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 向かい合った顔が近い。
 先生が俺の額にコツンと額を当ててきた。

 そのままフッと唇が合わさる。
 触れるだけですぐに離れて行った唇を俺はまた追いかけたい衝動に駆られて。何を考えているんだろうと小さく頭を振った。

「眠れない? 眠剤飲んだかな?」

 でも俺は先生に抱きしめられている温もりだけで睡魔が襲ってきて。
 あんなに眠れなかったのにどうしてしまったんだろうと思う。

「ん、眠いです……先生……」

「ゆっくりお休み」

 先生が俺を抱きしめる腕に力を込めて。
 瞳から一筋の涙が伝っていた。それを先生が拭ってくれたような気がしたけれど、俺はもうまどろみの中にいた。

 翌朝──。

 目を覚ますと先生がキッチンに立っていて。

「す、すみません先生! 俺っ」

「おはよう。気にしないの」

 微笑みながらダイニングテーブルに促されて。
 先生が作ってくれた、だし巻き卵と焼き鮭とご飯をご馳走になる。

    食事しながら俺は今日はどうしようかと、ふと思った。昨夜は先生が一泊させてくれたけれど、先生はこれから仕事があるわけで。

    俺はまたあの部屋に帰らなければいけない?   と思ったらたちまち不安になってしまって。

「あの……俺、今、大学春休み中でずっと暇なんです。もし迷惑じゃなかったら……先生の帰り待っててもいいですか?」

 恐る恐る尋ねると先生がフッと笑った。

「僕も八神さんが居てくれたら嬉しいな」

 その言葉に俺はたちまち心が軽くなって。

 もうあの部屋に帰らなくていいんだ。
 彰成に怯えなくていいんだ。

 そう思うと心の痞えが取れて行くようだった。
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