕事がとても性に合っているそうだ。会うたびに仕事の楽しさを語り、疲れている様子もないという。
ギルベルトは安心した。そして続いたロランツの言葉に焦りを覚えた。
「リゼは見るたびに垢抜けていくよ。表情も生き生きして見ている方も笑顔になれると、奥さんの同僚からもすこぶる評判が良いらしい。お偉方に見初められるのも時間の問題だなあ」
リゼが突然内務部に来たのは、ロランツがそんな話をした直後のことだった。ギルベルトはつい不用意に声をかけてしまう。
「ギ、ギルベルト様っ」
驚いた様子のリゼが目を大きく見開き固まっている。
ロランツから垢抜けたと聞いていたが、咄嗟の拍子に感情が表れてしまうところは変わっていないようだ。
この一月ほどの間に、彼女はそれほど変わっただろうか。
確かに活発さはいくらか鳴りをひそめ、落ち着いた物腰を意識しているように思える。そういうところが垢抜けたと言えるのかもしれない。
白のリボンは素朴なリゼに似合うと思って選んだが、こうして見ると洗練された雰囲気も感じさせる良い品だ。
やはりよく似合っている───
自身の手がリゼの髪に触れる寸前、我に返る。
リゼは驚いた顔でこちらを見ているが、おそらく自分も同様だろう。
無意識に伸びた手を慌てて戻し、ちょうど戻ったロランツに救われる形でその場を離れた。
その後ロランツが興奮しながら語った話によると、リゼはなんと隣国の使者の部屋付きになったらしい。
──お偉方に見初められる
ロランツの言葉が早くも現実のものとなった。
ギルベルトは名状しがたい焦燥感に駆られ、庇護者として為すべきことを考えるのだった。
15
あなたにおすすめの小説
【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます
腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった!
私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
見た目は子供、頭脳は大人。 公爵令嬢セリカ
しおしお
恋愛
四歳で婚約破棄された“天才幼女”――
今や、彼女を妻にしたいと王子が三人。
そして隣国の国王まで参戦!?
史上最大の婿取り争奪戦が始まる。
リュミエール王国の公爵令嬢セリカ・ディオールは、幼い頃に王家から婚約破棄された。
理由はただひとつ。
> 「幼すぎて才能がない」
――だが、それは歴史に残る大失策となる。
成長したセリカは、領地を空前の繁栄へ導いた“天才”として王国中から称賛される存在に。
灌漑改革、交易路の再建、魔物被害の根絶……
彼女の功績は、王族すら遠く及ばないほど。
その名声を聞きつけ、王家はざわついた。
「セリカに婿を取らせる」
父であるディオール公爵がそう発表した瞬間――
なんと、三人の王子が同時に立候補。
・冷静沈着な第一王子アコード
・誠実温和な第二王子セドリック
・策略家で負けず嫌いの第三王子シビック
王宮は“セリカ争奪戦”の様相を呈し、
王子たちは互いの足を引っ張り合う始末。
しかし、混乱は国内だけでは終わらなかった。
セリカの名声は国境を越え、
ついには隣国の――
国王まで本人と結婚したいと求婚してくる。
「天才で可愛くて領地ごと嫁げる?
そんな逸材、逃す手はない!」
国家の威信を賭けた婿争奪戦は、ついに“国VS国”の大騒動へ。
当の本人であるセリカはというと――
「わたし、お嫁に行くより……お昼寝のほうが好きなんですの」
王家が焦り、隣国がざわめき、世界が動く。
しかしセリカだけはマイペースにスイーツを作り、お昼寝し、領地を救い続ける。
これは――
婚約破棄された天才令嬢が、
王国どころか国家間の争奪戦を巻き起こしながら
自由奔放に世界を変えてしまう物語。
【12月末日公開終了】これは裏切りですか?
たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。
だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。
そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
「25歳OL、異世界で年上公爵の甘々保護対象に!? 〜女神ルミエール様の悪戯〜」
透子(とおるこ)
恋愛
25歳OL・佐神ミレイは、仕事も恋も完璧にこなす美人女子。しかし本当は、年上の男性に甘やかされたい願望を密かに抱いていた。
そんな彼女の前に現れたのは、気まぐれな女神ルミエール。理由も告げず、ミレイを異世界アルデリア王国の公爵家へ転移させる。そこには恐ろしく気難しいと評判の45歳独身公爵・アレクセイが待っていた。
最初は恐怖を覚えるミレイだったが、公爵の手厚い保護に触れ、次第に心を許す。やがて彼女は甘く溺愛される日々に――。
仕事も恋も頑張るOLが、異世界で年上公爵にゴロニャン♡ 甘くて胸キュンなラブストーリー、開幕!
---
そのご寵愛、理由が分かりません
秋月真鳥
恋愛
貧乏子爵家の長女、レイシーは刺繍で家計を支える庶民派令嬢。
幼いころから前世の夢を見ていて、その技術を活かして地道に慎ましく生きていくつもりだったのに——
「君との婚約はなかったことに」
卒業パーティーで、婚約者が突然の裏切り!
え? 政略結婚しなくていいの? ラッキー!
領地に帰ってスローライフしよう!
そう思っていたのに、皇帝陛下が現れて——
「婚約破棄されたのなら、わたしが求婚してもいいよね?」
……は???
お金持ちどころか、国ごと背負ってる人が、なんでわたくしに!?
刺繍を褒められ、皇宮に連れて行かれ、気づけば妃教育まで始まり——
気高く冷静な陛下が、なぜかわたくしにだけ甘い。
でもその瞳、どこか昔、夢で見た“あの少年”に似ていて……?
夢と現実が交差する、とんでもスピード婚約ラブストーリー!
理由は分からないけど——わたくし、寵愛されてます。
※毎朝6時、夕方18時更新!
※他のサイトにも掲載しています。
断罪まであと5秒、今すぐ逆転始めます
山河 枝
ファンタジー
聖女が魔物と戦う乙女ゲーム。その聖女につかみかかったせいで処刑される令嬢アナベルに、転生してしまった。
でも私は知っている。実は、アナベルこそが本物の聖女。
それを証明すれば断罪回避できるはず。
幸い、処刑人が味方になりそうだし。モフモフ精霊たちも慕ってくれる。
チート魔法で魔物たちを一掃して、本物アピールしないと。
処刑5秒前だから、今すぐに!
【完結】姉は聖女? ええ、でも私は白魔導士なので支援するぐらいしか取り柄がありません。
猫屋敷 むぎ
ファンタジー
誰もが憧れる勇者と最強の騎士が恋したのは聖女。それは私ではなく、姉でした。
復活した魔王に侯爵領を奪われ没落した私たち姉妹。そして、誰からも愛される姉アリシアは神の祝福を受け聖女となり、私セレナは支援魔法しか取り柄のない白魔導士のまま。
やがてヴァルミエール国王の王命により結成された勇者パーティは、
勇者、騎士、聖女、エルフの弓使い――そして“おまけ”の私。
過去の恋、未来の恋、政略婚に揺れ動く姉を見つめながら、ようやく私の役割を自覚し始めた頃――。
魔王城へと北上する魔王討伐軍と共に歩む勇者パーティは、
四人の魔将との邂逅、秘められた真実、そしてそれぞれの試練を迎え――。
輝く三人の恋と友情を“すぐ隣で見つめるだけ”の「聖女の妹」でしかなかった私。
けれど魔王討伐の旅路の中で、“仲間を支えるとは何か”に気付き、
やがて――“本当の自分”を見つけていく――。
そんな、ちょっぴり切ない恋と友情と姉妹愛、そして私の成長の物語です。
※本作の章構成:
第一章:アカデミー&聖女覚醒編
第二章:勇者パーティ結成&魔王討伐軍北上編
第三章:帰郷&魔将・魔王決戦編
※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
※ アルファポリス完結ファンタジー8位。応援ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる