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「どうぞ尚里」
先にリムジンを降りたルキアージュが当然のように手を差し出す。
思わず平気なんだけどと思ったけれど、女扱いはやめてほしいと言ったら花嫁扱いだと言われてしまったので諦めた尚里だ。
何の迷いもなく異常に縦に長い扉の方へと尚里の手を引いてルキアージュが足を進める。
近くで見ると白い建物は汚れひとつなく、手間とお金を存分に投入しているのではないだろうかと思わせた。
扉の前まで来ると、黒い軍服らしきものを着た男達が数人おり、びしりと敬礼する。
ルキアージュがそれにひとつ頷くと、男達が扉を押し開けた。
手を引かれるままに城内に足を運ぶと、そこは広いホールになっており形をこだわり抜かれた複雑な装飾のシャンデリアが吊り下げられていた。
けれどそれ以上に尚里が驚いたのは。
「おかえりなさいませ、イシリス」
ずらりと執事服やお仕着せを着た女性が、ホールに並んでいて全員が恭しく頭を下げていた。
(ひえっ)
この人達は全員ルキアージュの帰還を待っていたのかと、驚いた。
「顔をあげろ」
ルキアージュの言葉に全員が顔を上げる。
そこにいたのは、フルメルスタのように赤毛に褐色の肌の者ばかりだった。
アルバナハルの人間ならみんな同じ色彩なのだから、当たり前といえば当たり前なのだけれど。
先頭にいた男が、進み出てきた。
「御帰還嬉しく思います」
ぺこりとお辞儀をしたのは穏やかな雰囲気の二十代半ばほどの男だった。
柔和な表情に、長身で他の人間と同じく褐色の肌。
長い髪は赤く、うなじでひとくくりにして肩へと流していた。
「初めましてイシリスの花嫁。ご滞在いただくことを心から嬉しく思います」
恭しく頭を下げられて、慌てて尚里はお世話になりますと自分も頭を下げた。
「尚里、こちらは第二王子のピルケットです」
「ピルケット・アルバナハルです」
「暁尚里です」
第二王子と言われて、尚里は内心無礼者にならないようにと背筋をピッと伸ばした。
「アルバナハル語が堪能なんですね」
「お世話になっていた人に教えてもらっていました」
「素晴らしい」
ピルケットの賛辞に、なんとか言葉が通じていることに黒崎への感謝を胸中で言っておく。
(にしても王子様)
自分の人生では絶対に会う事なんてないと思っていた。
というか想像すらしていなかったのだけれど。
ピルケットはゆったりとした白いストンとしたズボンに金銀などで精緻な刺繍を施された紫色の上着を着ていてる。
首や耳に飾りをつけたそのいでたちは、どこから見ても異国の王子様だ。
服装はもしかしたら民族衣装なのかもしれないなとちらりと思った。
あとで聞いたところによると、やはりヒビリヤという民族衣装だった。
「王と王妃は現在外遊に行っています。イシリスが花嫁を連れてくるのならば出かけなかったのにと残念がっていましたよ」
王に王妃と現代日本では絶対に会わないだろう身分の人間に、会えないことを残念がられるなんてどんな状態だと思う。
いなくてよかったとすらうっかり思ってしまう尚里だ。
「緊張しなくても大丈夫ですよ、身分なら尚里の方が上です」
「えぇっ?」
ピルケットの聞き捨てならない言葉にバッと尚里は横に並んでいる長身の男を見やった。
その顔は驚愕で口をぽかんと開いている。
「イシリスは王と同等の身分です。その花嫁は第二位の地位になりますね。俺は第二王子ですから」
「二番目の地位!」
ぱっかーんと今度こそ尚里は口をまぬけに開いた。
ルキアージュの身分は黒崎に聞いてわかっているつもりだったけれど、まさか自分までそんな上位の身分だとは思わなかった。
というか考えてもいなかった。
「だから、俺に気を遣う必要はありませんよ」
くすくすと笑うピルケットに、そんなわけにもと助けを求めるようにルキアージュの方を見たけれど。
「私の花嫁ですから当然です」
至極当然そうに頷かれてしまった。
キャパオーバーになりそうだと思った時だ。
ホールにあった大階段の上からざわざわと二十名ほどの人間が現れた。
「帰られたのですね、イシリス」
口を開いたのは一番前で、どこかふてぶてしく階段を降りてくる男だった。
誰だろうとちらりとルキアージュたちの顔を盗み見れば、ルキアージュもピルケットもさっきまでのにこやかさはどこにいったというような顔だ。
階段を降りてきた男は出迎えてくれた人たちを押しのけて、尚里達の目の前へと来た。
赤い髪を短髪にしており、顎髭を生やしているけれど体に厚みがあるわけでもないから、どこか不格好な印象だ。
服装はピルケットと似ているけれど装飾の数が倍ほどつけられている。
にやにやとした笑い方は、正直好感が持てるものではなかった。
男はピルケットの肩をドンと押した。
「第二王子ごときが私を差し置いてなにをしている」
「すみません兄上」
あきらかな愛想笑いでピルケットが謝罪を口にすると、ふんと男は鼻息を鳴らして尚里へと視線を向けた。
じろじろと視線で値踏みされているのがわかる。
「花嫁を連れてこられたと聞いたのですが……」
あきらかに、こんなのがという顔だ。
自分でもそう思っているので、そんな顔で見ないでほしいなと思っていると。
「不躾だぞ、わきまえろ」
ピシャリとルキアージュがたしなめ、尚里を背に隠した。
長身のルキアージュに遮られると、着ているスーツの色しか見えなくなってしまった。
「……第一王子のブラコスタ・アルバナハルです。ぜひ花嫁とは交流を図りたく」
「必要ない。疲れているので休ませます」
言うなりルキアージュは尚里の肩をぐいと手を回して階段へと足を向けた。
「部屋は用意させてあります」
「御苦労」
ピルケットの言葉にルキアージュが鷹揚に頷く。
ぱちりと視線が合うと目元を和ませたので、いい人なんだろうなと思う。
ついでにその後ろにいるブラコスタへ視線をそっと向けると、忌々しそうにこちらを睨みつけていた。
(普通はああいう反応だよなあ)
なんだかむしろ安心してしまう反応だ。
階段を登り切って廊下というには広すぎる空間を歩き出すと、尚里はほっと息を吐いた。
まさかいきなりあんな大勢に迎えられるとは思わなかったのだ。
先にリムジンを降りたルキアージュが当然のように手を差し出す。
思わず平気なんだけどと思ったけれど、女扱いはやめてほしいと言ったら花嫁扱いだと言われてしまったので諦めた尚里だ。
何の迷いもなく異常に縦に長い扉の方へと尚里の手を引いてルキアージュが足を進める。
近くで見ると白い建物は汚れひとつなく、手間とお金を存分に投入しているのではないだろうかと思わせた。
扉の前まで来ると、黒い軍服らしきものを着た男達が数人おり、びしりと敬礼する。
ルキアージュがそれにひとつ頷くと、男達が扉を押し開けた。
手を引かれるままに城内に足を運ぶと、そこは広いホールになっており形をこだわり抜かれた複雑な装飾のシャンデリアが吊り下げられていた。
けれどそれ以上に尚里が驚いたのは。
「おかえりなさいませ、イシリス」
ずらりと執事服やお仕着せを着た女性が、ホールに並んでいて全員が恭しく頭を下げていた。
(ひえっ)
この人達は全員ルキアージュの帰還を待っていたのかと、驚いた。
「顔をあげろ」
ルキアージュの言葉に全員が顔を上げる。
そこにいたのは、フルメルスタのように赤毛に褐色の肌の者ばかりだった。
アルバナハルの人間ならみんな同じ色彩なのだから、当たり前といえば当たり前なのだけれど。
先頭にいた男が、進み出てきた。
「御帰還嬉しく思います」
ぺこりとお辞儀をしたのは穏やかな雰囲気の二十代半ばほどの男だった。
柔和な表情に、長身で他の人間と同じく褐色の肌。
長い髪は赤く、うなじでひとくくりにして肩へと流していた。
「初めましてイシリスの花嫁。ご滞在いただくことを心から嬉しく思います」
恭しく頭を下げられて、慌てて尚里はお世話になりますと自分も頭を下げた。
「尚里、こちらは第二王子のピルケットです」
「ピルケット・アルバナハルです」
「暁尚里です」
第二王子と言われて、尚里は内心無礼者にならないようにと背筋をピッと伸ばした。
「アルバナハル語が堪能なんですね」
「お世話になっていた人に教えてもらっていました」
「素晴らしい」
ピルケットの賛辞に、なんとか言葉が通じていることに黒崎への感謝を胸中で言っておく。
(にしても王子様)
自分の人生では絶対に会う事なんてないと思っていた。
というか想像すらしていなかったのだけれど。
ピルケットはゆったりとした白いストンとしたズボンに金銀などで精緻な刺繍を施された紫色の上着を着ていてる。
首や耳に飾りをつけたそのいでたちは、どこから見ても異国の王子様だ。
服装はもしかしたら民族衣装なのかもしれないなとちらりと思った。
あとで聞いたところによると、やはりヒビリヤという民族衣装だった。
「王と王妃は現在外遊に行っています。イシリスが花嫁を連れてくるのならば出かけなかったのにと残念がっていましたよ」
王に王妃と現代日本では絶対に会わないだろう身分の人間に、会えないことを残念がられるなんてどんな状態だと思う。
いなくてよかったとすらうっかり思ってしまう尚里だ。
「緊張しなくても大丈夫ですよ、身分なら尚里の方が上です」
「えぇっ?」
ピルケットの聞き捨てならない言葉にバッと尚里は横に並んでいる長身の男を見やった。
その顔は驚愕で口をぽかんと開いている。
「イシリスは王と同等の身分です。その花嫁は第二位の地位になりますね。俺は第二王子ですから」
「二番目の地位!」
ぱっかーんと今度こそ尚里は口をまぬけに開いた。
ルキアージュの身分は黒崎に聞いてわかっているつもりだったけれど、まさか自分までそんな上位の身分だとは思わなかった。
というか考えてもいなかった。
「だから、俺に気を遣う必要はありませんよ」
くすくすと笑うピルケットに、そんなわけにもと助けを求めるようにルキアージュの方を見たけれど。
「私の花嫁ですから当然です」
至極当然そうに頷かれてしまった。
キャパオーバーになりそうだと思った時だ。
ホールにあった大階段の上からざわざわと二十名ほどの人間が現れた。
「帰られたのですね、イシリス」
口を開いたのは一番前で、どこかふてぶてしく階段を降りてくる男だった。
誰だろうとちらりとルキアージュたちの顔を盗み見れば、ルキアージュもピルケットもさっきまでのにこやかさはどこにいったというような顔だ。
階段を降りてきた男は出迎えてくれた人たちを押しのけて、尚里達の目の前へと来た。
赤い髪を短髪にしており、顎髭を生やしているけれど体に厚みがあるわけでもないから、どこか不格好な印象だ。
服装はピルケットと似ているけれど装飾の数が倍ほどつけられている。
にやにやとした笑い方は、正直好感が持てるものではなかった。
男はピルケットの肩をドンと押した。
「第二王子ごときが私を差し置いてなにをしている」
「すみません兄上」
あきらかな愛想笑いでピルケットが謝罪を口にすると、ふんと男は鼻息を鳴らして尚里へと視線を向けた。
じろじろと視線で値踏みされているのがわかる。
「花嫁を連れてこられたと聞いたのですが……」
あきらかに、こんなのがという顔だ。
自分でもそう思っているので、そんな顔で見ないでほしいなと思っていると。
「不躾だぞ、わきまえろ」
ピシャリとルキアージュがたしなめ、尚里を背に隠した。
長身のルキアージュに遮られると、着ているスーツの色しか見えなくなってしまった。
「……第一王子のブラコスタ・アルバナハルです。ぜひ花嫁とは交流を図りたく」
「必要ない。疲れているので休ませます」
言うなりルキアージュは尚里の肩をぐいと手を回して階段へと足を向けた。
「部屋は用意させてあります」
「御苦労」
ピルケットの言葉にルキアージュが鷹揚に頷く。
ぱちりと視線が合うと目元を和ませたので、いい人なんだろうなと思う。
ついでにその後ろにいるブラコスタへ視線をそっと向けると、忌々しそうにこちらを睨みつけていた。
(普通はああいう反応だよなあ)
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