上 下
34 / 160
第一部 地球編

31 因縁の相手

しおりを挟む
 シドニー事件で倒せなかった唯一のエイリアンの行方をずっと情報処理班が追っていた。防犯カメラや衛星、一人一人が持っている携帯電話等のカメラまでハッキングして、あの時シドニー郊外付近にいた人物達を監視していた。しかし、候補の中からエイリアンを見つけるまでは至っていなかった



 エイリアンを見つけられないまま時間だけが過ぎていった頃、マスターウェザーとエドガーの隊長同士が話し合っていた

「行き詰まりましたね。エドガーどうします?」

「候補全員を始末するか?」

「それは最悪な案ですよ」

「そうだよな。罪無き命は奪いたくないしな。それに、候補の中にエイリアンがいない場合もある」

「殺すのではなく、ブラスターを一人一人に当てていきましょう」

「撃った後、毎回エイリアンかどうかを区別していくのには時間がかかるだろ。それに、時間をかけすぎると気付かれて返り討ちに合うかもしれん。兵士隊からは人員を出せんぞ」

 その時、チョウが駆け込んできた

「隊長!大変です!」



 トリックスターがスノーメロディーと旅をしてると、タンクから連絡が入った

「どうしました?」

「トリックスター。今どこだ?」

「カリブ海です」

 二人はビーチにいた

A.C.T アクトのゴーグル持っていったよな?今から送るデータ見てみろ」

「えぇ。『解』」

 トリックスターがゴーグルを取り出して着けた。このゴーグルの形状がVRゴーグルのようなので、周囲から見るとビーチでVRを楽しんでるバカにしか見えない。ゴーグルを着けると

「今、データ送った」

 送られてきたデータはアメリカの国防総省の通称ペンタゴンから黒煙が出ている映像だった。コンピューターが説明を始めた

「アメリカ合衆国の国防総省で、ロシア人による自爆テロが起きました」

「警備は厳重だろ?それに国防総省を防衛する為の、ペンタゴン防護局もあるし」

「ペンタゴン防護局で同日の午前に職員による銃乱射が起きました」

「ロシア人は反米の人?」

「いいえ。親米の政府関係者でした」

「僕に連絡してきたのは、あいつが動き出したのか?」

「はい。シドニーとペンタゴンの両方の周囲に居た人物は一人です」

 その人物の写真が映し出された。五十代くらいのおじさんだ。どっかで会ったことのある顔のようにトリックスターは思えてきた。一通りの説明が終わるとタンクが

「来るか?」

「もちろん」

「じゃあ、ワシントンD.C.にすぐ来い!」

「何でワシントンD.C.?」



 ワシントンD.C.の支部はホワイトハウスの少し深い地下にあり、主要施設の防衛も担っていた。トリックスターが支部に着くと、兵士隊が誰も居ない代わりに、戦士隊が数多く居た。タンクやヒラン、センス、ハンドジェット、ブルズアイだ。旅に出て一年近く経つが、みんな全く変わってない

「お久しぶりです」

「そうだな。スノーメロディーとは仲良くなれたか?」

「仲良い時もあるし、殺し合う時もありますね」

「前みたいに迷惑かけるなよ」

「中国での事はすいませんでした。ところで兵士隊は?」

「この支部内には一人も居ない。マスターウェザーとエドガーがそうさせた」

「何でワシントンD.C.に?ペンタゴンから結構距離が」

 みんな笑い出した。そんな変な事を言ったのかトリックスターには分からなかった

「悪い。そうだよな。俺らも思ったよ。エドガーがここに行けと命令してな」

「どうして?」

「マスターウェザーとエドガーがペンタゴンが襲撃を受けたと聞いて話し合ったんだよ。シドニーの時に上手く逃げられたなら身を潜めてればいい。なぜ襲撃したんだと」

「確かに。数日で見つかる」

「そこで二人は意図を考えたんだ。何故アメリカ?何故ペンタゴン?何故ロシア人を使った?何故政府関係者の人を?」

 タンクがここまで言えば考察できるだろ。と言わんばかりにトリックスターを見た

「ロシア人の政府関係者がテロを起こしたとなるとアメリカが黙っちゃいない?」

「そうだ。まだこの事件に続きがあるとすれば、次に狙われるのは?」

「まさか・・・アメリカ合衆国大統領?核ミサイルの発射権のゴールド・コードが与えられてる。報復攻撃としてロシアに発射すれば・・・」

「見事に世界大戦の勃発だ!俺達の組織は関与できなくなる。その前に止める。二人はそう考えた。だから、俺達をここに寄越し、憑依される兵士隊は退避させた」

「大国の二つが始めれば、世界が終わる。エイリアン一人でも世界を滅ぼせる」

「けど、確証は無いよね?」

「エドガー隊長は軍略の天才だ。相手の動きを予測するのに長けている。だから、俺達は信じてここに来た」

「大統領はどこに匿ってるの?」

「匿ってないさ」

「囮に使うの?」

「危険だがな」

「発射されそうになったら?」

「大統領を殺すことになるかもしれない」

 タンクはそう言ったが、周りは反応が違った  

「えっ!ガチ?」

「大統領暗殺したら、晴れて俺達テロリストだな」

「冗談だ。だが、エイリアンを見つける者と大統領を護る者を選ばないとな。大統領には最悪な状況に陥るまで接触はするなと言われてる。どう分担する?」

 タンクが五人を見た

「僕は大統領の近くに居るよ。エイリアン見つけても、戦闘向きの能力じゃないし。エイリアンをここから探知能力で探す。みんなはエイリアンを討ちに行って」

 センスがそう言った

「それしかないよな。捜すのは広範囲だからエイリアンを倒すのには人数が欲しい。いいよな?」

「了解。ところで大統領はホワイトハウスに居るの?」

「いや。日本との対談があったが、ペンタゴンの件があるので、飛行機で帰路の途中だ」



 次の日、大統領はホワイトハウスに帰ってきた。A.C.T アクトは今回の事をアメリカに知らせていないので、センスがホワイトハウス内に居ることはできず、支部から探知するしかなかった。センス以外の五人はホワイトハウスの周囲を巡回していた。誰もすぐにはエイリアンは行動を起こさないだろうと思っていた。タンクとトリックスターとヒランは分身を何体か出して巡回。ブルズアイは近くの建物の屋上、ハンドジェットは空から見張っていた。しかし

「大統領に憑依された!」

 センスが大声でみんなに通信機で呼び掛けた

「何だと!?エイリアンはどこだ。センス!」

「今、探してる!クソッ!周囲に人が多すぎる」

「センス!大統領はどこだ!」

「執務室!」

「センスは、すぐに向かって止めろ!ヒランは分身達を何体か向かわせろ!」

「見つけた!ワシントン記念塔で地球人とは違う反応!」

「ブルズアイどうだ!」

「人が多くて判別できない」

「ハンドジェット。すぐに向かえ」

「もう向かってるが、低空飛行は周囲に被害が及ぶから無理だ」



 センスは支部をすぐに出て、ホワイトハウスと直結してる道を走って、執務室に向かっていた。途中、警備に見つかり、時間が無いので気絶させていると、執務室に近づける状態では警備の数になっていった。やがて包囲され、警備を担当してる者は銃を構えてきた

「手を上げて壁の方を向け!」

「僕はA.C.T アクトだ!緊急なんだ。通せ!」

A.C.T アクト?あの国連が創った問題の組織か?今度は大統領を襲いに来たのか!」

「このままだと核戦争が始まる!」

 センスは核発射の手順が進んでいることに能力で気付いていた。今、コードを入れてる最中だった

「ロシアへの報復だ!」

「エイリアンの仕業なんだよ!」

「野蛮な奴らの話なんか聞かん!それに、お前らもエイリアンみたいなもんだろが!」

 その時、大量の足音が聞こえた。センスが音のする方を見ると、ヒランの大群が押し寄せていた

「止まれ!止まらないと撃つ!」

 ヒランの大群は無視して突撃した。そこに、無数の銃弾が撃ち込まれていくが、分身なので消えていくだけだ

「センス。盾になるから行って!」

 センスは身を低くしたまま走り出した



 ハンドジェットが真っ先にワシントン記念塔に着いた。観光客等の人間がうじゃうじゃいる。空から降りてきたので、一般人達はハンドジェットに驚き、周りを囲って撮影し始めた

「邪魔だ!センス!どんな奴だ?」

「違うハンドジェット!建物の中だ」

「了解。そこを通せ!」

 ハンドジェットが周りに言ったが、退く気配がない。ハンドジェットがブラスターを取り出して、空に撃った。しかし、逆効果だったようだ。パニックになった一般人達があちこちに走り出したので、余計に道が塞がれているようだった

「ハンドジェットさん。そっちいくから用意して」

 通信でトリックスターに言われたハンドジェットはボールをその場に置いた。二秒後、ボールが消えトリックスターが現れた

「塔に登りましょう!」

「警備はどうする?」

「無視に決まってるでしょう!」

 二人がワシントン記念塔の中に走り出した。二人が入った時にセンスが絶望した声で言った

「止められなかった。核ミサイルが発射された」
しおりを挟む

処理中です...