突然の花嫁宣告を受け溺愛されました

やらぎはら響

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 すっかり暗闇になってしまった夜の中、車が向かったのは予想していたとおり尚里が初日にお邪魔したホテルの部屋だった。

「こちらのベッドルームを使ってください」

 何故ベッドルームが何個もあるのだと思いながら案内されたのは、グリーンと白で整えられた予想よりも広い部屋とでかいベッドだった。
 サイドテーブル以外にはベッドしかない。
こんなに広い部屋は必要なのだろうかと思わず遠い目をしてしまう。
 こんな広々とした部屋でリラックスできる気がしない。

「いや……あの」

 こんな部屋じゃなくて大丈夫だともごもごと口を開けば何を思ったのか。

「私と同じ部屋が嫌ならもう一部屋用意しますが」

 つまりこのスイートだかなんだかわからない、ベッドルームやら応接室やらがあるだだっ広い部屋を尚里のためにもう一部屋借りると。

「ぜんっぜんいい!むしろその辺のソファーで充分だから!」

 サッと顔を青くして、尚里は早口でまくし立てた。
 そう、ソファーで構わないのだ。
 このベッドルームにつくまでに案内された、何個もの部屋にはどれも最上級にふかふかだろうと予想される大きなソファーが、何個もあったのだ。
 正直、それで充分だったけれど。

「私と同じベッドに運びますよ」
「ここで寝ます」

 大人しくこの大きなベッドで寝る決意を固めた。

「残念」

 くすりとルキアージュの唇が笑みの形になる。
 豪奢な外見はそれだけで神々しいな、などと思っていると。

「おやすみなさい」

 額に柔らかい感触とちゅっ軽いリップ音がした。

「ひょわっ」

 キスをされたと気づき、バッと額に手をやりながら後ずさる。
 そんな尚里の様子にくすくすと笑いながら、もう一度おやすみと口にしてルキアージュは部屋を出て行った。
 パタリと扉が閉められて、脱力してしまった。
 もう怒涛の出来事にすっかり疲労困憊だ。
 ふらふらとベッドへと近寄り、しばらくためらったあとに靴を脱いでそっと潜り込んだ。

「うっわ、やわらかっ」

 あまりの寝心地のよさに驚愕してしまう。
 おののきながらも、ベッドの真ん中ではなくギリギリの端っこで丸くなって眠気がくるのを待つ。
 正直眠れるか不安だったけれど、慣れない出来事の連続に疲労していたのか、思いのほかあっさりと尚里は眠りの中へと落ちていった。
 ふっと意識が浮上した時に、体の下にある布団がいつものような床の固さではなく、ふかふかとしていることに違和感を覚えて尚里は目をこすった。
 寝起きはいい方だけれど、この寝心地の良さは何事だとぼんやりしながら体を起こし。

「……おう……」

 思わず視界に入った広い部屋にうめいた。

「そういえば家じゃなかった」

 起き上がって呆然と呟き、しかしよく眠れたなあと思う。
 寝具の心地よさゆえか、それともただ尚里が図太いだけなのか。
 とりあえず今何時だと思いながらベッドサイドのテーブルの方を見れば、そこにはアンティーク調の時計が七時十五分と教えてくれる。
 どうしようと思いながらも、そっとベッドから出て靴を履く。

「もう起きてるかな」

 扉の方まで来て、そっと開く。
 ベッドルームからは短い廊下を挟んで応接室だった。
 ホテルの一室なのに廊下があるってどういうことだと思いながら、応接室に続く扉を開いた。

「おはようございます、尚里」

 ソファーに座って書類らしき紙を見ていたルキアージュが立ち上がってこちらへとやってきた。

「おはよう」
「よく眠れましたか?」

 窓から入る朝日に反射して銀髪が天使の輪を作っている。
 大雑把な尚里のくせ毛とはもの凄い違いだ。
 朝から神々しいなと思いながら頷くと、髪をさらりと撫でられた。

「ひえ」

 一歩思わず後ずさる。
「お風呂の準備が出来ているので、どうぞ」
 そういえば疲れ切っていて、昨日はシャワーも食事もせず寝たのだったと思い出す。

「じゃあ、お言葉に甘えて」

 こくりと頷きバスルームへと向かうと、やはりそこも広かった。
 どこまで広いのだこの部屋はと、思わず恐れおののいてしまう。
 服を脱いで浴室へ入ると、そこにはなみなみと湯の貼られた楕円型の広いバスタブがあった。
 湯舟から立ち上がる湯気に、浴室内がすっかり温められている。
 体と髪を洗ってしまうと、尚里はおそるおそる湯舟に浸かった。

「ああー」

 思わず親父くさい声が出る。
 家を出てから湯舟に入るのは初めてだ。
 久しぶりの癒しに、尚里は体の力を抜いた。
 お高そうなボディソープやシャンプーなどのおかげで、肌はしっとりとしている。

「しっかし、これ明日もここにいなきゃなのかな」

 正直遠慮したいと思ったけれど、昨日の様子では帰らせてくれそうにないなあと思う。
 思わず口元まで湯に浸かってブクブクと泡を立ててしまった。
 まあ、何とかなるだろうと大雑把な結論に達すると、尚里はバスタブから上がり浴室を出た。
 ふかふかのタオルで体を拭いたところではたと気づいた。
 尚里の着ていた服や靴がない。
 その代わり、白いザックリとしたセーターと茶色のズボン、チャコール色の紐靴が置いてあった。
 ご丁寧に新品の下着まで。

「え……これ着ろってこと……?」

 絶対これ高いだろと迷ったけれど、素っ裸やタオル一枚で出るわけにもいかないので、おそるおそる着替えた。
 案の定、肌触りは最高だった。
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