16 / 35
16
しおりを挟む
パチリと目覚めはまどろみもなく、爽快に目が覚めた。
昨日は早く寝たからかもしれない。
上体を起こし、ぐーっと伸びをしていると控えめなノックの音が扉からした。
そして返事をする前に扉が開く。
そこには昨日紹介されたアーリンがいた。
起き上がっている尚里に気付くと、ぺこりと頭を下げる。
「起きていらっしゃいましたか、おはようございます、尚里様」
「おはよう」
ベッドから立ち上がると、アーリンが室内に入ってくる。
「こちらお着換えになります」
アーリンが差し出した服を受け取りありがとうと言えば、いいえとにこにこと返された。
「お着換えが済んだら朝食になさいますね」
至れり尽くせりだなあと思いながら頷けば、アーリンは一礼して部屋を出て行った。
とりあえず渡された白い綿のシャツと薄い緑のハーフパンツにサンダルを身に着けて、尚里は部屋を出た。
洗面所で顔を洗い終えると、アーリンがやってきて白いテラスへと案内された。
「おはようございます、尚里」
テーブルで尚里を待っていたらしいルキアージュが、わざわざ立ち上がって尚里を出迎える。
「おはよう」
「昨日は食事をしなかったから空腹でしょう」
テーブルに促され椅子に座る。
淡いブルーのテーブルクロスの上にはオレンジジュースとエッグベネディクトが乗っていた。
くうと思わず腹が鳴った。
慌てて腹を押さえると、ルキアージュがくすくすと笑い手の平をどうぞとひらめかせた。
お言葉に甘えてグラスを取り一口飲む。
「うわっ美味しい」
思わず声が出てしまった。
市販のジュースにはない濃厚な果汁の甘みが口いっぱいに広がったのだ。
「今日収穫されたばかりの果実をしぼったものです」
「へえ」
それは美味いはずだと、ごくごくとグラスを空にしてしまう。
すかさずアーリンが流れるようにジュースをつぎ足した。
思わずガっついたことに恥ずかしくなる。
部屋には給仕をするアーリン、部屋の隅にフルメルスタとリーヤが控えている。
恐ろしい事に日本にいるときからルキアージュといるときは、どんな時もフルメルスタが控えていたので他人に見られながらの食事に慣れつつある。
カトラリーを取りエッグベネディクトにそっとナイフを入れると、ポーチドエッグがふるりと揺れて黄身をあふれさせた。
その光景は食欲をとてもそそる。
尚里の底辺貧乏人の食事事情を思えば、あまり舌が肥えてしまうのは帰国したときに困るのだけれど、残すとルキアージュが心配してくる。
どうやら尚里の食事事情を黒崎から聞いたらしいのだ。
「美味しい……」
「たくさん食べてください。尚里は痩せすぎです」
それはそうだろう。
必要最低限の栄養しか取っていなかったのだから。
今はこの言葉に甘えようと、尚里はこくりと頷いて食事を進めた。
ちなみにルキアージュも同じものを食べたのだけれど、所作が恐ろしく綺麗で自分のマナーは大丈夫かと心配になった。
気にするなと言われたけれど、極力丁寧な食事を心がけた尚里だ。
じっくり味わって食事が終わると、アーリンの淹れた紅茶を飲む。
「はあ、美味しかった」
満足気に呟くと、紅茶を一口飲んだルキアージュがくすりと笑う。
ルキアージュはカップをソーサーに戻すと。
「今日は海と市街地へ行きます」
「海も?」
ルキアージュの言葉にぱっと尚里の顔が明るくなる。
「いいの?」
「勿論です。尚里にアルバナハルを見てもらうのが目的ですから」
真摯な物言いに、嬉しくなる。
「尚里がよければ出発しようと思いますが」
「行く!」
思わず子供のように身を乗り出すと、口元に笑みを浮かべたルキアージュも身を乗り出した。
そして尚里の右耳にギリギリ触れないくらいに唇を寄せる。
「可愛い」
「ふわっ」
思わずバッと身を引いて右耳を押さえると、くつくつと喉の奥で笑うルキアージュ。
思わず睨みつけたけれど。
「車を回してきます」
どこ吹く風でフルメルスタをつれてテラスから室内へと入って行った。
「尚里様、準備いたしましょう」
「準備?」
アーリンに促され立ち上がったはいいけれど、この服ではいけないのだろうかと首を傾げた。
「日焼け止めをお塗りします」
「え、大丈夫だよ。帽子ある?それ貸してもらえれば充分だから」
尚里の言い分に、しかしとアーリンが眉を下げた。
見ればリーヤもうんうんと頷いている。
「女の子じゃないんだから、少し焼けるくらい平気だって」
尚里の言い分に、ではとアーリンが渡したのは広いつば広の麦わら帽子だった。
「……これ女の子が被るやつなんじゃ」
「いいえ、一般的なもので男も被るものです」
これだけは絶対、と言うアーリンにそれならと尚里は麦わら帽子を被った。
確かにつばが広くて強い太陽光を遮ってくれそうだ。
リーヤの先導でアーリンとポーチの車止めまで来ると、意外なことに白の一般車だった。
フルメルスタが車のドアを開けるので、二人に向き直りいってきますと声をかける。
すると双子は一瞬きょとんとしたあと嬉しそうに、いってらっしゃいませと頭を下げた。
昨日は早く寝たからかもしれない。
上体を起こし、ぐーっと伸びをしていると控えめなノックの音が扉からした。
そして返事をする前に扉が開く。
そこには昨日紹介されたアーリンがいた。
起き上がっている尚里に気付くと、ぺこりと頭を下げる。
「起きていらっしゃいましたか、おはようございます、尚里様」
「おはよう」
ベッドから立ち上がると、アーリンが室内に入ってくる。
「こちらお着換えになります」
アーリンが差し出した服を受け取りありがとうと言えば、いいえとにこにこと返された。
「お着換えが済んだら朝食になさいますね」
至れり尽くせりだなあと思いながら頷けば、アーリンは一礼して部屋を出て行った。
とりあえず渡された白い綿のシャツと薄い緑のハーフパンツにサンダルを身に着けて、尚里は部屋を出た。
洗面所で顔を洗い終えると、アーリンがやってきて白いテラスへと案内された。
「おはようございます、尚里」
テーブルで尚里を待っていたらしいルキアージュが、わざわざ立ち上がって尚里を出迎える。
「おはよう」
「昨日は食事をしなかったから空腹でしょう」
テーブルに促され椅子に座る。
淡いブルーのテーブルクロスの上にはオレンジジュースとエッグベネディクトが乗っていた。
くうと思わず腹が鳴った。
慌てて腹を押さえると、ルキアージュがくすくすと笑い手の平をどうぞとひらめかせた。
お言葉に甘えてグラスを取り一口飲む。
「うわっ美味しい」
思わず声が出てしまった。
市販のジュースにはない濃厚な果汁の甘みが口いっぱいに広がったのだ。
「今日収穫されたばかりの果実をしぼったものです」
「へえ」
それは美味いはずだと、ごくごくとグラスを空にしてしまう。
すかさずアーリンが流れるようにジュースをつぎ足した。
思わずガっついたことに恥ずかしくなる。
部屋には給仕をするアーリン、部屋の隅にフルメルスタとリーヤが控えている。
恐ろしい事に日本にいるときからルキアージュといるときは、どんな時もフルメルスタが控えていたので他人に見られながらの食事に慣れつつある。
カトラリーを取りエッグベネディクトにそっとナイフを入れると、ポーチドエッグがふるりと揺れて黄身をあふれさせた。
その光景は食欲をとてもそそる。
尚里の底辺貧乏人の食事事情を思えば、あまり舌が肥えてしまうのは帰国したときに困るのだけれど、残すとルキアージュが心配してくる。
どうやら尚里の食事事情を黒崎から聞いたらしいのだ。
「美味しい……」
「たくさん食べてください。尚里は痩せすぎです」
それはそうだろう。
必要最低限の栄養しか取っていなかったのだから。
今はこの言葉に甘えようと、尚里はこくりと頷いて食事を進めた。
ちなみにルキアージュも同じものを食べたのだけれど、所作が恐ろしく綺麗で自分のマナーは大丈夫かと心配になった。
気にするなと言われたけれど、極力丁寧な食事を心がけた尚里だ。
じっくり味わって食事が終わると、アーリンの淹れた紅茶を飲む。
「はあ、美味しかった」
満足気に呟くと、紅茶を一口飲んだルキアージュがくすりと笑う。
ルキアージュはカップをソーサーに戻すと。
「今日は海と市街地へ行きます」
「海も?」
ルキアージュの言葉にぱっと尚里の顔が明るくなる。
「いいの?」
「勿論です。尚里にアルバナハルを見てもらうのが目的ですから」
真摯な物言いに、嬉しくなる。
「尚里がよければ出発しようと思いますが」
「行く!」
思わず子供のように身を乗り出すと、口元に笑みを浮かべたルキアージュも身を乗り出した。
そして尚里の右耳にギリギリ触れないくらいに唇を寄せる。
「可愛い」
「ふわっ」
思わずバッと身を引いて右耳を押さえると、くつくつと喉の奥で笑うルキアージュ。
思わず睨みつけたけれど。
「車を回してきます」
どこ吹く風でフルメルスタをつれてテラスから室内へと入って行った。
「尚里様、準備いたしましょう」
「準備?」
アーリンに促され立ち上がったはいいけれど、この服ではいけないのだろうかと首を傾げた。
「日焼け止めをお塗りします」
「え、大丈夫だよ。帽子ある?それ貸してもらえれば充分だから」
尚里の言い分に、しかしとアーリンが眉を下げた。
見ればリーヤもうんうんと頷いている。
「女の子じゃないんだから、少し焼けるくらい平気だって」
尚里の言い分に、ではとアーリンが渡したのは広いつば広の麦わら帽子だった。
「……これ女の子が被るやつなんじゃ」
「いいえ、一般的なもので男も被るものです」
これだけは絶対、と言うアーリンにそれならと尚里は麦わら帽子を被った。
確かにつばが広くて強い太陽光を遮ってくれそうだ。
リーヤの先導でアーリンとポーチの車止めまで来ると、意外なことに白の一般車だった。
フルメルスタが車のドアを開けるので、二人に向き直りいってきますと声をかける。
すると双子は一瞬きょとんとしたあと嬉しそうに、いってらっしゃいませと頭を下げた。
32
あなたにおすすめの小説
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる
七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。
だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。
そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。
唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。
優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。
穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。
――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。
竜の生贄になった僕だけど、甘やかされて幸せすぎっ!【完結】
ぬこまる
BL
竜の獣人はスパダリの超絶イケメン!主人公は女の子と間違うほどの美少年。この物語は勘違いから始まるBLです。2人の視点が交互に読めてハラハラドキドキ!面白いと思います。ぜひご覧くださいませ。感想お待ちしております。
追放された味見係、【神の舌】で冷徹皇帝と聖獣の胃袋を掴んで溺愛される
水凪しおん
BL
「無能」と罵られ、故郷の王宮を追放された「味見係」のリオ。
行き場を失った彼を拾ったのは、氷のような美貌を持つ隣国の冷徹皇帝アレスだった。
「聖獣に何か食わせろ」という無理難題に対し、リオが作ったのは素朴な野菜スープ。しかしその料理には、食べた者を癒やす伝説のスキル【神の舌】の力が宿っていた!
聖獣を元気にし、皇帝の凍てついた心をも溶かしていくリオ。
「君は俺の宝だ」
冷酷だと思われていた皇帝からの、不器用で真っ直ぐな溺愛。
これは、捨てられた料理人が温かいご飯で居場所を作り、最高にハッピーになる物語。
不遇の第七王子は愛され不慣れで困惑気味です
新川はじめ
BL
国王とシスターの間に生まれたフィル・ディーンテ。五歳で母を亡くし第七王子として王宮へ迎え入れられたのだが、そこは針の筵だった。唯一優しくしてくれたのは王太子である兄セガールとその友人オーティスで、二人の存在が幼いフィルにとって心の支えだった。
フィルが十八歳になった頃、王宮内で生霊事件が発生。セガールの寝所に夜な夜な現れる生霊を退治するため、彼と容姿のよく似たフィルが囮になることに。指揮を取るのは大魔法師になったオーティスで「生霊が現れたら直ちに捉えます」と言ってたはずなのに何やら様子がおかしい。
生霊はベッドに潜り込んでお触りを始めるし。想い人のオーティスはなぜか黙ってガン見してるし。どうしちゃったの、話が違うじゃん!頼むからしっかりしてくれよぉー!
宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている
飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話
アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。
無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。
ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。
朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。
連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。
※6/20追記。
少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。
今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。
1話目はちょっと暗めですが………。
宜しかったらお付き合い下さいませ。
多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。
ストックが切れるまで、毎日更新予定です。
【完結】おじさんダンジョン配信者ですが、S級探索者の騎士を助けたら妙に懐かれてしまいました
大河
BL
世界を変えた「ダンジョン」出現から30年──
かつて一線で活躍した元探索者・レイジ(42)は、今や東京の片隅で地味な初心者向け配信を続ける"おじさん配信者"。安物機材、スポンサーゼロ、視聴者数も控えめ。華やかな人気配信者とは対照的だが、その真摯な解説は密かに「信頼できる初心者向け動画」として評価されていた。
そんな平穏な日常が一変する。ダンジョン中層に災厄級モンスターが突如出現、人気配信パーティが全滅の危機に!迷わず単身で救助に向かうレイジ。絶体絶命のピンチを救ったのは、国家直属のS級騎士・ソウマだった。
冷静沈着、美形かつ最強。誰もが憧れる騎士の青年は、なぜかレイジを見た瞬間に顔を赤らめて……?
若き美貌の騎士×地味なおじさん配信者のバディが織りなす、年の差、立場の差、すべてを越えて始まる予想外の恋の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる