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夜七時。
閉店作業を終わらせて自宅に帰りながら尚里は、はあと溜息を吐いた。
思わぬバイト先の消失に、気分は重くなるばかりだ。
尚里は今現在、二十歳だ。
高校卒業と同時に実家と断絶した。
父親の元嫁の連れ子という尚里は、再婚した家庭の誰とも血がつながっていない。
母親は五歳の時に出ていき、父親が六歳で再婚した。
当然家の中では邪魔者扱いで、頼りにしたり甘えたりということは出来なかった。
そのせいか友人とも一線を引いてしまい、高校にいたっては少しでも遅く帰るためにバイトを毎日していた。
そのバイト先が黒崎のカフェだった。
事情を話した黒崎が破格の時給で雇ってくれて、そのまま今に至る。
「あー……どうしよ」
くせ毛を通り越して美容院代を渋ってボサボサの髪を、溜息と共に指先でかく。
そうして人通りの少ない路地裏に入ると、そこにはひっそりと尚里のねぐらが見えてくる。
築七十年の木造オンボロアパート。
今にも崩れそうな壁面。
途中で折れている排水パイプ。
窓にはヒビが入っておりガムテープで止められている。
台風でもくれば、一瞬で倒壊しそうなアパートだ。
少なくとも今までは奇跡的に生き残っているけれど。
一応風呂とトイレは付いている。
都心で破格の値段で見つけた、尚里のあまりにつつましやかすぎる城だった。
まあ、済めば都だ。
といっても尚里のほかに人はいないのだけれど。
見えてきた自宅の扉に、鍵をポケットから取り出して近づくと、その古ぼけた扉のノブに黒い紙袋が掛けられていた。
おそるおそる中を覗いてみると、そこには。
「うわぁ……」
どぎついパッションピンクのプラスチック製品がこれみよがしに入れられていた。
性玩具。
所詮ディルドというやつだ。
ただでさえ沈んでいた気持ちが、さらに急降下していく。
尚里は乱暴に紙袋をドアノブからひったくるとそのままゴミ捨て場に直行して、荒々しくそこに投げ捨てた。
「まったく!」
実は半月以上前から続いているこういった行為に、家に帰るたびに尚里は嫌な気持ちを味わっていた。
時におにぎりだったりだったり時にこんな玩具だったりとバラエティー豊かな贈り物が週に二回は届くのだ。
こんなやせっぼっちのそばかす顔に何故こうも粘着しているのかと、甚だ疑問だ。
乱暴に玄関を開けて部屋に入ると、豆電球をつける。
電気代の節約のために、基本的に尚里は豆電球で生活していた。
今日は持って帰ってきた店の残り物があるが、さきほどの玩具のせいですっかり食欲はなくなっていた。
ちなみに普段はもやしと豆腐にお世話になっている。
水道代節約のために五分でシャワーを終えると、ぺったんこの布団へと滑り込む。
夜はすぐに寝ることで電気代をさらに節約だ。
目を閉じて数時間たった頃。
キイ、パタン。
キイ、パタン。
物音が聞こえて尚里は目を覚ました。
リサイクルショップで手に入れた目覚まし時計を見れば午後十一時。
この辺りはこのアパート以外は空き家や空き地だし、住民も尚里だけ。
そして音の大きさからして尚里の部屋の前だろう。
布団から起き上がり、玄関の方を目を凝らして見た。
すると。
キイ、パタン。
古い扉についている郵便受けが開けられては閉まる音だと気づいた。
扉の内側には郵便の受け取り口があるだけで、受け皿などはないので、部屋の中を覗けるはずだ。
それに気づくと、ゾワゾワと気持ちが悪くなる。
布団を頭までかぶって音を遮断しようとしたけれど、その音は明け方まで鳴り止まず尚里はまともに眠れなかった。
翌日は、くあと何度もあくびを零しながら尚里はバイト前に、普段は絶対に近づかない高級店の並ぶ通りを歩いていた。
ペラペラの三枚千円のシャツで歩くには恥ずかしいけれど、黒崎からのお使いを頼まれたのだ。
何でもアルバナハルの本が新刊として出たらしく、予約をしているらしい。
言われていた本屋につくと、そこは木組みのモダンな建物で尚里は入りにくいなあと素直に思った。
けれどバイトの時間もあるし、さっさと受け取って出ようと勇気を出して入口のガラス扉をくぐった。
店内は赤茶色の絨毯が敷かれていたりジャズが流れていたりと、富裕層向けの空間だと肌でビシビシと感じる。
救いは店内にいる客はゆったりと図書館のような雰囲気で本を見ており尚里のことなど気にしていない事だ。
分厚いハードカバーや専門書、千円を超えるアート系の雑誌などが空間の雰囲気を損なうことなく並べられている。
カウンターに行き、黒崎から預かっていた控えの紙を渡すと、薄い本を渡された。
表紙を見れば、美しいスカイブルーの海の写真だ。
黒崎が言うには国内向けの本らしいが、わざわざアルバナハルから取り寄せたらしい。
趣味の語学でアルバナハル語と英語が堪能な黒崎に、何故か尚里もその二言語を叩きこまれたりしている。
レジカウンターから離れて表紙をマジマジと見ていると、ざわざわとジャズの流れる店内が騒がしいことに気付いた。
なんだろうと顔を上げると、カツカツと焦燥感のある靴音が響いている。
急いでる人でもいるのかなとそちらを見やり、尚里は驚きで目を見張った。
そこには長身の男が長い足をせわし気に動かしてこちらへと歩いて来ている。
その見た目に、尚里は思わず感嘆の溜息が出た。
なめらかな褐色の肌に、肩口で切り揃えられた銀髪がサラリと揺れている。
まったくの曇りのない煌めく青い瞳がこちらを向いていることに、思わずドキリと尚里は動きが止まってしまった。
まるで芸術品のような神々しさと、豪奢な外見の雰囲気を混ぜ合わせたような不思議な雰囲気だった。
こちらの方に用があるのかとススと通路の端へと下がる。
けれど、二十代前半に見える上等なスリピースのスーツを着こなしている男は。
「やっと……見つけた!」
尚里の目の前へと歩いてきて、ピタリと足を止めた。
「え……」
いきなり目の前まで来たその男を見上げると、その瞳が甘さを含んでしんなりとたわむ。
「アルバナハルに興味があるのですか?」
「え……と」
急に話しかけられて、尚里はとまどった。
明らかに日本人ではない男から、甘いテノールが日本語を紡いだことに驚いてしまう。
なんなんだこの人とおそるおそる見上げれば、男はにっこりと甘く微笑んだ。
なあ、あれって、まさか、とざわざわしていた店内がその男へと集中していることに気付く。
そこで気が付いた。
最近この色彩の人間を見たような気がすると。
「やっと会えた、私の花嫁」
けれどその考えは四散した。
「ひえっ」
目の前の男が優雅な手つきで本を持っていない方の左手をゆっくりと手に取り、その彫像のようなウェーブを描いている唇で口づけたからだ。
「な、なにすんだ!」
思わず声を上げるけれど、男はにっこりと笑みを浮かべたままその場でスーツが汚れるのも気にすることなく片膝をついた。
「いけません!」
突然響いた制止の声と、男がうやうやしく尚里の左手の甲を自分の額に押し当てたのは同時だった。
そこでハッと気づく。
そういえば、不明瞭な画面だったけれど昨日見たアルバナハルの軍事司令官という男の色彩を思い出す。
褐色の肌に銀髪の男だった。
「え、まさか……」
まさかまさかと、おそるおそる口を開くけれどその先を続けられないでいると、男がスラリと立ち上がった。
圧倒的な身長差に見上げると、尚里の手を取ったまま男が形の良い唇を動かした。
「申し遅れました。アルバナハル軍事最高司令官をしているルキアージュ・イシリス・ナレージャロと申します」
やはり予想通りの肩書名を告げられて、尚里はピシリと固まった。
何故こんな日本にいるのかとか、何故尚里の手を取っているのかとか疑問は沸いてくるけれど、困惑するばかりだ。
思わず眉が下がってしまう。
「あなたの名は?」
手を取られていることが気になって、そちらとルキアージュと名乗った男の顔を行ったり来たりと見ていると、ルキアージュがきゅっと手に力を入れてきた。
「教えてください」
なんで名前なんか聞かれるのだろうと疑問がよぎるが、なんだか教えなければ手は放してもらえそうにない。
「暁尚里、です」
「なおり……尚里ですね」
まるで甘い飴を転がすように名前を口にされ、尚里は居心地が悪い。
何故、名前など聞かれたのだろうと思う。
「突然ですみません。あなたに大切なことを伝えたい。時間を戴けませんか?」
本当に突然だ。
「いや、俺バイトに……」
ようやくそれだけを口にすると。
「ではバイト先までご一緒しても?」
いいわけが無い。
ブンブンと扇風機のように首を振ると、ルキアージュは少しだけ眉を下げて尚里を見下ろした。
「では私の滞在しているホテルまでいらしてくださいませんか?警戒しないでください。私があなたに危害を加えることは万に一つもありません」
とろけるような眼差しに熱く見つめられて、どうしようと口を引き結んでしまう。
けれど、この様子では本気でついて来そうだと思うとおそるおそる尚里は頷いた。
「ありがとうございます」
宝石のような青い瞳が、チカリと光りを反射して煌めいた。
「フルメルスタ」
「はっ」
名前なのだろう。
ルキアージュの声に、黒いスーツを身に着けた赤い短髪を後ろだけ長く伸ばして結んでいる男が一礼した。
肌の色はルキアージュと同じく褐色で、二人の年齢はそんなに離れているようには見えない。
鋭く返事をした声に、さきほど「いけません」と聞こえた声と同じだと気づく。
どうやらフルメルスタと呼ばれたこの男もアルバナハル人なのだろうかと、疑問が脳裏をよぎった。
名前を呼ばれたフルメルスタはスマホでどこかに連絡をしている。
「では行きましょう」
ついと握られている手をそのままにエスコートされだして、尚里はとまどっていた。
閉店作業を終わらせて自宅に帰りながら尚里は、はあと溜息を吐いた。
思わぬバイト先の消失に、気分は重くなるばかりだ。
尚里は今現在、二十歳だ。
高校卒業と同時に実家と断絶した。
父親の元嫁の連れ子という尚里は、再婚した家庭の誰とも血がつながっていない。
母親は五歳の時に出ていき、父親が六歳で再婚した。
当然家の中では邪魔者扱いで、頼りにしたり甘えたりということは出来なかった。
そのせいか友人とも一線を引いてしまい、高校にいたっては少しでも遅く帰るためにバイトを毎日していた。
そのバイト先が黒崎のカフェだった。
事情を話した黒崎が破格の時給で雇ってくれて、そのまま今に至る。
「あー……どうしよ」
くせ毛を通り越して美容院代を渋ってボサボサの髪を、溜息と共に指先でかく。
そうして人通りの少ない路地裏に入ると、そこにはひっそりと尚里のねぐらが見えてくる。
築七十年の木造オンボロアパート。
今にも崩れそうな壁面。
途中で折れている排水パイプ。
窓にはヒビが入っておりガムテープで止められている。
台風でもくれば、一瞬で倒壊しそうなアパートだ。
少なくとも今までは奇跡的に生き残っているけれど。
一応風呂とトイレは付いている。
都心で破格の値段で見つけた、尚里のあまりにつつましやかすぎる城だった。
まあ、済めば都だ。
といっても尚里のほかに人はいないのだけれど。
見えてきた自宅の扉に、鍵をポケットから取り出して近づくと、その古ぼけた扉のノブに黒い紙袋が掛けられていた。
おそるおそる中を覗いてみると、そこには。
「うわぁ……」
どぎついパッションピンクのプラスチック製品がこれみよがしに入れられていた。
性玩具。
所詮ディルドというやつだ。
ただでさえ沈んでいた気持ちが、さらに急降下していく。
尚里は乱暴に紙袋をドアノブからひったくるとそのままゴミ捨て場に直行して、荒々しくそこに投げ捨てた。
「まったく!」
実は半月以上前から続いているこういった行為に、家に帰るたびに尚里は嫌な気持ちを味わっていた。
時におにぎりだったりだったり時にこんな玩具だったりとバラエティー豊かな贈り物が週に二回は届くのだ。
こんなやせっぼっちのそばかす顔に何故こうも粘着しているのかと、甚だ疑問だ。
乱暴に玄関を開けて部屋に入ると、豆電球をつける。
電気代の節約のために、基本的に尚里は豆電球で生活していた。
今日は持って帰ってきた店の残り物があるが、さきほどの玩具のせいですっかり食欲はなくなっていた。
ちなみに普段はもやしと豆腐にお世話になっている。
水道代節約のために五分でシャワーを終えると、ぺったんこの布団へと滑り込む。
夜はすぐに寝ることで電気代をさらに節約だ。
目を閉じて数時間たった頃。
キイ、パタン。
キイ、パタン。
物音が聞こえて尚里は目を覚ました。
リサイクルショップで手に入れた目覚まし時計を見れば午後十一時。
この辺りはこのアパート以外は空き家や空き地だし、住民も尚里だけ。
そして音の大きさからして尚里の部屋の前だろう。
布団から起き上がり、玄関の方を目を凝らして見た。
すると。
キイ、パタン。
古い扉についている郵便受けが開けられては閉まる音だと気づいた。
扉の内側には郵便の受け取り口があるだけで、受け皿などはないので、部屋の中を覗けるはずだ。
それに気づくと、ゾワゾワと気持ちが悪くなる。
布団を頭までかぶって音を遮断しようとしたけれど、その音は明け方まで鳴り止まず尚里はまともに眠れなかった。
翌日は、くあと何度もあくびを零しながら尚里はバイト前に、普段は絶対に近づかない高級店の並ぶ通りを歩いていた。
ペラペラの三枚千円のシャツで歩くには恥ずかしいけれど、黒崎からのお使いを頼まれたのだ。
何でもアルバナハルの本が新刊として出たらしく、予約をしているらしい。
言われていた本屋につくと、そこは木組みのモダンな建物で尚里は入りにくいなあと素直に思った。
けれどバイトの時間もあるし、さっさと受け取って出ようと勇気を出して入口のガラス扉をくぐった。
店内は赤茶色の絨毯が敷かれていたりジャズが流れていたりと、富裕層向けの空間だと肌でビシビシと感じる。
救いは店内にいる客はゆったりと図書館のような雰囲気で本を見ており尚里のことなど気にしていない事だ。
分厚いハードカバーや専門書、千円を超えるアート系の雑誌などが空間の雰囲気を損なうことなく並べられている。
カウンターに行き、黒崎から預かっていた控えの紙を渡すと、薄い本を渡された。
表紙を見れば、美しいスカイブルーの海の写真だ。
黒崎が言うには国内向けの本らしいが、わざわざアルバナハルから取り寄せたらしい。
趣味の語学でアルバナハル語と英語が堪能な黒崎に、何故か尚里もその二言語を叩きこまれたりしている。
レジカウンターから離れて表紙をマジマジと見ていると、ざわざわとジャズの流れる店内が騒がしいことに気付いた。
なんだろうと顔を上げると、カツカツと焦燥感のある靴音が響いている。
急いでる人でもいるのかなとそちらを見やり、尚里は驚きで目を見張った。
そこには長身の男が長い足をせわし気に動かしてこちらへと歩いて来ている。
その見た目に、尚里は思わず感嘆の溜息が出た。
なめらかな褐色の肌に、肩口で切り揃えられた銀髪がサラリと揺れている。
まったくの曇りのない煌めく青い瞳がこちらを向いていることに、思わずドキリと尚里は動きが止まってしまった。
まるで芸術品のような神々しさと、豪奢な外見の雰囲気を混ぜ合わせたような不思議な雰囲気だった。
こちらの方に用があるのかとススと通路の端へと下がる。
けれど、二十代前半に見える上等なスリピースのスーツを着こなしている男は。
「やっと……見つけた!」
尚里の目の前へと歩いてきて、ピタリと足を止めた。
「え……」
いきなり目の前まで来たその男を見上げると、その瞳が甘さを含んでしんなりとたわむ。
「アルバナハルに興味があるのですか?」
「え……と」
急に話しかけられて、尚里はとまどった。
明らかに日本人ではない男から、甘いテノールが日本語を紡いだことに驚いてしまう。
なんなんだこの人とおそるおそる見上げれば、男はにっこりと甘く微笑んだ。
なあ、あれって、まさか、とざわざわしていた店内がその男へと集中していることに気付く。
そこで気が付いた。
最近この色彩の人間を見たような気がすると。
「やっと会えた、私の花嫁」
けれどその考えは四散した。
「ひえっ」
目の前の男が優雅な手つきで本を持っていない方の左手をゆっくりと手に取り、その彫像のようなウェーブを描いている唇で口づけたからだ。
「な、なにすんだ!」
思わず声を上げるけれど、男はにっこりと笑みを浮かべたままその場でスーツが汚れるのも気にすることなく片膝をついた。
「いけません!」
突然響いた制止の声と、男がうやうやしく尚里の左手の甲を自分の額に押し当てたのは同時だった。
そこでハッと気づく。
そういえば、不明瞭な画面だったけれど昨日見たアルバナハルの軍事司令官という男の色彩を思い出す。
褐色の肌に銀髪の男だった。
「え、まさか……」
まさかまさかと、おそるおそる口を開くけれどその先を続けられないでいると、男がスラリと立ち上がった。
圧倒的な身長差に見上げると、尚里の手を取ったまま男が形の良い唇を動かした。
「申し遅れました。アルバナハル軍事最高司令官をしているルキアージュ・イシリス・ナレージャロと申します」
やはり予想通りの肩書名を告げられて、尚里はピシリと固まった。
何故こんな日本にいるのかとか、何故尚里の手を取っているのかとか疑問は沸いてくるけれど、困惑するばかりだ。
思わず眉が下がってしまう。
「あなたの名は?」
手を取られていることが気になって、そちらとルキアージュと名乗った男の顔を行ったり来たりと見ていると、ルキアージュがきゅっと手に力を入れてきた。
「教えてください」
なんで名前なんか聞かれるのだろうと疑問がよぎるが、なんだか教えなければ手は放してもらえそうにない。
「暁尚里、です」
「なおり……尚里ですね」
まるで甘い飴を転がすように名前を口にされ、尚里は居心地が悪い。
何故、名前など聞かれたのだろうと思う。
「突然ですみません。あなたに大切なことを伝えたい。時間を戴けませんか?」
本当に突然だ。
「いや、俺バイトに……」
ようやくそれだけを口にすると。
「ではバイト先までご一緒しても?」
いいわけが無い。
ブンブンと扇風機のように首を振ると、ルキアージュは少しだけ眉を下げて尚里を見下ろした。
「では私の滞在しているホテルまでいらしてくださいませんか?警戒しないでください。私があなたに危害を加えることは万に一つもありません」
とろけるような眼差しに熱く見つめられて、どうしようと口を引き結んでしまう。
けれど、この様子では本気でついて来そうだと思うとおそるおそる尚里は頷いた。
「ありがとうございます」
宝石のような青い瞳が、チカリと光りを反射して煌めいた。
「フルメルスタ」
「はっ」
名前なのだろう。
ルキアージュの声に、黒いスーツを身に着けた赤い短髪を後ろだけ長く伸ばして結んでいる男が一礼した。
肌の色はルキアージュと同じく褐色で、二人の年齢はそんなに離れているようには見えない。
鋭く返事をした声に、さきほど「いけません」と聞こえた声と同じだと気づく。
どうやらフルメルスタと呼ばれたこの男もアルバナハル人なのだろうかと、疑問が脳裏をよぎった。
名前を呼ばれたフルメルスタはスマホでどこかに連絡をしている。
「では行きましょう」
ついと握られている手をそのままにエスコートされだして、尚里はとまどっていた。
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