突然の花嫁宣告を受け溺愛されました

やらぎはら響

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 尚里はうぅと情けなく呻いていた。
 外の開放的なプールに囲まれた、屋根のある一角。
 寝台の上に尚里は仰向けに寝て、アーリンに顔へ鎮静効果のあるクリームをパックされていた。
 ヒリヒリと赤くなっていた肌がクリームの冷たさで気持ちよく冷やされる。

「いかがですか尚里様」
「気持ちいい……気持ちいいんだけど、俺男なのに……」

 現在男なのに顔のエステ真っ只中ということが、尚里は何だか恥ずかしい。
 それもこれもアーリンの心配を無視して日焼け止めを塗らなかったら、顔が赤くなってしまったのだ。
 自分の肌は黒くならずに赤くなるのだと、知りたくもなかった情報を知ってしまった。
 クリームをコットンでふき取られ、やっと終わったと思っていると。

「さあ、次は体です」
「え!終わりじゃないの?」

 思わぬ言葉に素っ頓狂な声が出た。
 慌てて起き上がると、アーリンが寝台の横に置いてある籐の使われたテーブルからローションらしきものを手に取っている。

「顔ほどではなくとも腕や足も赤くなっていますからね。鎮静させてあげないと」

 どうやらこのエステタイムはまだまだ続くらしい。
 うつ伏せになってくださいと言われ、裸だった上半身にかけられていたタオルが取られる。
 もうどうにでもなれと思っていると。

「今日はパーティーもありますからね」
「パーティー?」

 セレブな単語が飛び出したなと首を傾げる。
 背中に冷やりとした液体が塗られてマッサージを始めたアーリンが。

「ぜひ出席なさいませ、イシリスも喜ばれますよ」

 ふうんと気のない返事を返しながら背中の施術が終わり、次はデコルテと言われてしまってまだ続くのかと起き上がったときだ。

「尚里、戻りました」

 プールサイドをルキアージュが歩いてきた。
 尚里を連れてくる予定がなかったので、休暇は終わってしまいルキアージュは帰国後すぐに仕事にとりかからなければいけなかったらしい。
 昨日は無理矢理作った休みだったのだろう。
 今朝は朝早くから仕事に行くことを謝られてしまった。
 もっともルキアージュが出かけてからずっと、アーリンによって施術をされているので尚里こそ暇ではなかったのだが。
 アーリンによって肩にタオルがかけられた。

「おかえり」
「はい、ただいま。それにしても」

 ルキアージュがくすりと悪戯気に笑い、尚里の頬を指の背で一撫でした。
 それにドキリと反応してしまう。

「な、なに」
「いえ、刺激的な姿ですね」

 艶やかな眼差しでそんなことを言われてしまう。

「な、なに言って」
「赤みは引いたようですね」

 どもる尚里を気にすることなく、サラサラと今度は乾いた手の平が頬を撫でる。
 耳に指先が触れた瞬間。

「んっ」

 思わず声が出てしまった。
 まさかそんな声が出るとは思わず、んぐぅっと喉を鳴らして呻く。
 けれど不埒な指先は、そのまま首筋へと流れ鎖骨をかすめた。

「ん、ちょっ」

 思わず体を引くと、パサリとタオルが背中へ滑り落ち上半身が露わになった。
 ルキアージュが目を細めてどこか熱っぽい眼差しを向けてくる。

「み、見るなよ」

 なんだかその眼差しに恥ずかしくなって、顎を引いてぼそぼそと言うと。

「ふふ、刺激的すぎて目の毒なので退散します」
「何言ってるんだ」

 ルキアージュの軽口に、尚里は女の子じゃないんだぞと内心思ってしまう。
 けれどうっすらと耳が熱くなった気がして、それを気のせいだと無理矢理考えないようにしたら。

「では、またあとで」

 流れるようなしぐさで右手を取られて手の甲に口づけされた。

「わっ」

 柔らかいその感触に、今度こそ顔に血が巡った。
 くすくすと柔らかく笑いながら、元来た道を戻るルキアージュ。

「裸見られて恥ずかしいとか、ないだろ……」

 男同士なのにとがっくりうなだれてしまう。

「平常心!」

 ピタピタと頬を手の平で叩いて落ち付こうとすると。

「仲睦まじくて羨ましいです」

アーリンに屈託なく笑われた。
 別に仲がいいわけじゃと言いかけたけれど、さあ再開しましょうと言われてしまい、再びまな板の上の鯉のごとく寝台に横になる。

「俺はただの旅行者なんだから……」

 ぽつりと口のなかで呟く。
 自分の言葉に、きゅっと胸が締まった気がした。
 でもそんなのは気のせいだと思い直し、尚里はアーリンに促されるまま目を閉じた。
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