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本編

(閑話)眠れない夜

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「どうしてこうなった……」

 木野宮を起こさないよう、小さな声で呟いた。

 木野宮の部屋に泊まる事になり、フローリングで寝るつもりでいたのに気づけば小さな布団で一緒に寝ている。
 俺はフローリングでいい……むしろその方が助かるのだが木野宮が納得しなかった。
 俺がフローリングで寝るなら自分もそうするとフローリングに転がった時はどうしようかと思った。
 以外に強情なところがあるのだなと可愛らしく思えたが、さすがにそのままにするわけにはいかないと、抱き上げて布団に寝かせた。

 抱き上げたときに驚いた木野宮が縋るように俺のシャツにしがみついた時は焦った。
 布団に寝かせた木野宮の上に覆い被さってしまおうか、なんて考えが浮かんだからだ。
 そんなことをしたら、一度泣かせてしまっているのに更に嫌われてしまうと自分に言い聞かせ、考えを散らした。

 それにしても木野宮は軽かった。
 ちゃんと食べているのだろうか。
 そういえば最近少し痩せたような気がする。
 貴久のことが影響して食欲が出なかったのだろうか。

 そう思うと、また貴久への怒りが湧いてくる。
 今まで人に囲まれている貴久の気を引こうと健気に頑張っている姿を何度も見てきた。
 俺ならもっと大事にしてやれるのに、ずっとそう思っていた。

 木野宮の恋人がよりにもよって貴久だと分かった時は本当にショックだった。
 恋人が貴久以外の奴だったなら、気にせずに近づいて奪い去ろうと動いていただろう。

 今までは見守る事しか出来なかったが……今そばにいるのは俺だ。
 昼飯もいっぱい食わしてやることが出来た。
 夜は二人でコンビニ弁当を買ってきたが、今度は俺がちゃんと飯を作ってやろう。

 こんなところに住んでいることも、もっと早く気づいてやりたかった。
 ガチャガチャと揺れるドアノブを見た後、暗くなった後にいつも起こる事だと聞いた時は血の気が引いた。
 手遅れになる前で本当に良かった。

「ん……」

 布団が狭いため同じ方向を向いて寝ていたのだが、木野宮が寝返りを打った。

「……俺は忍耐を試されているのか?」

 息がかかりそうな程すぐ目の前にあどけない寝顔。
 気持ちよさそうに寝息を立てている。
 ふと目が泊まったのは綺麗な桜色をした唇。
 ――この小さな唇に触れたい。

 思わず手が出るが……触ってしまったら終わりだ。
 今我慢している事の全てを実行してしまうだろう。
 そうなれば嫌われるどころの話ではない。

 そう分かってはいるが、中々目を離すことが出来ない。
 ――この唇に自分の唇を重ねてしまった。
 あの時の記憶が蘇る。

 あれには焦った。
 完全に無意識だった。
 抱きしめてしまっていたことで気が緩んでいたのかもしれない。

 アクシデントかと聞いてきた木野宮の言葉に乗ったが、そんなわけないだろうと自分でツッコミを入れた。
 木野宮は納得してくれたようでなんとかなったが、我ながら愚かだったなと思う。
 だが、一度でも木野宮の唇を奪う事が出来たことに喜んでいる。
 キスに動じなかったことに、貴久の影が見えて嫉妬に狂いそうになったが貴久とは別れたのだ。
 これからは俺が全部貰えばいい。

「んんっ」

 ……色っぽい声を出さないで欲しい。
 暑くなってきたようで布団を蹴り飛ばしてしまった。
 子供のような寝相が微笑ましい。
 蹴り飛ばした布団を直し、もう一度掛けてやろうとしたところで木野宮のシャツが少し捲れている事に気がついた。
 お腹が見えている。
 白い肌、細い腰から視線を反らす事が出来ない。
 このシャツの隙間に手を入れ、肌に触れたら木野宮は起きるだろうか。
 ……試して見ようか。

 手がスッと伸びたが――。

 ……やめよう。
 伸ばした手でシャツを掴み、お腹を隠した。

 本格的に拙い。
 今はなんとか堪えたが、やっぱりどこまで触ったら起きるか試して見ようなどと考え始めている。

「……離れた方がいいな」

 やっぱりフローリングで寝よう。
 フローリングは冷たいから、馬鹿な事を考えている頭を冷やすには丁度良い。
 木野宮から離れようと身体を起こした。

「?」

 着ているシャツが重いと思ったら……シャツの端を木野宮が掴んでいた。
 起きて居るのかとドキッとしたが、静かな寝息は変わらない。
 スヤスヤと眠っている。
 寝ぼけているのだろうか。

「可愛すぎだろ」

 小さな子供のようにギュッと握る手を見ているとたまらなくなり、思わず片手で顔を覆った。

「このまま寝るか」

 出来るだけ距離を取って寝るように再び身体を倒した。
 身体の半分はフローリングに出す事が出来たが、もう少し冷やしたいところだ。

 ああ、今日は徹夜かな。
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