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ギルベルト2
2,逆鱗に触れる
いったいいつからの想いだったのか、改めて考えても明確なところはわからない。
けれど彼女を知るほどに心はとらわれ、リゼ・ルースラインという人の有りようにいつしかどうしようもなく惹かれてしまった。
希う相手から想いを返してもらえた。
それがどんなに得難く幸運なことであるのかをギルベルトは日々噛みしめている。
誰かを想って心が浮き立つなどと、そんな感情は演劇や物語の中で語られるだけの、自分には縁のないものだと思っていた。
多くの言葉と想いを交わし、互いへの好意が深まる一方で、リゼは二人の交際がギルベルトの将来を変えてしまうことに対して罪悪感を捨てきれずにいるようだった。
二人の仲が深くなりすぎないよう、また、人の噂にならないようにと気を遣っている節がある。
父に彼女との仲を認めてもらいたい。
ギルベルトはリゼの躊躇を感じ取るにつれそう考えるようになった。
自身が忘れかけていた、何ならもう終わったとすら思っていたハイモンド家との見合いについてリゼから問われたのは、リゼとの交際を父にいつ話すべきかとギルベルトが時機を計っているまさにその時だった。
ギルベルトは侯爵邸に向かった。
音沙汰のないハイモンド家には断りを入れ、想う相手がいると父に知らせるためだ。
侯爵邸で父と向き合い自身の想いを切り出すと、父は驚きを露に話の先を促した。
王女宮で侍女をしており早々に部屋付きに抜擢されたと続けると、感心したそぶりで家名を訊ねられた。
「何だと!? ルースラインだと? 田舎の貧しい領ではないか! 任務中に籠絡でもされたか! なんと情けない」
突然激昂した父に一瞬たじろいだギルベルトだったが、すぐさま背を伸ばし、父にかける言葉を慎重に選ぶ。
「父上、どうかお聞きください。彼女は志の高い人です。私から乞うて応えてもらいました。それにルースラインは今後大きな発展が見込める地です。もう貧しい領などではなくなるでしょう」
「田舎の弱小貴族と縁付いたところで何になる。繁栄が伴わない結婚など無意味だとわからぬか!」
「父上のお考えはわかりました。では益があれば、繁栄が見込めるのならば良いのですね」
無益な婚姻など貴族には無価値──ギルベルトもかつてはそう考えていた。貴族家当主としての父の言い分は正しいとわかっている。
それならば父もルースライン領の展望を知れば、かの地が政略上も有益であると理解を得られるのではないか。
ルースライン領の発展性を誰よりも信じるギルベルトはそう結論づけた。
その日は一旦侯爵邸を辞したが、その後も空き時間があると父に会いに行った。
ルースラインの話をすると父は苦い顔はするもののギルベルトを追い出すことはせず、一縷の望みが見える。
父はどれだけ条件の良い縁談であっても、最終的な判断は本人にさせる人だ。
父なりに子どもたちを最大限尊重してくれていると知っている。時間はかかってもいつかはと思うギルベルトだった。
けれど彼女を知るほどに心はとらわれ、リゼ・ルースラインという人の有りようにいつしかどうしようもなく惹かれてしまった。
希う相手から想いを返してもらえた。
それがどんなに得難く幸運なことであるのかをギルベルトは日々噛みしめている。
誰かを想って心が浮き立つなどと、そんな感情は演劇や物語の中で語られるだけの、自分には縁のないものだと思っていた。
多くの言葉と想いを交わし、互いへの好意が深まる一方で、リゼは二人の交際がギルベルトの将来を変えてしまうことに対して罪悪感を捨てきれずにいるようだった。
二人の仲が深くなりすぎないよう、また、人の噂にならないようにと気を遣っている節がある。
父に彼女との仲を認めてもらいたい。
ギルベルトはリゼの躊躇を感じ取るにつれそう考えるようになった。
自身が忘れかけていた、何ならもう終わったとすら思っていたハイモンド家との見合いについてリゼから問われたのは、リゼとの交際を父にいつ話すべきかとギルベルトが時機を計っているまさにその時だった。
ギルベルトは侯爵邸に向かった。
音沙汰のないハイモンド家には断りを入れ、想う相手がいると父に知らせるためだ。
侯爵邸で父と向き合い自身の想いを切り出すと、父は驚きを露に話の先を促した。
王女宮で侍女をしており早々に部屋付きに抜擢されたと続けると、感心したそぶりで家名を訊ねられた。
「何だと!? ルースラインだと? 田舎の貧しい領ではないか! 任務中に籠絡でもされたか! なんと情けない」
突然激昂した父に一瞬たじろいだギルベルトだったが、すぐさま背を伸ばし、父にかける言葉を慎重に選ぶ。
「父上、どうかお聞きください。彼女は志の高い人です。私から乞うて応えてもらいました。それにルースラインは今後大きな発展が見込める地です。もう貧しい領などではなくなるでしょう」
「田舎の弱小貴族と縁付いたところで何になる。繁栄が伴わない結婚など無意味だとわからぬか!」
「父上のお考えはわかりました。では益があれば、繁栄が見込めるのならば良いのですね」
無益な婚姻など貴族には無価値──ギルベルトもかつてはそう考えていた。貴族家当主としての父の言い分は正しいとわかっている。
それならば父もルースライン領の展望を知れば、かの地が政略上も有益であると理解を得られるのではないか。
ルースライン領の発展性を誰よりも信じるギルベルトはそう結論づけた。
その日は一旦侯爵邸を辞したが、その後も空き時間があると父に会いに行った。
ルースラインの話をすると父は苦い顔はするもののギルベルトを追い出すことはせず、一縷の望みが見える。
父はどれだけ条件の良い縁談であっても、最終的な判断は本人にさせる人だ。
父なりに子どもたちを最大限尊重してくれていると知っている。時間はかかってもいつかはと思うギルベルトだった。
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