君と運命になっていく

やらぎはら響

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 冷たい無機質な扉。
 その扉の前に立って伊織は小さく深呼吸した。
 すうはあと落ち着くように。
 扉をじっと見つめていると、するりと拳を握った右手を温かく包まれる。
隣を見ればリルトが伊織の手を握っていた。
心配そうな顔を見ていると落ちついて、やっぱり可愛いなと思ったら笑えた。
そのまま扉のドアノブに手をかけて回す。
開いた扉の中は中央にガラスの壁がある面会室だった。
壁の向こうに男性に付き添われた爽子がパイプ椅子に座っている。
質素な身なりははじめて見る雰囲気だった。
今日は爽子との面会日だ。
会うことは可能だと言われたので、面会を希望した。
リルトには反対されたし、間に入ってくれた望月にも難色を示されたけれど、区切りをつけたいとお願いした。
その際、松島のとき同様にリルトが同席が絶対条件だったが。
 伊織が室内に入ったら、爽子が目を吊り上げて立ち上がろうとしたけれど、付き添いの男に肩を押されて大人しくするように言われている。
それに嫌そうに頷くと、男は離れた椅子へと腰掛けた。
伊織とリルトもガラス壁の前にあるパイプ椅子へと腰を下ろす。
右手はリルトが包んだままだ。
その温かさが伊織に安心感をくれた。
ギリギリと爽子が睨んでくるのを、落ち着いた気持ちで見返すことが出来た。

「何でオメガばっかりアルファと一緒にいるの」

 リルトがアルファだと気づいたらしい。
 もしくは事前に知っていたのかもしれないなと思う。
 知っていたから自分を探して殺そうとしたのかもしれないと考える。

「……母さんの好きだったアルファのことは俺には関係ないよ」

 カッと爽子の顔が赤くなり、乱暴に拳がガラスを殴った。
 鈍い音がシンとした部屋に響く。

「オメガだからって、どいつもこいつも生意気なのよ!あの人は私の物だったのに。子供なんか欲しくなかったのにどうして産まれたのがオメガなの!あんなに苦労してオメガとわからないようにしたのに!どうしてオメガは私の邪魔ばかりするの!」

 ダンッダンッと拳が何度も振り下ろされる。
 白い手が赤くなっているけれど、おかまいなしだった。
相変わらず自分勝手だなと思った。

「あんたなんて産むんじゃなかった!」

お決まりのセリフだ。
ガラスから拳を下ろしてふうふうと荒い息を吐く姿は、到底母親とは思えない様子だった。
じっとその姿を見つめて、そうして伊織は小さく笑った。
爽子が息を飲んで、体を引く。
ギシリと体重の移動でパイプ椅子が音を鳴らした。

「それ口癖だね。前は、じゃあ産まなきゃよかったのにって思ってた」

 ぎゅっと自分の右手を包む力が強くなって、伊織は目元を緩めた。
 真っ直ぐに爽子へと目を向ける。
 いつも視線をそらしていたから、顔をしっかり真正面から見るのは随分久しぶりだった。

「今は中絶しなかったことに感謝してる。リルと会えた」
「あ、あんたなんて……!」
「もう俺なんかって言うのはやめるんだ。俺を選んでくれたリルの言葉を信じる」

 先日リルトと心が通じ合ってから決意したこと。
 いつかケリーに言われた言葉がよぎったのだ。
 伊織を選んだリルトに失礼だと。
 まだまだ自分のことをそんなにちゃんと考えられないけれど、リルトが大事だと言うのなら自分も大事にしようと思えた。

「オ、オメガなんか幸せにさせない!」
「残念だね、もう幸せだよ。これ以上ないくらい」

 ふんわりと微笑んだ。
 それはとても幸せそうな甘やかな笑みで、爽子は何も言えないかのように絶句していた。
 呆然と信じられないものを見るように目の前の息子を見つめている。
 言いたいことは終わったとリルトに目くばせすると、伊織は立ち上がった。
 リルトも一緒に立ち上がり扉へと向かう。

「待って!」

 後ろから爽子の声が聞こえたけれど、伊織は立ち止まらずに背中を向けたまま。

「さよなら母さん」

 一言だけ残して扉をくぐった。
 リルトが部屋を出て扉を閉めると、あとは何も聞こえなかった。
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