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俺たちとハデス様は長い付き合いだ! 第3ラウンド
しおりを挟む~カロファザス(A君)の思い~
俺は、兄弟で一番ダントツに力が弱い。ハデス様は、知が啓くからと同じ身体で当然同時に産まれたから俺たちから、俺を兄だと言ってくれた。二人を導けと言ってくれたから、非力な俺はプライドを保てた。俺の居場所をくれた。ギーゴスも、あの日から、力の暴走をしていない。
ギーゴスが、力の制御を学んだのも、他の二人を「傷つけたく無いだろ?」ってハデス様が言って、やり方を何度も教えてくれたから。あいつ頑張ってた。
あの日あの時に、ハデス様に拾われてなかったら。俺たちは本物の怪物だっただろう。言葉も忘れちまっただろう。
マルゴスはなぁ。ハデス様の事を、お菓子を持ってきてくれる人って思っていたようだ。
でも、大体あれは神への捧げものとして地上から無理矢理に送られて来る貢ぎ物だ。地獄の神への捧げものが甘いお菓子なんてものそんなにあるはずも無いのに。生贄として動物の死体(多いのは心臓、たまに人間なら生首)だったりするから、ハデス様は勘弁してくれって、まず受け取らない。そのまま流すだけだ。
そんな中で、数少ないお菓子を選び、マルゴスの為に取っているんだろう。
ごくたまに、あの世に行った我が子の為にと、冥界にお菓子を送ってくる親達が居てる。
もちろん受け手がいてる時は渡す事も可能らしいが、だいたいがすでに転生してしまい受け手が不在で、行き先無しとなる。小さな子どもは死後、生前の執着もなく冥界は通り過ぎるだけが多い。いつまでも悲しみに暮れているのは案外と地上の生者だったりするんだが。それは決して知らせてはならない事らしい。あんまりに悲しみの大声で話しかけると転生に差し障りがあるからと、余計にバリアをはる事もあるそうだ。
『悲しみは哀しみのまま、受け流す様に流れて行き、やがてここで宿命を知ればよい。恨まれるのは我が冥界の王としての役目だから』と。
母親の「なぜあんなに可愛い罪の無い子を取り上げたのか?」とか「何故見殺したのか?」と。「人殺し!恨んでやる!」「お願いですから私を身代わりにしてお返しください」とか、地上から悲痛な泣き声が届くらしい。
悲しみは尽きる事なく、なんの慰めも痛みを和らげはしない。どんな言葉も「お前は我が子を亡くしたことがあるのか」と拒まれる。
例え同じく子を亡くした母や父や祖父母であっても、その子に対する思いや哀しみは、その親にしかわからない。その子どもが、どんな子どもだったのかを知ってる者にしか悲しみも理解できない。理解も、共有もできず孤独の中にただ有るだけの日々。あぁ、この辛さを時間の流れで受け流せというのか!日常を送れと言うか?と、そういう悲痛が送られてくる様だ。
俺には聞こえないが、ハデス様が時折り、ふーっと長い溜息を吐くときはそういう時らしい。表情は全く変えないが。
そういう物には手はつけれないが、長く悲しみの時間を過ごした中で、「あの子、まだこれ好きかしら?また生まれ変わって出会う時もあるかしら?」と、フッと自分を縛る哀しみの鎖が少し解ける時がある。そんな人が供える御供物としての甘い物には目を向ける。天界への捧げ物以外にも子どもが行った死者の国へと、お菓子を供えてくれる人々もいる。そんなお菓子の、受け取り不在の物や気持ちを受け取った後の物を頂く様だ。
それ以外にも、天界から来る使者にも、「なぜお好きでない甘い物を、土産物に寄越せ」と言われるのか?不思議だって首を捻っていた。きっとマルゴスの為なんだろうな。そんな天上界の使者の一人で、ヘルメスって使者は、使える奴だ。そっと私たちでも食べやすいような包みが付いていない甘いお菓子や、木の実を持って来てくれてる。ついでに色々な木の実の種なんかをお土産として持参していた。そうだ、異界からの使者など滅多にないからな。
天界への捧げ物は「神様どうか金持ちにして欲しい」「神様どうか不老不死にしてください」とかって自分の欲望がベットリと詰まってるらしい。まぁ冥界の貢ぎ物にも生贄とかで「我に力をーーー!」って勘違い男だとか、「憎い、浮気相手の女を呪い殺してー」とかの怨念が入ってるらしい。捧げ物貢物には碌な物がないのは同じだよね~って、天界のゼウス様からの使者ヘルメルが話してた。
あいつは、なかなか鋭い奴だ。
そんな中の貴重なお菓子をマルゴスにさりげなくくれてる。ほんと、わかって無いだろなマルゴス。
ほら!どうだ!俺たちは、ハデス様とこれだけ長い付き合いがある。深く繋がってるんだ。俺たちにしか話さない事もあるんだ!昔から可愛がってもらってるんだ。
それなのになんだ?お前は!
ちょっと前に、地上から落ちて来ただけなのに。何故ハデス様と同じことを言って、同じ様に弟達に懐かれるんだ?
俺もついつい話すのは何故なんだ?クソッ!
こんな女、絶対認めない!
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