突然の花嫁宣告を受け溺愛されました

やらぎはら響

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車に乗り込むと、見た目は一般車なのに恐ろしく座り心地がよかった。
ついでに言えばプライベートを守るためか、運転席とはカーテンが引かれている。
けれど何より驚いたのが、ルキアージュだ。
いつもピシリとした三つ揃いの恰好だったのに、今はラフな薄青のシャツに白いカーゴパンツにサンダル姿だった。

「全然恰好が違う」

 思わず呟けば。

「観光ですからね。堅苦しいのは今日は無しです」

 悪戯気に笑うので、思わず尚里も笑ってしまった。
 車が滑らかに滑り出す。

「どこに行くんだ?」
「まずはビーチです」

 ルキアージュの言葉通り、しばらく走ると窓の外に海が広がってきた。
 車の中からでも、白い砂浜と空を移したようなスカイブルー、沖にいくにしたがってコバルトブルーと見事なグラデーションが視界に入ってくる。

「凄い!」

 思わずはしゃいだ声を上げると、ルキアージュがフルメルスタの名前を呼ぶ。
 すると窓が下がって、途端に潮風が気持ちよく尚里の頬を撫でた。
 海独特の香りに、尚里のテンションが上がる。

「海って初めてなんだ」

 思わずはしゃいだ声を上げてしまう。

「あなたの初めてを貰えたなんて光栄です」
「い、言い方!」

 流し目を送られて、ほんのり尚里の頬が赤くなる。
顔がいいのは心臓に悪いと思わず胸中で呟く。
そんなことを話していると、シダの車が止まった。
すぐさま運転席を降りたフルメルスタにドアが開けられる。
今日は彼もラフな黒いTシャツにブラックジーンズだ。
車から降りて少し歩くと、視界に白い砂と透明度の高い波打ち際が現れた。

「わあっ」

 思わず感嘆の声が上がる。

「尚里様、まずは水着にお着換えを」
「水着あるの?」

 泳ぐのだろうかと小首を傾げると。

「準備してありますよ」

 ルキアージュが答えた。
 至れり尽くせりだ。
 それにしても。

「人がいないんだな」

 浜辺には誰もいなかった。
観光客をあまり受け入れていない国だとはいえ、地元の人間もいないことに不思議に思うと。

「このプルヒルビーチは王族専用ですから」
「ええ!」

 思わず声を上げてしまった。

「私有地なので、誰も入れません」

 王族専用なんて、噂に聞くプライベートビーチというやつだ。
 尚里は思わず遠い目をしてしまった。

「あちらにあるヴィラでお着換えが出来ます」

 フルメルスタの指差した方を見れば、いかにも南国といったような気の壁で出来た建物があった。
 白い屋根のその建物は、水着を着替えるだけにしては圧倒的な大きさだったので、宿泊施設なのだろうと思う。
 違う可能性の方が高いけれど。
 砂浜を歩いてヴィラに向かうと、砂が細かく柔らかいのでサンダルだと少し歩きにくい。
 それを見越したようにすいとルキアージュから手を取られた。
 エスコートをするように自然に歩きだしてまったので、断るタイミングを逃してしまいそのままヴィラまで歩いた。
 ルキアージュの手は長身の彼らしく大きくて指も長く、尚里の手をすっぽりと包んでしまう。
 それが何だか恥ずかしくて、尚里はルキアージュとは反対にある海ばかり見ていた。
 エスコートされてついたヴィラの前。
 白い砂浜には、白いシャツとズボン、ワンピースを着た男女十人が膝をついて待っていた。
 思わずひるんだけれど、きゅっとルキアージュに手を握られる。
 先頭にいた濃いひげの男が顔を上げてにっこりと微笑んだ。

「ようこそ、お待ちいたしておりました。イシリス、花嫁様」

 堂々と花嫁と呼ばれてしまった。

「え、と俺のことは尚里でお願いします」

 花嫁様なんて呼び方、いたたまれないにも程がある。
 尚里の言葉に男が思わずルキアージュの方を見ると、そのように、と彼が口を開いた。
 その言葉にひとつ頷くと、男はにっこりと笑みを浮かべる。

「では尚里様、私はここの管理を任されています、アトバークと申します。早速ですが、水着の用意が整っていますのでご案内いたしますね」

 パンとアトバークが手を鳴らすと、女性二人が立ち上がり頭を下げた。

「では尚里、私も着替えてきます」

 女性に促されついて行こうとしたけれど、ルキアージュの言葉に首を傾げた。
 けれど男性二人がルキアージュへ頭を下げているので、案内される着替えのための部屋は別らしい。
 女性二人に部屋へ案内されると、彼女達とは扉で別れた。
 着替えを手伝うと言われたのを断固断ったのだ。
 水着なんてまともに着るのはどのくらいぶりだと思いながら、用意されていたミントグリーンの膝丈の水着に着替えた。
 そして首を傾げる。
 何故かパーカーが一緒に置いてあったからだ。
 何故だろう。
 けれど首から下げているトゥルクロイドの輝きを視界に入れて、これを見られないためかと納得してパーカーを着込んだ。
 指に嵌めるのは怖いにも程があるので、日本を出た時に鎖を貰って首から下げたのだ。
 ちなみに鎖がいくらかは知りたくない。
 部屋を出ると女性二人が待機しており、そのまま大きな広間らしい部屋について行く。
 どれだけ広いのだ。
 広間は淡い緑の壁と白いラグの引かれた部屋だった。
 調度品などが並んでいるわけではないけれど、木で出来ているらしい独特な形のシャンデリアや、置いてある精緻な彫り物をされたカウチにと派手さはないけれど、品よくまとまっている。
 そして驚いたのが、床の一部がガラス張りとなっていて、海の中が見えるようになっていた。
 しゃがんで覗き込むと、魚がすいと泳いでいき思わず驚く。
 思わず夢中で覗き込んでいると。

「お待たせしました」

 ルキアージュの声に振り向き、尚里は固まった。
 そこには黒い膝丈の水着を着たルキアージュがいた。
 いたのだけれど、褐色の肌が惜しみなくさらされており、尚里は思わずくぎ付けになってしまった。
 水着だから当たり前だけれど、上半身が裸だったのだ。
 そしてその体はしっかりとした筋肉に包まれていて、腹筋もしっかり割れている。
 気瘦せするタイプだったらしく、スーツの時にはあまり意識しなかった男らしい体だった。

「筋肉が凄い……」

 思わずといったように呟くと。

「鍛えていますから」

 苦笑された。
 見せる筋肉ではなく、実践用のしなやかな筋肉はまるで猫科の猛獣を思わせた。

「見とれてます?」

 くすりと笑われて、ぶんぶんと扇風機のように首を振った。

「残念」

 艶っぽく笑われる。
 いちいちそんな色気を振りまかないでほしいと思っていると、行きましょうか。
広間のテラスへとルキアージュうながした。
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